144/193
《ギョウトク》という坊主
ギョウトクにかけた小さな布団をなおしてやる女を、困ったようにみたコウドは、トクジをみてから聞く。
「あのよ、《ギョウトク》は、《ショウトク》が連れてったんだろ? それがこうして、あんたといっしょにいるってのは、ばあさんとこに、ショウトクが持ち帰ったのか?」
「いいえ。 ―― ばあさまが死んで、あたしだけがあの里にいるのはつらくって、出てゆこうと思ってたら、 いきなり来たんです」
ばあさまの弔いもおえた日の夜、なんともいえない気配がいきなり家の中へとあがりこみ、身構えて、護身用の懐刀をにぎりこんだオフクの耳に、声が聞こえた。
そうか 往生だなあ ばあさまよ
気配はまちがいなく大柄な男のもので、だれだ!ときくと笑うような声で、「『ギョウトク』という坊主よ」と名乗った。




