第95話「母親」
突如の思わぬ光景に俺は動揺をしながら告げる。
「その……父さんもここにいるのか?」
先程からの鬼の形相が消えない。
いや……先程よりも睨んでいるような──
「そう言う話を変えるところも父親そっくりね!
まさか……可愛らしい女の子達を、侍らせながら街を闊歩しているなんて……」
「母さん……それは……その」
「なんて嘘よ! フェスティバルお疲れ様」
そうは言うが、先程の鬼の形相は本物だった。
だが、すぐにいつものような優しい笑顔にスズハはなったが。
だいぶ怖かった。
「ありがとう! 母さん」
「セナちゃんが朝ごはん作って待ってるわよ〜
早く起きなさい」
「あっ……はい!」
俺はそう促されて高速で顔を洗い、
リビングへと向かった。
「おはようなのだよ〜タクロウ」
「お兄様! おはようございます」
「タクロウ様 おはようございますです」
「主殿おはようございます」
「あぁ! おはよう」
セナ、レイ、ルーク、アテナが挨拶をする。
その光景を見てものすごく微笑ましく見ているスズハ。
あれ? おかしいクロがいない。
また出かけたのか?
「大事にしているのね! ならいいわ」
「はぁ……母さんその……これは」
「へぇ〜」
「あの……はい!」
俺の彼女でも……何でもないよと母さんって言ったら、
絶対に地雷だと思い、俺は言葉を飲み込んだ。
「スズハ殿、どうぞ、こちらへお座りください」
「あらあらありがとうね! アテナさん」
アテナはすかさすがスズハの席を用意した。
「後、アタクシの事はさんはいらないですお母──
スズハさん」
アテナはスズハの事をお母様と呼ぼうとしたが、
少し躊躇ってスズハさんと呼んだアテナ。
「なら、私はさんって呼ばない代わりに、
好きなように呼んで欲しいわ」
アテナの少ししゅんと顔を直ぐ気づいて告げた。
その言葉に目を輝かせたアテナ。
いや、満面の笑みだ。
「お母様、ありがたき幸せ」
その光景を見て、お茶を持ちながら、
テトテト歩くルーク。
その先にはスズハだ。
「あの……暖かいお茶です」
「あらあら、ありがとうねルークちゃん」
お茶を受け取り。
ルークの頭を撫で撫でするスズハ。
「 その……」
すぐに気づいてスズハは告げる。
「ルークちゃんも好きに呼んでいいのよ! 私の事」
「はい! お母様」
ルークとアテナは徐にアピールしている。
だが、まだずっとスズハさんと呼んでいた人物が、
ひょっこりと現れる。
「あの……僕も」
「あら! セナちゃんも? 好きに呼んでちょうだい!」
「お母様! よろしくお願いいたします」
「まあまあよろしくね! セナちゃん」
セナはニパァ〜としながら会釈をスズハにした。
何この空間 ……俺、めっちゃ居ずらい。
何か……お母さん公認とかになってるし。
どういう事。
俺は無言で朝食を食べている。
だが、少し気になって、俺は告げた。
「母さん、妊婦なんだから。大丈夫なのか? 旅とか」
「大丈夫よ? ここまではアポートで転移して来たから。
そんなに身体は負担かかってないわよ。
それと、クリスとアリエラと一緒に来たから。
一人じゃなかったし! 無事〜無事〜!」
「そうか、なら良かった」
そう俺は言ったものの……。
アリエラって人は誰だ?
だが、先程の話をまとめると……。
クリスも女の子を侍らしていたのか。
も、ってなんだよ……認めているよ、俺。
だが、クリスが。
いやいや……そんなわけ。
結構、見た目真面目そうだぞ。
眼鏡とかかけて、学者みたいな格好していて。
女とは疎遠みたいな雰囲気なのに……。
まあ、イケメンだが。
そう考えに耽っていると、
俺が泊まっているヴィラに人が入って来た。
「やっと起きたのか! おはようタクロウ」
「あぁ! おはよう父さん!」
クリスが笑顔で挨拶をするが、
俺は後ろにいた人に目を奪われた。
それは──
スズハと同じサラサラ髪の金髪。
整った顔にくっきりとした赤眼。
だが、その視線はルークと絡み合っていた。
そして、ルークと視線が絡み合った後、
すぐさまルークの元へ行き、抱きしめ頭を撫でた。
「良かった……ここに居たのね。
心配したのだから」
「アリエラごめんなさい……私……」
「私……か。もう男の子の振りをするのを辞めたのね」
「はい……タクロウ様のおかげです」
アリエラはルークを抱きしめながら、話している。
ルークとアリエラは顔を見知りらしい。
「まさか、私の嫁の探し人が、まさか息子の所に居たとはね〜
縁って本当にすごいものだね〜」
ポカンとしている俺に、
クリスは意味わからないことを言った。
「ええええええええええ!!!!!!!」
また、俺は驚愕した。
そして、俺はあんぐりしながらクリスをガン見していた。
「あぁそうか言ってなかったもんな、はははははは」
「父さんダメでしょ! 母さんいるのに女って」
俺はすかさすがクリスに言葉を飛ばす。
だが、その言葉に反応したのはスズハだった。
和やかな空気が豹変した。
「へぇ〜どういう事かな。タクロウ!
本気じゃないのに四人の女の子を相手しているの!!
ちょっと、これは問題かしら」
「えっ? えええ?!?」
スズハをフォローしたつもりが、
また鬼の形相になるスズハ。
その光景を見て、クリスは苦笑いしている。
「一夫多妻は結構多いのよ……」
「そうなのか……父さん」
「そうだ! タクロウちょっと買い物行こう!」
「あぁ! 行きます父さん」
クリスは助け舟を出し、
俺はそれに乗った。
この場とこの空気はまずい。
俺とクリスは遁走した。
そして、ヴィラの浅橋を歩きながら俺とクリスは、
雑談していた。
「父さんどういう事だよ。母さんが二人いるって!!
あの人誰だよ!!」
「ごめん言ってなかった私が悪い。
あの人はアリエラって言って私の嫁さ。
後、二人じゃない四人だ」
「かっ……」
「また、紹介するから。
ちょっと今はそれぞれの国で忙しいみたいだから」
俺はもう呆れ果てていた。
だが、人の事は言えない。
むむむむむ、俺は……俺は。
「はぁ〜ところで父さん、何その格好」
クリスはサングラスに帽子にマスク。
完璧に芸能人が私生活をするスタイルで歩いていた。
「ここはちょっと色々あってな。ははは」
俺は深く聞かなかった。
何故ならば偽名している上に、
転移アポートがないド田舎に住んでいる人だ。
しかも、それで俺と同じ転生者だ。
きっとろくな事がない……。
聞かない方がいい。
「だが、フェスティバル良かったよ。
さすが私の息子だ」
クリスはサングラスを少し外し目配せさせながら告げた。
その言葉はとても嬉しかった。
「ありがとう、父さん」
同じ転生者同士、父親で息子。
血は繋がってないが親子だ。
クリスが褒めてくれるだけでこんなにも嬉しいのだ。
俺は。
この人の過去を聞こうとはしない。
いずれまた、俺を驚かせるのだろう。
心臓に悪いが……。
「ゲエハハハハァ。居た!!! タクロウ!!!!」
聞き覚えのある下卑た笑い。
俺は視線を転じる。
海岸沿いに居たのは、
金色のルベルト──
いや──光のブックマン、NO.Ⅲだった。
綺麗な海には似合わないガラスくずのような鋭い風の音は、
ただならぬ展開を告げるようであった。
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