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薪割り
そんなふうに、転々と店をかえてすみ続けているので、どこの《男衆》とも顔見知りだし、昼寝は好きだが、『怠け者』ではないということで理解されたトクジは、三十もすぎた歳になって、はじめて『頭』なんてものを任されたのだ。
任されても、何の変わりもないが。
ツバメに追い払われてしかたなく台所にゆき、土間で、店の男たちが夏瓜をかじっているのに、うんざりした顔をして外に出た。
風呂場の釜近くでは、火番の男たちが小さな桶で行水をしている。
トクジもどうかと声をかけられたが、笑って手をふり、そばの丸太に足をむけた。
「働きもしねえで、寝て風呂に浸かってじゃあ、ツバメさんに、これで首締め上げられちまう」
首の手拭いを額にまきなおし、積まれていた木片とナタをとりあげた。
―――― この暑さは、なんだってんだ?
もろ肌脱いで、薪を次々につくるトクジは、目に入りそうな汗をぬぐい、ナタを振るい落とす。




