第71話「涙は優しさの一歩」
身体をゆさゆさ、されてる。
まだ、寝足りない。
身体をゆさゆさ、される力が強くなる。
「もう──ちょっと寝かせ──」
「どうしたら起きるのでしょうか?」
ルークの声か?
「何してもいいということでしょうか? ぐへへへ」
ルークの声??
「むちゅ〜」
ルークはたらこ唇にして、俺の頬にキスしようとしていた。
俺はむちゅ〜の声に頭が覚醒した。
すかさず布団から起き上がった。
「おはよう! ルーク」
ルークはキョトンとしながら、むむむとしていた。
「おはようございます タクロウ様」
幼気な少女のキスで起こされるなんて、
そんなものに、もし慣れてしまったら。
ロリ街道を驀地してしまう。
断じて否である。
そう思いながらも照れていた。
「タクロウ様。作戦会議、見たいですよ!」
「そうか」
俺はルークにそう言われリビングに向かう。
「おはようございます! お兄様」
「おはようなのだよ!」
「あぁ、おはよう!」
「みゃあ〜」
俺は椅子にかけた。
セナが作った朝食を食べている。
美味しい。
ふふふっ至福である。
「お兄様、ルークは気合いが入ってます」
「そうなのか?」
「はい! 今日のフェスティバルは優勝です!」
「そうなのだよ!」
ルークの方に視線を転じる。
瞳には力が入っていた。
「そうか、そうか〜いっぱい昨日は寝たからこの、この〜」
俺はルークの頬にちょんちょんした。
いつもはセナかレイが起こしてくれる。
今日はルークが起こした。
気合いが入って。
早く起きたのだろう。
「はい!」
一瞬──殺気を感じたんだか──
気のせいか?
「お兄様〜」
「何しているのだよ〜」
「ごめん、ごめん」
「お兄様、ルークは光魔法と闇魔法を両方使えるのですよ!」
「そうなのか、それはすごいな〜」
「僕も使えるのだよ〜」
俺の横に座っているセナが目を輝かせている。
「セナはすごいな〜」
「えへへへえ」
俺はセナの頬をちょんちょんした。
「む〜お兄様、セナもずるい」
「言ったもん勝ちなのだよ〜」
「みゃあ〜」
「よしよしクロ〜」
セナはにやにやしながらレイを見ている。
和やかな雰囲気の中ルークが言葉を入れる。
「私はその、すごくないです」
ルークはその言葉を言った後に──
俺の方を一瞥する。
俺は模擬戦の事を思い出していた。
宮殿にいた文官達は言っていたな。
闇魔法と光魔法を両方使える人はなかなかいないって。
なら、誇っていい事じゃないのか?
俺はそのまま思った事をルークに告げる。
「いやいや、その歳で光魔法と闇魔法が使えるなら普通にすごいぞ」
ルークはハッとして俯いた。
「期待以下の中途半端なんです」
「まだ子供なんだし、当たり前じゃないのか?」
「そんな事ないです。
同い歳の子でも私は一番ダメなんです。
いっぱいそれは見ました。
最初だけなんです。凄いって褒められるのは……」
ルークは突然、饒舌になり。
俯きながら話していた。
「そうか──ルークなら俺と一緒に強くなろう。
俺もまだ弱弱だからな」
「えっ……!」
ルークはその言葉で俺の瞳を見つめた。
「一緒に……?」
「あぁ、一緒に強くなろう!」
「はい!!」
ルークは悄然としていたが──
その返事は俺の心の底に響いた。
それと同時にルークは瞳を潤していた。
唇を噛んで泣くのを我慢していた。
「ルークはまだ子供なんだだから、我慢しなくていいんだぞ」
「我慢なんかしてません」
頑として俺の言葉を聞かずに唇を噛んでいる。
慌てて俺が言葉を入れる。
あの時、俺が泣くなって言ったからだよな……
「だから、子供だから当たり前だぞ」
「私! 子供じゃないです!! タクロウ様の子供だって産めます!」
「なっ!!! 何言ってるんだ」
頬を膨らませながらルークは俺を見ている。
俺は部屋が凍りついたのを感じた。
壮絶な殺気が俺を襲った。
「僕の弟子はそんな事を教えてたのかな〜」
「お兄様〜ふふふっ、ふふふっ」
「いや、俺はそんな事、違う」
レイとセナの目付きが鋭くなる。
二人は殺気に満ちた眼光で睨む。
「これは罰!! が必要なのだよ」
「そうですね。セナの言う通り」
「これは違うんです」
俺は何故かセナとレイに敬語になった。
あぁ、これが修羅場かまた。
「お兄様! いいと言うまではトイレで反省してください!!」
「ダッシュなのだよ!!」
「トイレ?!」
「お兄様!!」
「わかりました!!」
俺は言われるがまま走り、トイレに入った。
だか、罰がこんなモノだとは思わなかった。
「ルーク、お兄様は消えましたよ」
そう言いレイはそっとルーク優しく抱いた。
「ひぃぐひっ」
「よく、我慢しました」
「そうなのだよ」
「わだひ、その」
レイは優しくルークを撫でた。
そのまま撫でながらルークに話す。
「お兄様の瞳は真っ直ぐで優しいですからね。
見た事なかった私達には眩しいですよね」
ルークは無言で頷いている。
セナがそっとルークに告げた。
「でもルーク、僕もいっぱいタクロウの前で泣いたことがあるのだよ」
「ふふふっセナもですか?
私もいっぱい顔ぐちゃぐちゃにして泣いた事があります」
「レイも?」
「────ふぇぇぇえぇええええ」
ルークは泣き出した。
無邪気に目をしわしわにさせながら声を上げながら──
泣いた。
「泣くのは悪い事ではないですよ。強くなる一歩です」
「そうなのだよ」
レイとセナは優しくルークを見守っていた。
---
「はぁまさか子供産む、そんな事を言うとは思わなかった」
「みゃあ〜」
十歳の子がそんな事を言うとは。
ここじゃなきゃ人生オワタだった。
俺は普通にトイレをしながら考えていた。
言い過ぎたかな。
スキルボードとかそう言うのがあれば。
ルークの適正とか見れたりするんだけどな。
---
ピロン────
俺の言葉の後に画面が出てきた。
それと同時に人が目の前に現れる。
「フハハハハハハ!!!! 呼ばれて!!!
飛び出た!!! 賢王シルビアだ!!!!」
「えっ────えぇぇええええええ!!!!!」
俺はまさかこのタイミングで──
シルビアが出てくるとは思わなかった。
女神は俺達の予想をはるか上に行く。
いいや、斜め上だな。
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