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洞窟
のぼりきったそこは、想像していたような荒い流れの川はなく、幅の広い流れが足を止めたような、ゆったりと大きな淵となっていた。
それを覆うように張り出した岩肌は、すぐそこにそそりたつ山の裾で、水はその、山の中から押し出され湧くように流れ出てきている。
奥をのぞけば、川面から高さのある洞窟になっており、ほそながく続く闇が、むこうへと続く。
匂いは強まっている。
淵に身を浸からせて、表面からはわからない強さの水流に反して、その山の中をめざす。
洞窟をしばらくすすめば川は浅くなり、幅もせまくなってゆく。
流れがはやくなってゆくにつれ、川底の大小の岩が、顔をだすようになった。
その上をつたいあるきながら、経をつづりはじめる。
相手はとっくにこちらに気づいているだろう。




