第74話「剣聖アテナ」
アタクシは負けるのが嫌だ。
それは今までの人生を否定するのと同じ事である。
アタクシは狂戦士の一族の子に生まれた。
アタクシの故郷カルバーム王国は力こそ全て。
自分を表す為に──必要な物は力であった。
褐色の肌に赤髪は狂戦士の一族の証。
武器を使わせれば他に並ぶ者はいないと言わせる。
────気高い一族であった。
アタクシの姉、千血は、
生まれながら赤髪に白い肌の隻眼であった。
忌みする者は誰もいない。
何故ならば、この国は力が全てであるからだ。
姉は生まれながら最強であった。
片目のハンデがありながらも、最強であった。
アタクシは姉と──比較し続けられた。
片目のハンデがあるのにも関わらず、
一度もアタクシの剣は届かなかった。
────勝ちたかった。
何故……勝てない。
どうして……勝てない。
なら、アタクシにもハンデがあればよかった。
そうすれば……言い訳ができる。
いや……違う。
──勝ちたい。
アタクシは身の丈に合わない大剣を振り続けた。
五年、十年と幼い頃から身の丈の倍の大剣を。
ずっと振り続けた。
アタクシはいつの間にか周りから、
剣聖と言われていた。
身の丈に合わない大剣と姿を見ると皆が名を理解し。
畏怖を込めながら見ていた。
────しかし、私の姉はそれ以上であった。
私の姉は幼い頃から冒険者ランクを上げていき。
十代の内に冒険者ランクを上から、
二番目のハートに上げて言った。
そして、トップクランの、
七色の十字に加入者した。
その理由は──恋である。
あの千血と恐れられた。
隻眼の死神が恋だと。
その理由で、そのクランに入ったと言う。
アタクシは笑ってしまった。
アタクシは大剣を振り続けた。
大剣を振る、理由を忘れない為にも。
アタクシはその時期に、
カルバーム王国の王女から指令を受け。
模擬戦をする事になった。
その依頼は王女の娘の模擬戦であった。
この国の王女は恋に狂っていた。
忘れられない人がずっといるらしい。
しかし、それが手に入らず。
忘れる為に国に注力をしていた。
だが、最近、何故かその熱が入り。
王女は姉の忘れ形見の娘に、
その恋をした人の子供と夫婦にさせようと、
計画を立てているみたいだ。
どうしても血族に加えたいと、
狂った恋の所業である。
アタクシは瞳に力が入り。
王女の娘との模擬戦へと向かった。
文官に連れられ──闘技場に入り。
その娘と対面する。
その姿を見て、アタクシは驚愕した。
身の丈に合わない斧を持っている姿。
私が驚いたのはその瞳だ。
なんて──瞳をしている。
その時、アタクシは悟った。
これはアタクシは瞳だ。
なんて瞳をしているんだ……
鏡のような姿を見て。
戦闘……所ではなかった。
アタクシは惨敗した。
そして、アタクシは国を出た。
ただ、何処にいても姉の名前は響いている。
アタクシはその見聞を聞く度に奮い立たせる。
大剣を振り続けた。
クエストを。
そして、ダンジョンに潜り。
大剣を振り続けた。
────すると。
この街で私の姉、千血が居ると、
言う話を耳にする。
私は胸が高鳴った。
久しぶりに再試合をしたいと思い。
心が踊った。
アタクシはその話を酒場の人間に聞いた。
その言葉を聞き、アタクシは驚愕した。
幼い子供が千血に楯突いて、
一切──折れなかったと。
しかも、その子供を助け退けたのも十代の少年と言う。
アタクシは居ても立っても居られなくなった。
この街の王女が企画した。模擬戦があり。
その少年とあのアッシュが戦うと話を聞き。
アタクシは宮殿へと向かった。
その戦いを見て、アタクシは震えた。
あのアッシュを一撃で倒した。
アースの学園──水のオー学園の序列二位で卒業した。
アスバル帝国の伯爵家の息子を一撃で倒した。
見た事のない魔法で一撃で……
アタクシの周りにいた文官達も青ざめている。
当たり前だ。
アタクシは目の前でその戦いを、
見ているのにも関わらず。
────信じられない。
気づくとアタクシは二階席から飛び降りて。
