第93話「ひととき」
なんか……寝苦しい、身動きができない。
ん〜なんだこれ。
雁字搦めにされている様な。
ん〜。
重たい、苦しい。
しかも、五月蝿いし。
何だ?
俺はハッと頭が覚醒し、目を覚ます。
ここは何処だ?
瞳に映る光景は白い天井。
そして、俺は思い出す。
そうか、あの後、俺はまた……気絶したのか。
勝ちたかった。
セナみたいに圧倒的に……。
悔しいんだな、俺。
俺はベッドに横たわりながら、
先程の戦闘に耽っていた。
だが、身体が重い。
いや──動かない。
「お兄様、こんばんはです」
「みゃあ〜」
布団からひょっこり顔を出すレイ。
むにゃむにゃとまだ眠そうで目を少し擦って、
ニッコリと微笑み顔を覗かせる。
俺の横にはクロがちょこんとしている。
フェスティバルの際はいなかったが、
気を使わなくていいんだぞクロ。
「みゃあ〜」
俺は横になりながらレイに話す。
「こんばんは? もう──夜なのか??」
「はい! お兄様。
お疲れになられているようでしたので、
ギルド内の医療施設をお借りしております」
「そうなのか! ありがとうなレイ」
俺は起き上がろうとした。
だが重い、柔らかい。
俺は布団をどかす。
重さの原因。
それは、セナとレイとアテナがベッタリし。
ぎゅうぎゅうにくっついて、すやすや寝ていた。
俺はそれを目にした瞬間。
頭の中がスパークし、全身に柔らかい感触が伝わった。
やばい……。
これはやばい……。
どこかの貴族の寝方かよ。
硬直している俺を見て、
手を口に当て、ふふふっと笑みがこぼれているレイ。
「お兄様、今日は私は何も言わないですよ〜
ですが! お兄様、レイもむぎゅむぎゅしてほしいです。
いつもセナだけずるいです」
レイは両手を広げて、ニコニコしている。
俺は少し照れながらハグをする。
「こっ……こうか? レイ」
「極楽です〜お兄様」
レイのサラサラの青髪が俺の頬に触れる。
可愛い……むむむ。
そして、クロも俺の肩にちょこんと座り。
スリスリさせている。
俺は無意識にレイの頭を撫で撫でする。
レイが俺の顔に頬を寄せ。
スリスリさせている。
「ふふふっお兄様〜」
「レッレイ──ちょっと近いぞ!」
「ふふふっ」
すると、むくっと目をゴシゴシさせながら、
ルークが、起き上がる。
「たくろうしゃま?」
「ルーク、おはよう!」
ルークはハッとした顔をして、目をぱちぱちさせている。
俺とレイが抱き合っている姿を見て。
じーーーーっと見ている。
「たくろうしゃま、ルークもハグハグ」
「ダメですよ〜お兄様は私を愛でているんです!」
「やや! ルークがハグする!!」
珍しく、レイが譲らない。
だが、ルークの一人称がまた変わったような……。
しかし、可愛いな、ルーク。
俺は徐にルークのぷにぷにの頬をちょんちょんする。
ルークはまだ寝惚けている感じだな。
ぽけ〜ってしている。
「たくろうしゃま、ルークも抱っこ」
「わっわかった、よしよし」
ルークは膝の上に乗り、蝉みたいにくっついている。
そして、また目を瞑る、ルーク。
だが、俺はルークの姿を見て、思いだす。
耳が長くない。
あれ?
どうしてた。
先程の戦闘の際、目にしたエルフの様な長耳が、
戻っている。
突如、外から爆音がダーン、ダーンと室内に響く。
「なんだ? なんの音だ」
いや──俺はこの音に聞き覚えがある。
花火だ。
異世界で花火の音が聞こえるなんて。
その音でアテナとセナが起き上がる。
セナとアテナは俺を見て高速で覚醒した。
俺をジトって見ている、目線を外さない。
そして、徐々に二人は、頬を膨らませている。
「主殿、アタクシも……その……」
「僕も抱っこなのだよ!」
二人の圧力も気にせずに、
ルークは膝の上で蝉のようにくっついている。
そして、横からぴとりとくっついているセナ。
肩にちょこんと乗っているクロ。
死角がなかった。
俺は何故か、申し訳ない気持ちになり。
ルークをそっと剥がし寝かせた。
「少しだけな、セナ、アテナ」
「エヘへ〜やったのだよ」
「主殿〜ふふふっ」
俺はいつから、
こんな王様みたいな事をする様になったんだ。
すぐさまアテナは俺の背中に手を回し、
正面から抱きつく。
すかさずセナは左側から。
「主殿〜主殿〜」
「疲れが取れるのだよ〜」
アテナの双頭竜の暴力が────
こうかはばつぐんだ!!!
