『おれが させぬ』
―― その十 箱は焼けた ――
「 おれはとにかく、ほんとうに、ムシを潰していこうかと思ってる 」
言い切ったコウドは握り飯をかじりながら、飛んできた羽虫をあいた手でつかみ取って捨てた。
「・・・あほか。 それよりものヤマメが話をしてた相手をみつけねえと。 ―― そいつが、おれたちの先回りをして、ヤマメを蟲に喰い殺させて、あのでかいムシを辻に送り込んだんだ。 次にくるでかいムシが、一匹とはかぎらねえ。 シュンカが連れ去られる」
「そうはさせるか!このおれがさせぬ!」
米粒をとばしコウドが腰かけていた大岩に立ち上がって誓う。
トクジもそこに腰をかけ、見渡す限り、茂りゆれる、ススキを眺めた。
たしかに、気はあせっていた。
『離れ』から戻って、トクジはシュンカを一度天宮に返そうと思ったのだが、思った通り本人がそれを嫌がった。
次にムシがでたときには、自分も退治を手伝いたいと申し出たのだ。
ただでさえ、《守られる》ことを良しとしない男らしい性格なうえに、このごろトクジに対し、『別なもの』を抱えているせいだろうと思い当たった男は、相手の強い視線にのせた懇願に、勝てなかった。




