112/193
箱
我に返ったコウドが後を追えば、燃えさかる炎の中にたちつくす女が名前を呼んだ。
「ギョウトク!ギョウトク!返事をしておくれ!ギョウトク!」
「《ギョウトク》だって!?」
さきほど出たばかりの名前を、こんな場所できくとは思わなかったコウドは、そこでようやく、乱れた髪からのぞいた、女の顔を見る。
「―― いいから、ここはおれにまかせろ」
「だって、ギョウトクが、」
見回す小屋はせまく、人の姿はみあたらない。
「もしかして、もう逃げたんじゃないのか?」
女の悲鳴のような声が返った。
「逃げられないっ!!ギョウトクはひとりじゃ逃げられない!!はやく!ねえはやくみつけてあげて!! これっくらいの、これっくらいの、《箱》なの!!」
ばちばちと火がはぜる音。
たえられなくなった柱がめきりとゆれた。
ひときわ大きく炎が揺れると、傾きかけていた小屋が一気にくずれた。
次より、残酷でいやな描写がつづきます。ご注意を




