第76話「我が主殿」
トントントン──
レイがトイレの扉を叩いている。
「大丈夫ですか? お兄様」
「あぁ! 大丈夫だ。すぐ向かう!」
まさか念話をしてくるとは思わなかった。
クロ。
「みゃあ〜」
クロは俺の頬をぺろぺろしている。
可愛い〜いやいやダメだ。
惑わされるな。
この黒猫は女神なんだ、そんな攻撃に負けるな俺。
「みゃあ〜」
クロは俺の頬にすりすりする。
────可愛い。
ぁぃいあ無理だ。
猫好き。
悩殺だ。
俺はクロに喋りかけた。
頭の中で。
クロ、お前喋れるのか?
『はい、あなた様。
いつも可愛がってくれて、ありがとうございます』
なんと、あざとい。
まあ、別に何やかんや仕様とは思わない。
びっくりはしたがな。
『そうですか? ふふふっ。
これからもよろしくお願いいたします。
あなた様、もうすぐ開会式ではないですか?』
よろしくなクロ。
ありがとう。
「みゃあ〜」
俺はトイレから出て、リビングへと向かう。
「お兄様! ギルドの大聖堂で開会式ですよ〜」
「そうなのだよ!
反省ちゃんとしたから、
僕がムギュ〜っとしてあげるのだよ〜」
そう言い、セナは抱きついてきた。
柔らかい。
わざとらしい頬のすりすり。
セナはとてもニコニコしている。
「えへへえええ──幸せなのだよ〜」
レイがセナを睨みながら頬を膨らましいている。
「私もお兄様にくっつきます!」
セナはどうぞどうぞと少し左手に来て右をあける。
「半ぶっこなのだよ〜」
「ふふふっお兄様〜すりすり」
「セナ、レイ! ギルドに向かわないと! 開会式だろ?」
そういえばルークの姿が見えないぞ?
どうしてだ?
どこか行ったのか??
俺はレイに告げた。
「あれ? ルークはどこに行ったんだ?」
「お兄様! 視察に行ってます。
もう直ぐ帰って来ますよ」
「フィールドを熟知する事は大事なのだよ?」
──視察?
フィールドね。
なんの事やら??
二人に抱きつかれながら考えていた。
すると、ルークが帰ってきた。
頬をパンパンに膨らませながら、む〜っという顔をしている。
「ずるいです!! セナ、レイ。
私もタクロウ様に抱っこしてもらいたいです!!」
「ふふふっ兄弟の特権です!」
「ふふふっ師弟関係の特権なのだよ!」
「む────」
レイとセナを呼び捨てか。
仲良くなれたのか、良かった。
笑顔だな、ルーク。
俺は玄関の方へと視線を転じる。
俺はその姿に一驚した。
「────剣聖!! どうしてこんな所に!」
俺はレイとセナの抱きつきから離れ、
剣聖の方へと向かった。
また勝負とか、か?
なんでだ?
わからない。
剣聖はシュタッと俺の方へとすかさず両膝を軽く曲げ。
そして、俯いた。
俺はその姿に驚愕した。
いや、俺だけじゃない、
ルークもセナもレイも面をくらっている。
「えっ?」
「主殿。
アタクシの全てを主殿に捧げると誓いまする」
「──へぇ???」
俺は聞き違えたのか?
耳がおかしくなったのか??
レイとセナとルークの視線を感じる。
背中が痛い。
俺は剣聖に声をかける。
「その剣聖さん、何ってるんだ?」
「アタクシはアテナと申します。
主殿の剣となってみせます。
主殿の邪魔をするモノは全てアタクシが薙ぎ払います」
俺は動揺していたが、
アテナの声色を耳に入った瞬間にわかった。
────本気だ。
だからこそ何故。
模擬戦で戦っただけなのに、
急にこんな事になっているんだ??
セナが頬を膨らましながら言う。
「おかしいのだよ〜なんでそうなるのだよ!
クラン加入を推進したのは僕だけど。
なんでそうなるの??」
「えっ? どういう事だセナ?」
「お兄様、セナがアテナをクランに誘ったんです。
私達はギルドに出かけていて、
アテナの円卓の騎士への加入申請をしていたのです」
「そうなのか、アテナが円卓の騎士に──」
レイとセナとアテナは知り合いだったのか、
それで誘ったのか。
凄い人を誘ったな〜やるな、セナ。
だが、何故アテナは俺の事を主殿って言っているんだ?
セナはアテナに向かって告げる。
「どうして、タクロウの事を主なんて言うのだよ」
アテナはそのままの体勢で皆に告げた。
「アタクシは主殿の全てを愛しております」
アテナは言い切った。
そして、表を上げ、俺を見つめた。
その言葉を聞いて、セナは黙った。
レイは徐に言葉を入れる。
「まぁお兄様の魅力に気付くなんて。
かなり優秀ですね!
アテナの事、認めます。ねぇ? セナ」
「仕方ないのだよ。みずからまいた種だから、
まぁうん! よろしく」
「感謝する。そして、主殿よろしくお願いいたします」
えっ??
勝手に話がトントン進んでるんだけど。
しかも、セナ達はうんうんと頷きながら納得してるし。
愛してる?
────ん???
まぁいいか気の所為だ、きっと。
「主殿。アタクシも抱っこして欲しいです」
「──えっ??
そっ──そろそろ始まるから向かうぞアテナ!
なぁ! みんな」
アテナは少し寂しそうな顔をした。
スイカはダメだ。
朝から何を考えているんだ俺は……
クロが念話で俺に話す。
『メロンのワタクシは、
あなた様にくっついていいのですか?』
何、言ってるんだ急に──
今は頭の中に話しかけたらダメだクロ!
『ふふふっ。でわ、行きましょう』
「じゃあ、行くか、ギルドへ!!」
「はい!」
「うん!」
「わかりました」
「うぬ」
俺達はギルドに向かった。
彼奴がいるギルドへと。
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