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遠く
ギョウトクの《存在》を知った、幼いころに一度だけ、自分には兄弟はいないのかと、母さまに問うたらば、眉をぎゅうと寄せてから、いるわけなかろう、と吐き捨てるように返され、ばあさまにおかしなことを聞いたのか、と怖い顔をむけられた。
それからは、遠かった親との距離が、さらに一気にひろがった。
目を合わせることもほとんどなく、そのうちどういうわけか、親の方がこちらをおそれるような態度になってきた。
医者の手伝いのはなしを自分でつけて伝えると、よろこびはしたが、もうほめられるようなこともなく、顔を合わす時間が減ったことに安心したようだった。
ただ見栄っ張りな両親は、里の人には孝行息子にいつも気にかけてもらっているかのように話していた。
ショウトクは、もう親を親とは思っておらず、坊主になって『徳』をとったら、ギョウトクとばあさまだけを連れて、どこか遠くで暮らすつもりでいた。




