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名前をつかう
でも、と笑みを消す。
「 ギョウトクのことを、心からおもってるのは、この世にあの人だけです。 あたしも、ギョウトクは好きだけど、自分が生きてくために、世話をひきうけたんですよ。 ―― でも、あの人は、ショウトクは、そうじゃない。・・・ギョウトクのためにできることなら、きっとなんだってするでしょう。あれは、・・・何でかしらね、あたしになんかは、わからないけど・・・とにかく二人でいると、すごく気配もおだやかで。 あたしは、外に出てるから、なにを話しているかはしらないけれど」
「ふうん。あの、《ギョウトク》がなあ・・・いや、正しくはショウトクか? なんで《ギョウトク》の名前をつかってるんだ?」
コウドが首をひねったとき、今まで目を閉じてだまりこんでいたトクジが、目をあけた。
「坊主の『徳』をとるためだろ」
「『徳』を?」




