第94話「宴」
街はかなりの賑わいを見せていた。
半壊している場所が沢山あるのにも関わらず、
多くの露店が至る所で店を構えていた。
閉会式までの二日間が、
街の人にとってはかなり稼ぎ時みたいだ。
しかし、昼間はあんな戦闘があったのに、
街の人は、全く気にしていないようだ。
自分の家が無いかもしれないのに。
だが、その理由はどうやらウインドフィッシュで、
超高級魚とされるシードやクリスタで街はかなり潤うらしい。
そして、そのお金ですぐに修復、建設をする。
建設する為に人を呼び込み。
またお金を落とさせる。
循環させているみたいだ。
お金の流れは不思議だ。
街を歩くと、
夜空を覆い尽くすように打ち上がる、色どりの光は、大きく広がり。
俺はそれと同調する様に瞳を大きく開け、見つめていた。
子供の頃は怖かった。
だが、徐々に年を重ねるとワクワクし、
そして、いつしか花火を見なくなった。
だが、沿道で見慣れていたこの夜空の光景は、
何故か全然違うものだった。
それは異世界だからではなく。
元の世界だったとしても、周りにいる人がそうさせるのだろう。
「お兄様! 綺麗ですね」
「綺麗なのだよ〜」
「みゃあ!」
「タクロウ様! また上がりましたよ!」
「主殿! 美しいですね!!」
「あぁそうだな!」
俺達は見上げていた。
だが、何故かギルドから出て、ずっと視線を感じるのだが。
いつもの視線は嫉妬だが……。
今回は何か違うような。
「なんか、見られているような?
気のせいか?」
「フェスティバルをみんな見ていたから!
有名になったのだよ〜」
「そうなのか?」
「ルルが解説をされてましたからね!
お兄様の勇姿がバッチリ、街の人に届いたのだ思います」
「だからジロジロ、会う人会う人見ているのか!
でも、何で声をかけてこないんだ?」
「主殿! それは御法度みたいです!
フェスティバルを出た冒険者には尊敬の意を込めて、
自らは声をかけないというのが伝統なのです」
「なるほど」
マナーがいいんだな。
そして、俺達は露店を食べ歩きをした。
ルークが目を輝かせてある店を見ている。
「丸ごとのイカ焼きですよ! タクロウ様」
言い方と俺の袖をちょんちょん引っ張る姿は、
愛らしい。
「イカ焼きか〜美味しそうだな。
すいません! ひとつ貰えますか?」
俺の言葉に目をぱちくりさせているおじさん。
そして、俺をずっと見たまま固まっている。
「あの……。大丈夫ですか?」
「何緊張してんだい!」
隣にいる奥さんらしき人がおじさんの背中を叩いたが、
目をまだ、ぱちぱちさせている。
「ごめんね! この人、フェスティバルの映像を見てから。
円卓の騎士のファンになっちゃって、
まさか、本人が自分のお店に来てくれるとは思わなくて。
緊張してるのさ〜
全くだらしいね〜」
「仕方ないだろ!
防御魔法をあんな使い方するんだそ!!
すげぇだろ!!
しかも、あのバチバチした音はこの今鳴り響いている花火のように、
俺の心に響いたんだよ!
あんちゃん! 金いらねぇ。クランメンバー分持ってってくれ。
俺はあんたのファンになった!!」
おじさんは急に饒舌になり。
興奮しながら捲し立てていた。
俺のファン……か。
何か嬉しいな。
「いやいや! 払わせてください」
セナ達はまるで自分の事を言われているように、
ニコニコ微笑んでいた。
「お兄様! ありがたくいただきましょう」
「そうなのだよ!」
「そっそうだな! ありがとうございます」
俺はおじさんに会釈をした。
「いやいや! こちらこそ来てくれてありがとう!
頑張ってトップクランの称号。
ダイヤ・キングになってくれ!
個人でも最高ランクのスペードになるんだ。
絶対! あんちゃんならなれる!」
「頑張ります!」
俺の姿が見えなくなるまで、
おじさんは手を振り続けていた。
「主殿は人気者ですね!」
「みゃあ〜」
「びっくりした。こんな事あるんだな!」
「タクロウ様! すごいです!!」
俺はふと── 思い起こす。
「そう言えば! 前にも奢って貰った事があるんだよ!」
「そうなのですか? 主殿」
「そう言えば、そうでしたね、お兄様!
