第92話「祭りの終わり」
────遡ること。
ハンマーを片手で軽々と持つ、ちみっ子。
金髪ポニーテールの鬼神ハドリー。
少し距離を空け、相対するのはレイ。
オリハルコンをぺちゃんこにさせるくらいの、
魔強化使いのハドリー。
ハドリーの外見は何処からどう見ても、
ルークと同じ可憐な少女。
だが、警鐘がする……ハドリーと相対してから。
レイは深紅のレイピアを身構える。
「〝炎槍〟」
炎の槍がハドリーへと向かう。
だが、ハドリーは虫でも払うように、
簡単にハンマーで魔法をかき消す。
「俺を楽しませろよ!!」
ハドリーはグッと踏み込みをつけ、
爆速でレイとの距離を詰める。
そしてそのまま、ハンマーを振りかざす。
「〝火球〟!!!!」
正面から向かうハドリーに対して、レイは魔法を唱えた。
中級火魔法の大きな火球がハドリーを襲う。
だが、ハドリーは向きを変えず──そのまま突っ込んだ。
ハドリーは火球に呑まれ姿が消えた。
だが、レイの警鐘が鳴り続ける。
「この程度か!!!!」
火球をかき消し、スピードをそのまま──
ハドリーはレイにハンマーを振り下ろす。
レイは身体を捻り回避する。
だが、振り下ろすハンマーで凄まじい爆風が現れレイを襲う。
レイはハンマーの衝撃波で吹き飛ばされる。
ハドリーはそのまま跳躍して、レイを追撃する。
一瞬で間合いに入り、ハドリーはハンマーを横薙ぎする。
宙に浮いている体勢でレイは武技を放つ。
「──くっ!! 〝彗炎〟」
レイのレイピアが真っ赤に揺らぎ、
ハドリーのハンマーとぶつかる。
ハドリーのハンマーは武技で止まる。
だが、止まっただけである。
レイは武技を放った。
南火流の武技をだ。
圧倒的な一撃を誇る、南火流の武技を──
ただのハンマーの横薙ぎで抑えられた。
開会式の姿を事前に目にしていなければ。
私は瞬殺だったと悟るレイ。
見た目は普通の可憐な少女なのに、
鬼恐ろしい怪力。
誰が予想がつくという。
レイは地に足が着くと同時に──魔法を唱えた。
「〝炎槍〟」
魔法をハドリーはハンマーで振り払おうとするが──
反射的に避けた。
そして──ハドリーは青ざめた。
(何だこれは……炎槍じゃない)
レイが放った炎槍は炎の槍ではなかった。
ビームだった。
圧倒的な魔力を込め、放った中級火魔法は規格外だった。
セナとの修行でレイは全てを取り戻したのである。
「ハッハッハッ!!! 俺を楽しませる!!」
ハドリーはハンマーを叩きつける。
地面から岩が突き出しレイに向かう。
「〝彗炎〟」
(これは上級土魔法の突出岩!!
無詠唱でこの質量……!!!)
レイが武技を放ち、襲いかかる岩を砕く。
だが、ハドリーは岩と別の方向からハンマーで攻める。
「〝烈火〟」
赤い斬撃がハドリーを襲う。
ハドリーはすかさず魔法を唱えた。
「〝岩盾〟!!」
アテナが大剣で放った赤い斬撃は、
分厚い岩の壁で止まる。
「すまない、一対一を邪魔をして」
「いいえ! 助かりました。今の私では一人では倒せません」
アテナがレイの元に降り立ち、告げる。
レイはニッコリと微笑み、少し安堵する。
「ですが、どうしてここに?」
「主殿が守って欲しいと」
レイが疑問顔を浮かべてアテナに質問した後、
はわわわわぁと表情を赤らめていた。
「お兄様……!」
「アタクシも参戦する!」
ハドリーが先程とは全く違う、
威圧感を放つ。
「アディラの妹が参戦か……。俺も少しは力を入れないとな〜
お兄様? あの男の妹か!
しかし、何だこのバカみたいな音は」
(お兄様のバチバチ魔法の事を言ってるのですね。ハドリーは)
「ふふふっ!! 主殿はスーパー強いのだ!」
自慢げにハドリー話すアテナ。
同調するようにウンウンと頷くレイ。
「そうですね、お兄様が入れば、フェスティバルは優勝です」
そのレイの言葉、やれやれとポーズを取り、
空に視線を転じるハドリー。
「お前のお兄様の相手はカインだ。
空の支配者だ。地を這う魔法使いがどうやって勝てる」
ハドリーがそう言い放った直後、
ルルの解説と共に大型ビジョンにタクロウが映し出された。
「すごいだぴょん!!
なんですかあれ!!!
防御魔法を足場に使ってるぴょん!!!!!
しかも尋常じゃない数だぴょん!!!」
ハドリーは大型ビジョンを見て──驚愕していた。
「バカな……魔力盾の数。
魔力盾を空中の足場にして戦うだと……
ふざけてやがる!」
それを見てニヤニヤしているレイとアテナ。
「地を這うなんでしたっけ?
空の支配者?
お兄様は最強です!!!」
ハドリーに指を指し、ニヤニヤして告げるレイ。
その言葉と瞳に映る光景を見て、
まだ目を白黒させているハドリー。
「〝烈火〟!!!」
アテナが放った赤い斬撃がハドリーに向かう。
ハドリーはハンマーをクルクルし、
そして、地面に叩きつけた。
その衝撃波だけでアテナの斬撃が止まる。
「じゃあ、俺はすぐにカインの所に行かないとなぁ〜」
その瞬間────当たりが眩しい閃光に覆われた。
ハドリーとアテナは眩い光にすぐ目を閉じた。
だが、何度も閃光を目にした事がある、
レイはすぐに対応をする。
「〝炎槍〟」
レイが放ったビームがハドリーを襲う。
しかし、ハドリーは目を瞑りながらも簡単に回避をする。
「────なっ!!!!」
レイは一驚する。
このチャンスで取ったと──思った。
だが、百戦錬磨のハドリーは簡単に避けた。
突如──物凄い勢いの竜巻が上空から現れ。
ハドリー、レイ、アテナが飛散する。
「お兄様……」
レイは嫌な予感がして、すぐにハドリーとの勝負から、
散ろうとする。
だが、ハドリーはレイを追撃しハンマーを振りかざそうとする。
その攻撃をアテナが大剣で止めた。
「早く行け! レイ、主殿が心配だ」
「さすが剣聖か。俺のハンマーを止めるとは」
レイは無言でその場から跳躍して──去る。
街を半壊させる程の魔法。
この嫌な予感。
(お兄様……)
レイはすぐにタクロウが──何処に居るかがわかった。
それは──このありえないほどの魔力を込めている音と光で。
(お兄様の詠唱魔法)
上空でもその音を奏でているカイン。
そして、すぐに放たれた。
凄まじい突風と雷がぶつかる。
壮絶な衝撃が街全体へと走る。
風の音それから絶え間ない稲妻の光。
そして、いつの間にか去って。
────ただ無音になる。
レイはタクロウの元に降り立ち。
気絶しているタクロウをギュッと抱きしめた。
タクロウの顔には涙痕があったから……。
「お兄様……悔しいですね。私もです。
次は勝ちましょう、お兄様」
雲ひとつない青空が終わりを知らす。
ルルが実況する。
「フェスティバル!!!
終了だぴょん!!!!!!!!!!!!」
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