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※※ ― 《それら》 ―
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ショウトクが坊主になってからギョウトクにふれると、今までにないものが、ギョウトクの中にはいりこんでくるようになった。
人は、それらを、 《恐れ》 《悲しみ》 《怒り》 《妬み》 などと呼ぶが、 ―― ギョウトクには、わからない。
ただ、からだにはいった《それら》を、どうすればいいのかが、わからなかった。
《それら》が増えると、体の痛みが増すのだが、ショウトクには、言えないような気がした。
弟のショウトクはやさしい。
ギョウトクと出会ってから、ずっとずっと、ギョウトクのことだけを考えてきてくれた。
そのむかし、 あつくてけぶい 中に来てくれた弟は、ずっとずっと歩いて着いた、このススキ野原が二人の『里』になるのだと教えてくれた。
そこには、ばあさまはいなくって、しらない女たちが、幾度も入れ替わってあらわれた。