お兄様が退院された後でしたね!」
「そうそう!
褐色の肌のムキムキの男だったな!
名前は聞けなかったけど」
「……そうなのですか? 主殿」
「ちょっと怖かったけどな!」
(まさか……。いや……まさかな)
アテナは俺の言葉を聞いて、少し表情が変わった。
「アテナ、大丈夫か?」
「主殿、このイカ焼きは絶品ですね」
「タクロウ様! うまうまです!!」
ルークは口パンパンにイカを入れて。
リスみたいに食べている。
可愛い。
だが、アテナはそう言うが、
何か考えに耽っているように見えた。
アテナもわかりやすいからな。
「明後日はフェスティバルの閉会式なのだよ」
「どこでやるんだ??」
「明日、三位までのクランが発表されます。
その三つのクランは宮殿にて、
報酬を受け取る事になっているみたいです。
その光景は大型ビションで中継されます」
「おぉ!」
そう、話していると。
目の前には見慣れた顔が──
リリー、セバスチャン、ソノ、ピケ。
クラン、珊瑚のメンバーだ。
セバスチャンがすぐに近寄り、
俺に会釈をする。
「タクロウ様、先程は本当に助かりました」
「セバスチャン! いや、俺は何もしていませんよ!」
「いえいえ、そのようなことはありません」
さっきから褒められてばかりでなんか照れる。
俺は頬をポリポリ掻きながら、聞いていた。
そこに追撃するようにソノが話し出す。
「僕もタクロウ様に助けていただきました!」
「ソノ! だから、俺は何にもしてないだろ!
二度言うけど」
「私はタクロウ様が目標です。
必ず私は貴方を超えます」
いつもクールなピケは急にそう告げた。
それを後ろから見ていたリリーが近づいてきた。
「ふ〜ん。なかなかやるじゃないタクロウ。
でも、カインの方が強かったわね」
「あぁ、そうだな。カインは強かったな!
次は勝つけどな」
「ふ〜ん」
リリーはそう言いながら、
少し耳を赤くしていた。
ツインテールがぴょこぴょこしている。
ヘンナムシじゃないのか。
何か言われなくなると、少し名残惜しいな。
そこに、勝ち誇った顔で
レイとセナがニヤリとしながら現れた。
「あらあら! とうとうお兄様の実力を目にして感服しましたか!」
「ふむふむ! 見惚れてしまったのだよ!」
「ふん! まぁ、確かにすごかった。ふん。
その……虹色ダイヤの件。よろしくお願いいたします」
リリーは深々頭を下げた。
大人の女性だな。
「死ねぇ!!!!」
「あぁ! わかっ──いでぇええ!!!!」
俺が話している最中に、
リリー告げながら俺の足を思いっきり踏み潰した。
その光景を見ていた。
セナ、レイ、アテナ、ルークが……。
目のハイライトを消して、背後に般若を背負っている……。
「り、リー!!!!!!!!」
「ほぉう!!!!!!!」
「主殿を傷つけるとは……!!!!!!」
「むぅううううううう」
リリーは「ばーかばーか! べろべろばぁ〜」って言って、
すぐに走って逃げていった。
子供だな……。
それを追従するようにセバスチャン、ソノ、ピケは会釈をし、
消えていった。
そして、俺達は闇に逆らって光りつづける街を、
謳歌するのであった。
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翌日。
頭を撫でられている優しい感触。
暖かいぬくもりが伝わってくる。
「もう時間よ! タクロウ」
瞼を開けて、その声の主を確認する。
「母さん! どうしてここに??」
「レイから聞いたのよ」
スズハは何故か……む〜っとした顔をしている。
初めて見る顔だ。
「どう……したんだ母さん」
「レイ、セナちゃんにそして、アテナさん。
しかもまだ幼い女の子のルークちゃんまで。
誰に似たのかしら!!!」
「母さん……なんの事だ?」
「へぇ〜」
俺は初めて見る。
母親、スズハの鬼の形相を……。
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