「アテナ、その、あのくっくっつきすぎ……その」
アテナは首を傾げて少し離れた後、ふと気づいた。
「主殿は胸が好きなのか?」
「みゃあ〜!」
肩にちょこんと乗っている、クロが反応をする。
セナとレイの目線が痛い。
いつの間にか起きていたルークは、
自分の胸をとんとんさせている。
「お兄様! 私は育ち盛りです」
「僕もポテンシャルはあるのだよ」
この流れはよくない。
話を変えよう。
花火の音がする中で俺は何をしているんだろう。
でも……本当に嬉しそうな顔をしているな。
だが、話を変えよう。
「その、フェスティバルどうだったか教えて欲しいんだけど?
いいかな?」
俺がそう告げた後。
レイ、セナ、アテナ、ルークは真剣な顔をし。
フェスティバルの話をそれぞれ語り出した。
レイとセナは俺とはぐれた際、
クラン、赤羅の群青のメンバーをたくさん倒していたらしい。
そして、また驚いたのはルークとアテナだ。
あの、千血アディラと戦って勝ったと言う。
しかも、トドメをさしたのはルークだ。
俺はルークをいっぱい褒めた。
セナとレイとアテナにも褒められたルーク。
ルークは喜色をみせていた。
だが、ルークとアテナはすぐにたまたま勝てた。
運がよかったと付け加えた。
そう言うが──心の底からすごいと俺は思った。
レイとアテナが話すには鬼神ハドリーは別格だったみたいだ。
千血も相当なのに別格とは恐ろしいものである。
千血と鬼神はクラン、七色の十字のハート。
七色の十字にはその上のランク、スペードが三人もいるらしい。
その冒険者は、どれくらいの強さなのだろう。
俺は考えるだけで内心ため息が出る。
そして、俺の番。
俺はクラン、赤羅の群青。
金色のルベルトが光のブックマンだった事を告げた。
セナ達は一驚していた。
だが俺が気になったのは、
光のブックマンだと言うのに、語尾にアールっと言っていなかった。
それが何故か頭の中で引っかかった。
その後、カインとの戦闘を話した。
俺の中では惨敗だった。
いや、どの戦いも正直、俺は惨敗だ。
全く──活躍が出来なかった。
「俺はカインに惨敗した。
こんなに悔しい想いをしたのは……初めてだ。
俺はもう負けたくない。
セナ、レイ、アテナ、ルークよりも強くなる。
いや──俺もう誰にも負けない」
俺の表情、言葉で理解をし。
何も言わず、ウンウンと頷き、話を聞くセナ達。
そして、セナは告げる。
「じゃあ、僕ももっと強くならないとなぁ〜」
「セナは最強だろ!」
「エヘへ! 僕も絶対負けない」
「あぁ」
ふふふっと笑顔を見せるセナ。
「お兄様! 私も鬼神ハドリーに次は勝ちます」
「あぁ! そうだな一緒に強くなろう」
「はいお兄様」
レイが魔法で怯えてた姿が嘘のように見える。
強いな、レイ。
「タクロウ様、ルークも強くなります!
自分に勇気が持てるように」
「俺も勇気が持てるよう精進する」
「ルークの憧れはタクロウ様です!」
「そっそうか? ありがとうなルーク」
「はい!」
ルークは俺が憧れなのか……。
瞳は雄弁だな。
頑張らないとな。
「主殿! アタクシは……その、
魔法を使えるようになります!」
「アテナは魔法は使えないのか?」
「その……はい」
「俺と同じだな! 俺も使えなかったんだ!
俺でよければ教えるよ! なんてなセナの──」
「是非とも御教授をお願いします」
「俺でいいのか? 適任が」
「主殿がいいのです」
「そうか」
アテナは魔法を使えないのか!
なのにあのバカ強さ。
魔法が使えるようになったら、どんだけ強くなるんだ。
俺が先生か、少し照れるな。
『アタクシもあなた様の為に魔法を教えます。』
そんな事いいのか?
女神が教えたりして。
なんか色々あるんだろ?
『ふふふっ! あなた様。
ワタクシも参加させてくださいませ』
そうか、闇の女神様が教えてくれるなんて、
その、頑張って強くなります。
『わかりましたわ』
ありがとうクロ。
クロが念話で俺に会話をする。
女神様が先生とか……。
これは……強くならないと!
ありがとうクロ。
「お兄様、花火まだやっていますから、
見にいますか?」
「あぁそうだな! めっちゃ見に行きたい!」
「行くのだよ〜」
「主殿、行きましょう!」
「ルーク! 花火見るの初めて!」
「みゃあ〜」
体の内側から灯がともったような、
強い想いを抱きながら、俺は施設を後にした。
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