有名
「なんだ。 そんなに有名か?」
「西の軍隊じゃあな。 高山の坊主だというのに、きな臭いはなしになると出て、ホムラと二人きりで会っても、無事に帰った男として有名だ。 ―― おれはいちおう、隊の上のほうの人間だったから、実際に何度か見た。 かなり大柄で、派手な着物を着て待ち合わせの店に来る坊主でな。 話がおわると、そこにいる軍人をひきつれてチゴ茶屋にくりだすんだ。 ホムラは、さっさと一人で帰るような上官だったから、それが楽しみでついてくるような奴もいた。 おれは、ついて行ったことはないが、帰ったやつから聞いただけでも、 ―― むなくその悪くなるような遊びをする男だ」
あんなのが本当に高山の坊主なのか?というのに、そうらしい、と答えたトクジも眉をよせた。
「 ―― そこなんだがよ、なんでそんな男に『徳』がとれたのか、くそじじいにきいてみねえとわかんねえなあ。 まさか、モウロクしはじめたなんてこたア、ねえと思うがよ・・・」
高山で『徳』をとるには、出身場所と名前でシャムショの記録をみて確認し、いままでに『罪』がなければ、天上におわす仏性権化の許しを得るはずだ。
どうして、こんなにも《黒い噂》ばかりの男が、坊主になりえたのか、トクジにはわからない。




