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《ギョウトク》のおとうと
「 そ、 そんな、 」
上からのぞいていたコウドは言葉が出せなかった。
女の白い手が、『箱』の中へとはいり、中の感触をたしかめると、ほお、と安心した息とともにいった。
「焼けてない!中は、焼けてない!《ギョウトク》、無事なのね?」
ずいと横から男の手がのび、箱の中にあった術札をとりあげた。役目を終えた札は粉々になってくずれる。
トクジとコウドの頭の中に声が響いた。
『 オフク 泣いてる だめだ オフクやさしい だれ? おこる人?
ギョウトクに おこる人 だめ ショウトクおこる
ショウトクやさしい ショウトク おとうと
ショウトク やさしい 坊さま 』
ああ、ともれたトクジの声は、苦しげだった。




