第50話「質問」
クロには茶化されたが、真名であろうと俺は思った。
本心を聞こうと、クロに同じ質問を言う。
「なぜ? 急に俺の前に現れたんだ?」
俺の言葉を聞き、クロはその意思を汲み取ってか、
目に力が入るのが見えた。
クロはふふふっと笑いながら俺に告げる。
「ワタクシとあなた様の邪魔をされては困るので」
「──セナとレイが気づいたから現れたってことか……?
何か隠蔽魔法でもかけているのか?」
「……」
その問いにクロは無言で返した。
だが、クロはほんの少し目を逸らした。
これは、当たっているという事だろう。
意外とわかりやすいんだなクロは。
「わかったもう聞かない。
なんか聞いたら、マズイ雰囲気が漂っているからな」
「ふふっそうですの?
ただこれだけはお伝えします。
そのネックレスはただのワタクシの好意の証でございます。
ただそれだけですわ」
「そうなのか……わかった」
そう言い、クロは嬌笑を浮かべている。
女神と話している時なぜか、
異様に見つめられている気がする。
女神はそういうものなのか……?
しかし、綺麗だな。
だが、このネックレスには害はなく、
好意だと言うのは痛い程、
クロの瞳で感じた。
「あなた様は物より行動で示された方が伝わるのでしょうか?」
「……何言っているんだ?」
「ふふっ、ふふっ今!
少しあなた様の頭をよぎったようなことですわ」
俺は一瞬だが雑念を思い浮かべた事に後悔した。
それは浮かべるだろ、
絶世の美女がそんな事をそっと告げるなんて。
クロは俺をおもちゃにしているような、
微笑を浮かべていた。
「なんだよ急に!」
「ワタクシと話しているのに、他の女神の事を思い浮かべているからですわ」
殺気はないが、俺の顔を睨んでいる。
クロは俺の思考を読みながら話しているのか。
いや、すごいな。
クロは左手を俺に向けた。
ネックレスに魔法陣が現れ、直ぐに消えた。
急な事に俺は呆気にとられていた。
「……」
「これで余程の事がない限り感知されることはないでしょう。
二人の物を邪魔されるのはワタクシはお嫌いなのです。
もう、お時間ですわね」
「また……会えるか?」
何故か俺は咄嗟に──言葉が口からこぼれた。
クロは俺に初めて見せる、表情を見せ、スッと消えた。
姿はないが声だけが、辺りに響く。
「はい……いつでも」
俺が言葉を全て、耳に受けいれた後。
---
周りの時間が動き出していた。
「お兄様、夜も遅いですから、寝ましょう〜」
「あぁ……」
先程の修羅場のくだりが消えている。
俺は不思議に思いながらもレイにそう促されて、
ウッドデッキから部屋へと向かう。
「……魔法が行使されている」
俺はウッドデッキに残っているセナに言う。
「セナもそろそろ寝るぞ!」
「うん!」
セナがボソッと言った、
言葉は聞き取れなかった。
だが、疲れた。
俺は感情を爆発させすぎて、
ベットに着くや──睡魔に襲われていた。
そして、爆睡した。
---
────────翌日。
セナに指で頬をちょんちょんされながら、
俺は起こされた。
可愛い。
天使に起こされた。
ここは天国か?
レイとセナは早起きで、
スズハと一緒に朝食を作っていたらしい。
クリスはまた、
調べ事で朝一に外へ出ていったみたいだ。
俺は朝食を食べ終えた。
そして、聞きたいことを気にせず、
全部、吐露しようと思っていた。
クリスと話してから。
前世と今を受け入れられ、無駄に気を遣いすぎている、
自分が情けなくなったから。
スズハは片付けをしていた。
それを手伝おうと、レイとセナはキッチンに向かおうとしていた。
それを俺が呼び止めた。
「セナ、レイ。ちょっと掛けてもらってもいいかい?」
スズハは俺の声が聞こえて、
ニッコリとレイとセナに言う。
「行ってらっしゃい。私が後片付けするから。ねぇ?」
二人は恐る恐る──俺の前に腰をかけていた。
俺の真剣な表情を見て、
何故かソワソワしている。
「その……急になんだけど色々教えて欲しい」
「うん!」
「はい! お兄様」
レイとセナはニッコリといつもの様に微笑んでくれた。
その姿に俺はとても感謝をした。
何も無かった、俺に寄り添ってくれるレイとセナ。
俺は先程の女神の事を照らし合わせておきたかった。
「シエスタ・サーチウェル・シャズ・ノエルって言う女神様は知っているかい?」
うーんと言いながら──
俺の急な質問に何も言わずに悩んだ顔をしセナが答えた。
「その長い名前は初めて聞いたけど、多分ノエル様の事だと思うけど?」
「ノエル様?」
「うん! 闇の女神様だよ」
「そうなのか」
そうか──クロは見た目通りの闇の女神なのか。
まあ、あの美しい姿と威圧感を感じたら納得だ。
じゃあ、あの全ては闇魔法なのか。
末恐ろしいな。
「僕は王族だから知っているんだよ!」
「お兄様! 私も知っておりました」
「なるほど、そうなのか」
「びっくりしないの? タクロウ」
「セナはセナだろ?」
(タクロウ、ありがとう)
セナはやはり王族なのか。
俺はしみじみセナのその綺麗な顔立ちに頷いた。
レイとセナ王族とかすごいなと感心しながら、
俺はまた質問をした。
「二人の見解を教えて欲しいんだけど。
龍のクリスタってなぜ盗まれたと思う?」
また──ん〜と言いながら、
レイとセナは顎に手をあてながら可愛らしく悩んでいる。
悩みながらもセナが答える。
「僕もずっとそれは気になっているんだけど。
わからないのだよ。
総ての物質は意味を持つのに、そのクリスタの価値が何なのか分からないのだよ」
セナの意見にウンウンと頷きながらレイは意見を述べる。
「はい、確かにセナの言う通りだと思います。
シフォン・S家にも赤龍のクリスタを家宝として収めております。
しかし、なぜ龍のクリスタが家宝なのか?
その価値がなんなのか分からないのです。
岩龍はビニ町を統治している王族が持っていたものですが。
皆様の目に触れさせるために、博物館へと収められた物です。
それをなぜ?
今更になって盗まれたのか全く分からないのです」
「なるほど、聞いてもやっぱりわからないなぁ。
ハッハッハ」
セナとレイはとても不可解そうな顔をしている。
俺も聞いても全く真相は分からなかった。
だが、何故か──スッキリした。
「僕はお師匠様なんだから、聞きたいことはなんでも聞くのだよ?」
「私もです! お兄様──」
レイとセナは目を輝かせながら言う。
俺はその真っ直ぐな目を見る度。
なんとも言えない優しい感情が溢れてくる。
「二人共ありがとう!
とりあえず、セバスチャンの依頼の為に少しでも強くなろう!」
俺の言葉を聞いて急に立ち上がり──
セナは恐ろしいニヒルな顔で笑っている。
「ふふっふふっふふっ地獄の特訓なのだよ!
一緒にムーンマウンテンに行くのだよ
ふふっふふっふふっ」
少し気味悪い笑顔とその声質に俺は大丈夫か……
不安に思いながら家を後にするのである。
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