トクジさま
そのあと、本人をみかけることとなったのは、思いもしない、この街だった。
まだ、柳の新芽が出てきたかどうかという頃に、この色街でちょっとした騒ぎがおき、そのときに、スザクが、人さらいのように担いできたのが、シュンカだった。
めずらしく、何かの嫌な気配からのがれるように急いた気配の男が、こちらのからかいに「こりゃあ、おれんだ」と答えて奥に消え、どうやら部屋に結界を張るほどの慎重さで大事にし、騒ぎで負った傷の手当てをしようとしたところを「勝手にさわるんじゃねえ」ととめられた。
あの男が、こんなに人らしくだれかを扱うのかと、ひどく驚いた。
「―― トクジさま」
「んあ?」
「おれの綴り、みてくださってますか?」
「みてくださってるぞ」
「もお、なに笑ってるんですか?」
「いや。 スザクには、優しくされてるか?」
「――っな、な、なんでスザクさまのことが、」
「あ。もう一度はじめから綴り直しだなあ」
「・・・・はい・・」
真っ赤になって下をむき、こちらを責めることもしないシュンカに笑みがこぼれる。




