第85話「変わらないモノ」
(私は……私は、負けた……
いとも、簡単に負けた……悔しい)
「大丈夫ですか?」
ソノがピケに、にっこりと微笑みながら、優しく告げる。
「なんで……」
ピケは醜い猜疑にかられて、
自分自身に嫌悪感を感じていた。
だが、それでも変わらない笑顔をくれるソノに、
言葉を失っていた。
(私──みたいな。
心が醜い女にどうして、そんな怪我をしてまで。
私を────護る)
ソノはピケのクッション材になっていたので、
至る所がボロボロで腫れ上がっていた。
だが、何も無かったかのように、普通に話しているソノ。
「なんでって、言われましても。
僕の大切な彼女ですから。
大丈夫ですよ〜
直ぐに回復魔法をかけますね。
〝寵愛光〟」
ソノは中級光魔法を唱え、自分とピケを治癒させる。
あっという間に二人の怪我が消えていく。
「何故、そこまで……私に……
私はそんな、価値はない!!!
醜いだろ!!!
私は嫉妬の塊だ」
ソノは一切──間を空けずに言葉をピケに放つ。
「それも含めて、好きなんです。
だから、気にしてないです」
「────なっ!!!」
(嘘……いや……嘘じゃない。彼が言っている言葉は。
ずっと一緒にいたからわかる。嘘じゃないって)
「嫉妬、いいじゃないですか!
なりたいものになる為の活力ですよ!
ねぇ、ピケ」
ピケは涙を零していた。
悔しさ、愚かさ、今までの全てを噛み締めながら。
そんな──全てをぶれることなく、包み。
傍にいてくれる人の大切さを感じながら、頬を涙で染めていた。
ソノはそっと立ち上がり告げる。
「僕は少し、用事があるので、行ってきますね」
「どっ……どこに行くの」
その瞬間、ピケはソノの見た事の表情を見る。
ソノは鋭い形相になり、踵を返す。
その顔を見て──ピケは理解した。
あの男に挑みに行くのだと。
「僕の大切なものを傷つけておいて────
タダですむと思うなよ。あの男」
小さい声でボソッとソノが言うが。
自分自身の為に激情にかられていると直ぐにわかったピケ。
(私は愛されいてるのだな。ありがとう……ソノ)
「私も行く」
ピケは立ち上がり、強い言葉でソノに告げた。
ピケの言葉に目をぱちぱちさせているソノ。
「えっ?」
「負けっぱなしは、私は好きじゃない」
「ふふふっそうですね〜」
いつもと変わらない爽やかな笑みを見せつつ返事を返し、
ピケに追従するソノだった。
---
「お前何者だ? ──急に何しやがる!!!」
下卑た笑いを浮かべる男。
金色の鎧を纏いハンマーを持ち、ずっとニヤニヤしている。
俺は睥睨し他に敵がいないか確認をする。
急に現れたハンマー、どうやって。
「ゲエハハハハァ。俺か? 俺の事か、NO.Ⅲとでも言えば、分かるか?」
「NO.Ⅲだと。まさか、光のブックマンか!!!」
姿を隠さずに普通に現れやがった。
銀髪の聖職者、NO.V。
天使の戦いの時の、NO.IX。
NO.VIIはいないっと言っていたな。
九人の内、四人目か。
「ゲエハハハハァ。お前がどういう奴か試しに来たのさ。
セルシア様の寵愛を受ける男がなぁ!!!!」
俺はセルシアって光の女神に会った事がないが。
光のブックマンは俺に執着しすぎだろ。
「女を急に襲う、外道野郎!
お前みたいなクズは大嫌いだ」
気持ち悪い笑みを見せ、ルベルトは告げる。
「土魔法しか使えねぇ。ゴミ女など、どうでもいい。
お前もラスク教王国に来るといい。
セルシア様の寵愛を受けるお前なら、
金!! 女!! 手に入り放題だ」
「とりあえず何とか王国って所にも行く予定もねぇし。
お前を倒す!!!」
対面している俺はジリジリと距離を取るために下がる。
あの二人が簡単に吹っ飛ばされた。
コイツの魔強化は相当、すごい。
「ゲエハハハハァ。そうか、そうか、仕方ねぇ。
無理やりにでも連れて行くか!!!!!」
ルベルトはそう言い放ち。
ハンマーを横薙ぎする。
この距離でどういう事だ────
すると、ハンマーが伸縮し俺に向かってくる。
「〝魔力盾〟」
「ほほぉ〜流石の強度だ。グエハハハハハァ」
ハンマーが障壁で止まるが、
これを生身で受けるとやばい。
だが、ピケとソノ大丈夫だったのだろか。
頭の中に過ぎる。
「これはどうだ!!!」
ルベルトのハンマーの柄部が短くなり、
物凄いスピード伸縮し、俺に向かう。
「クソっ!! 〝魔力盾〟」
伸縮自在にハンマーを操るルベルト。
伸びるハンマーとか卑怯だろ。
「守るだけか!? オラオラオラオラオラッ!!!!!」
ハンマーが変則的すぎて、攻撃に移れない。
しかも、一撃一撃が重く素早い。
「〝岩荊棘〟」
突如として上級岩魔法が唱えられた。
無数の岩の茨が鞭のように、
しなりながらルベルトの横から襲う。
ルベルトはハンマーの攻撃を止め──魔法を唱える。
「鬱陶しい!! 〝魔力盾〟」
障壁で岩の茨が止まる。
俺はすかさず魔法を唱えた。
「悪ぃな!!〝雷槍〟」
速攻でルベルトの方へと向かうバチバチと響く雷の槍。
ルベルトは直ぐに気付きハンマーで雷の槍を払う。
「クァキァギナガアカ!!」
悪ぃな──初見殺しだ。
ルベルトはハンマーで払い、感電する。
「ソノ! 助かった」
ソノが俺ににっこりと微笑む。
俺の元へと直ぐに来る。
「タクロウ様、ずるいですよ。僕の獲物です」
「あっ……私は」
ピケは俺に何か言いたげな感じがしたが。
吃っていた。
「二人とも無事でよかった〜」
それを聞き、ピケが俺に初めて笑顔を見せた。
「はい、ありがとうございます!」
「あぁ!」
ソノはふふふっと笑っていた。
「ゲエハハハハァ!!! 素晴らしい!!!!
セルシア様の恩恵!!!!!!!!!!!」
狂ったような叫びが街に響いていた。
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