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何もわるくない
仕事を終え陽が傾いた中を、借りた荷車をひいて帰る。
友達もないまま、この歳になったショウトクにとって、ここまでギョウトクと過ごした時間は、思い出のすべてだ。
初めて会ったときの衝撃は、今でも忘れないが、いま持つ感情は《おそれ》や《あわれみ》ではない。
書物を通して知ったことをギョウトクに教え、外であったできごとをおもしろく伝えて、自分が、兄であるかのように、ふるまってきた。
体も頭も発育が早かったショウトクは、ほかの子どものように親に甘えることもなかったし、いつのまにか、感情をおもてにださない大人びた子どもになっていた。
だが、ギョウトクに対しては、腹もたてたし八つ当たりもした。
すまんな ショウトク・・・おこってるか?
先に謝るのはギョウトクだ。 なにも悪くないのに。




