ましろのつかんだ幸せ
人は、長くてくらいトンネルをくぐって、赤ちゃんとして生まれます。ずっとお母さんのおなかにいて安心していましたから、とつぜんお外に出ると、心細いかもしれません。
うさぎのぬいぐるみの私も、長い長いトンネルを通って、生まれてきました。そして気がつくと、私と同じような見た目をしたうさぎさんたちが、たくさんいました。うさぎさんたちは、みんな頭にお花とリボンをつけて、かわいらしくしています。
私はずっと、おしゃれなうさぎさんたちにかこまれて暮らしていました。かわいらしいものを見つけたり、どの子が一番かわいいのかを話し合ったり。それが私にとっての当たり前だったのです。
「あなたより、私の方がずっとかわいいのよ。だってあなたは、なんにも色のない白色だけど、私はみんなから愛される黄色なんだから」
と、心ないことを言う黄色いうさぎさんもいました。
ある日、うさぎさんたちと一緒にいると、いきなり私の体が宙に浮きました。女の子のミサキちゃんが、私を選んでくれたのです。私はうれしくなりました。でも、自分のことしか考えていなくて、うさぎさんたちにこう言いました。
「私はみんなよりも先に選ばれたの。だから、私が一番かわいいの」
うさぎさんたちはツンとしてしまいました。あの黄色のうさぎさんは、知らんぷりして、私と目を合わせませんでした。
ミサキちゃんは私に、「ましろ」と名前をつけてくれました。私は初めての世界に、ドキドキしていました。でも、私の「当たり前」も長くは続かなかったのです。
ミサキちゃんのお家には、ぬいぐるみがたくさんいて、みんな仲良く暮らしていました。けれども私には、うすよごれていたり、毛羽立っていたりするのが、気になってしまいます。おしゃれをしているぬいぐるみが、誰もいなかったのです。
私は何ヶ月もしょんぼりして、すねていました。今思うと、せっかくおしゃれをしていても、お顔が明るくなかったら台なしになっちゃいますね。ミサキちゃんは、なかなか、ほかの子たちと仲良くなれない私を心配して、どうしたら私が笑顔になれるかなと一生懸命探してくれたのです。
その中で私は、一まいの紙に心をひかれました。ドレスや宝石、かわいらしいものがならんでいます。それを見て、
「こんなところに帰りたい」
と思いました。本当は、とてもさみしかったのです。
私が気に入ったのを見て、ミサキちゃんはプレゼントしてくれました。私は時々それを見て、心をなぐさめていました。
私はずっと、
「どうしてみんな、私のことをわかってくれないの」
と思っていました。
そんな時、ある言葉を耳にしました。
「自分のことだけを考えている人は、いつまでたっても幸せにはなれない」
ミサキちゃんがそう言っていたのです。
私は、どういうことだろうと思って、視線を注ぎました。するとミサキちゃんも気がついて、
「ましろ、どうしたの?」
と聞いてくれました。私は、さっきの言葉が気になる、と伝えました。
するとミサキちゃんは、
「ああ、あれね。お釈迦さまっていう、えらい人がインドにいてね、その人が言った言葉なんだよ。自分がしてほしいと思ったことを、ほかの人にもするの。そうしたら、私もうれしいし、相手もうれしいでしょ? そうやって幸せが広がっていくんだよ」
とお話ししてくれました。難しいことはわかりませんでしたが、私はとても、心ひかれました。
私はもっと知りたいと思って、まわりのぬいぐるみに聞いてみました。
「どうしたら幸せになれるの?」
「幸せってどういうコト?」
おさるのぬいぐるみが聞きかえしました。言われてみると、うまく言葉にできません。
「ええっと、明るく生きられること?」
「じゃあ今、幸せじゃーん! やったぁ……って、それじゃダメ?」
「うーん……」
こうした話をしても、みんなチンプンカンプンでわからないと言いました。
私はまた悲しくなりました。でも、悲しむのはやめようと思いました。
私はほかの子たちのいいところを見ようと思いました。すると、おしゃれとはちがうかもしれないけれども、おさるのぬいぐるみはいつも元気で、みんなを楽しませてくれてます。こねこのぬいぐるみはのんびり屋さんで、一緒にいるとなごみます。
「みんなも、いい人たちだなあ」
そう思うと、ふしぎだけれども、みんなと仲良くなれるようになっていきました。
「ましろは、おしゃれでかわいくて、いろんなことを知っていてすごいね」
とほかの子たちがほめてくれるようになりました。
そうだったのです。私は自分がかわいいと思って、ほかの子たちを見下していたのです。ほかの子にもいいところがたくさんあるのに、自分のことばかり考えて、見つけられずにいたのでした。
変に気にすることがなくなったからでしょうか。私はドレスや小物を見ても、あまり心をひかれなくなったのです。今いるところにも、いいところがたくさんあると知ったからだと思います。
ミサキちゃんもおどろいて、
「ましろ、変わったね」
と言ってくれました。
「そうかも」
私はうれしくなりました。
だからもし、ミサキちゃんのお家に来るまえに一緒にいた、うさぎさんたちに会えたら、こう言いたいなと思います。
「私はみんな、とってもかわいいと思う。でもね、どうしたらほかの子も、もっとかわいくなるかを考えて、教えてあげたら、もっとみんな幸せになって、みんなかわいらしくなると思うの」
それが幸せなのかな、と今は思っています。
最後までお読みくださって、ありがとうございます!
我が家にはぬいぐるみが50体くらいいまして、一緒に暮らしているので、その中の一体をモデルにして書いてみました。うさぎさんなのですが、ぬいぐるみらしからぬ知性を発揮して、今日も瞳が輝いているように見えます(笑)
楽しんでいただけたら幸いです。