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冬がくる
箱の中、静かに眠っていたギョウトクがうめき声をあげて苦しげに動いた。
「ギョウトク平気かい? ―― ・・・からだの痛みはずっとなんです。それが、このごろはひどいらしくて・・・」
晒でくるんだ刀を体にまきつけながら、トクジが立ち上がる。
「ついさきごろ、坊主の《ギョウトク》があらわれたかい?」
「はい。めずらしくいそいでいるようで、あたしが外にでるまえに、なにかのお経をうたいはじめて、ギョウトクが『いやだ』と言うのに、すこし我慢するよういいつけて、うたいつづけましたけど・・・」
「―― あきらめたか」
「はい。 ギョウトクが、苦しげな声をあげはじめたので・・・」
「ほかに、何か言ってなかったかい?」
「ええ。 ここも、もう動かなければならないだろうと言っていました。 もう、 ―― 冬がくるのだからと」




