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箱に蟲
「む、ムシに?」
裏返ったコウドの声にうなずき、トクジをにらんだ女は続けた。
「 ―― あたしと違って、ここにながいこといる、ってのは気の毒だけど・・・、初めから気味が悪くてさ。 一人でしゃべってることがよくあって、それも病のせいかと思ってたら、見たんだよ。あの女、襟の間に何か箱を挟み込んでてね、その箱の中から、 ―― 蟲がでてくんのを」
「やはり!」
「なんだい、コウさん知ってたのかい?そうなんだよ。 その箱の蟲にしゃべってたのさ。 男衆とか世話番のみんな、そんなのには慣れっこだし、あたしも気味が悪いだけで、別にかまわないと思ってたんだけど、 ―― あるとき通りすぎに聞こえちまってさ」
そう。頬に傷のあるのが、トクジさんだよ
「箱ン中の蟲に、トクさんのことしゃべってんだよ。腕がたつとか、『徳』を取ってるから坊主の術がつかえるんだとか教えててさ、そこではじめて、しゃべりかけて、言い合いになっちまったのさ」
そのうえ、――