その少年と対面をしていた。
──アタクシの誇りを取り戻す──戦いだ。
そう思いながら、アタクシは裂帛した。
アタクシはその少年の瞳を見て。
──驚嘆した。
威圧、殺気が全くない。
なんて──まっすぐな瞳をしているんだ。
こんな瞳をしている少年が、
アタクシの姉、千血を退けたと……
────口が緩んだ。
戦いたい。
戦ってみたい。
アタクシの剣が何処まで届くか。
だが、その少年の言葉は思いもよらない言葉。
戦わない──
アタクシは唖然とした。
少年が踵を返し去ろうとした瞬間──
アタクシは大剣を振り下ろしていた。
逃がさない……
────アタクシの誇り。
少年はただ、守り続けるのみで、
武器すら出さなかった。
──舐められている。
アタクシ程度じゃ、本気にはなれない。
そう、勝手に思ってしまった。
アタクシは勢いよく大剣を振り続けた。
少年から見た事のない魔法が唱えられた。
アタクシはその一撃で少年の強さを感じた。
いや、アタクシはその瞳から強さを感じたんだ。
私は告げた。
姉と戦ったのだと、
少年は口には言わないが姉と比較したのがわかった。
アタクシは我を忘れて大剣を振りかざした。
その瞬間、圧倒的な力でねじ伏せられた。
──この力は姉、以上。
いや、レベルが違う。
アタクシはこの少年に勝てれば。
姉を超えると勝手に思っていたが。
この少年は姉をも、圧倒していた。
この魔法で指先すら動かす事が出来なかった。
アタクシはそして、意識を失った。
アタクシは目を覚ますと病室にいた。
部屋が出て文官に聞き。
アタクシはその場へと、回復したばかりでも。
走り出していた。
────再戦だ。
このままではアタクシの今までの、
全てが────
少年が居る。
ホテルの目の前には。
蒼瞳の銀髪の女と蒼瞳の青髪の少女がいた。
アタクシの行く手を阻むらしい。
しかも、どちらが戦うか悩んでいた。
アタクシはイラついた。
今──目の前にアタクシの──誇りが目の前に。
そして、銀髪の少女がアタクシと手合わせする見たいだ。
その銀髪の少女はアタクシを圧倒した。
少年の師匠だと言う。
アタクシは手が震えた。
負けるのか……
アタクシはまた負けるのか……
負けたくない。
負けたら、なんの為にアタクシは剣を振った。
負けられない──もう負けられない。
そう思い、アタクシは心を鼓舞させる。
銀髪の少女は徐に武器を取り出した。
その姿は双剣。
アタクシは初めて、見惚れてしまった。
そして、その瞬間──負けを認めてしまった。
アタクシは裂帛する。
今までの全てをぶつけるように、
大剣を振るう。
剣を合わせる度に力の差を感じる。
届かない──
何を捨てれば届くのか──
アタクシはまた──目の前が真っ暗になっていく。
---
「ここは一体?」
(どうやらここは宿泊施設か?)
徐に剣聖はベッドから抜け出した。
「アタクシはまた負けたのか……」
剣聖は立ち上がったまま。
呆然していた。
剣聖は部屋の中に漂う匂いに気づいた。
「なんだ……この匂いは?」
剣聖は匂いの方へと視線を転じる。
「──鍋か?」
テーブルの上に置いてあったのは、鍋と一つの手紙だった。
剣聖は鍋の蓋をあけた。
「これは──クリームシチュー?」
そして、剣聖は鍋の下に置かれてある手紙を手に持ち。
悄然と手紙を開け、目に写して行く。
瞳に写し出された言葉には──
『勝手に着替えさせて。
寝かせてごめんなさいなのだよ。
クリームシチューは起きたら腹ごしらえにして欲しい。
後、これは勧誘なんだけど、僕達のクランに入って欲しいのだよ!
一緒に最強になろう』
アタクシは瞳に写している手紙がだんだんと──
目に写らなくなっていく。
白い紙に黒い点々が増えていき。
アタクシは両手で顔を隠し──声を上げていた。
初めての──感情だった。
そして、クリームシチューをぺろりと平らげ。
宿泊部屋を出るのであった。
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