第44話「聖職者」
俺は高級フレンチ、
フレスティナを出てからも、まだ考えに耽っていた。
あの時は断ろうと思っていたが、
セバスチャンの表情を思い返す度に、判断が緩んでいく。
考えながら、夜の町を歩いている。
俺の足取りは教会に向かっていた。
三十階層なんて無理だろう……
まさか、そんな依頼だと思わなかった。
「迷えるひつじはここかぁ……」
あっという間に、教会の入口に着いた。
昼間の騒動があってか、道中も教会周りにも誰もいない。
「夜の教会か……神秘的だな」
「こんばんは。
皆様が寝静まる前に祈りとは、とても良い事だと思いますよ」
声を掛けてきたのは聖職者の銀髪のイケメンだった。
ニッコリと微笑みながら、俺に会釈をする。
ソノに続いてまた来た美形だ。
どうせなら、シスターがよかった。
「いえ、すいませんこんな夜分に」
「いえいえ」
「セルシア様も、とてもお喜びになると思います」
「あっ──はい」
セルシア教会だから当たり前か。
聖職者はまたニッコリと笑顔で話し、
踵を返して、その場を去ろうとした。
すると、去り際に聖職者が聞いた事がある、
声色に変えて──俺に告げた。
「じゃあ、ゆっくりと──
では私はこれでNO.VII──」
聖職者のその言葉、
その言い方で、俺はあの姿を想像し、一驚した。
「くっ──NO.Ⅴ!!」
「魔法を唱えようとしては──ダメですよ。
ここは教会です」
なんて、タイミング出て来るんだ。
コイツは。
「お前よく──俺の前に出てこれたな」
「私は貴方にとても、興味があるのです」
うわ、背中がザワザワする。
気持ち悪いな。
だが、NO.Ⅴは余裕の表情で俺を見ている。
どうする。
ここで魔法を唱えるのは、確かにまずい。
「今回、会いに来たのは顔をただ、挨拶をしに来ただけです。
私はここの教会には通常いませんので」
挨拶って。
気持ち悪いな。
ずっと俺の顔をニコニコ見ている。
なんか、苦手だコイツ。
「昼間来てたのを見ていて。
夜──来るのを待っていたってことか?
もう一度来る可能性にかけて」
「えぇ──確定でしたよ。
貴方はとても熱心なセルシア様の信者ですから」
だから俺はセルシア信者では無い。
しかし、コイツはかなり頭が切れる。
ここまで危ない橋を渡っても──勧誘したいのか。
俺は訝しみながら睨んでいた。
NO.Ⅴはニッコリと微笑みながら俺に告げる。
「後、NO.IXは激情タイプですので、会話出来る人間も居ますよっていうのを認知させたかったのもあります」
「今更、お前らの株が上がるって思っているのかよ?
お前を今ここで、ボコボコにして吐かせてやってもいいんだぞ」
俺は左手を雷を纏いバチバチさせ。
NO.Ⅴを威嚇する。
だが、NO.Ⅴは賞賛をあげながら──
恍惚と俺の左手を見ていた。
「う〜んとても甘美な言い回し方。
そして、その左手の寵愛の証。
素晴らしいでア〜ル。
それでは私はこれで」
「────逃がすかよ!!」
「シスター、そろそろ出ますよ!」
「はい。どうかされたのですか? この方は??」
────えっ?
誰だ?
仲間か。
「いえいえ────熱心なセルシア様の信者です」
「あぁ、素晴らしい方ですね〜」
「はいとても────」
NO.Vは会話。
時間全て計算の上で動いていた。
仲間じゃない普通のシスターか。
全く関係の無い人と、
一緒にこの町から出るつもりなのかよ。
これじゃあ……手が出しようがない。
「タクロウ様。大丈夫ですよ。まだチャンスはあります。
貴方との縁はまだきれませんから。
迷える羊に幸運を」
「くっクソ銀髪野郎──────!!」
NO.Ⅴはバイバイと手を振って。
笑顔で教会から、出て行った。
---
俺は心を落ち着かせるために祈りを捧げた。
ゆっくりと目を閉じた。
---
「フッハハハハハハハ! 久しぶりに来たなぁ!!
貴様! フッハハハハハハハ!」
「シルビアどうしたんだよ、それ」
俺は目を開けるとまたいつもの場所にいた。
精神〇時の部屋だ。
目の前のシルビアの姿に驚愕した。
そこには海賊帽に海賊の服を着た。
シルビアがいた。
「フッハハハハハハハ!
我が名は海賊王女神シルビアである」
シルビアはバッバッとまたカッコをつける。
やべぇ……
マジこいつやべぇ…………
会う度に衣装が派手になっている。
俺は呆気にとられながら無言で見つめている。
「我が半身を探しに海賊船を飛ばしているのである!
フッハハ! 背中に刻まれた傷があの頃のクッ
まだだァ──まだこの時ではない──クックッ」
シルビアの特技。
言語不明だ……
いや、厨二病だ。
でも、何故そんな格好してるんだ……?
だが、金髪巨乳女神海賊かすごいな。
俺はじっとら見つめていた。
「ひゃぁぁぃぁぁあわぁ!!
コハン……私がこの格好をしている理由は、また信者が増えたからだ!」
「信者とは?」
「屈強な大剣男と弓男と杖女達」
「ゲイザー達か!」
シルビアは嬉しそうにニコニコと話しながら、
またその場をくるくる回っている。
俺はそれを聞いて、理解した。
ブックマンとの戦いの後に来たんだな本当にあの人達。
「また悩んでいるのかしら?」
「まぁ……それと久しぶりに話したいなってのもある」
「ふむふむ。電気の魔法は吹っ切れたのね。使うことに」
「まぁな……そんなこと言ってられなかった」
「そんなことはないとてもいい事。
あなたの周りにはあなたを慕ってくれている人がいる。
その人たちにちゃんとどうしたらいいか?
こうしたいんだって言うのを面と向かって話す。
それはとても大切なのよ」
「……確かにそうだな」
シルビアはニッコリと微笑みながら告げた。
「出来る限り人と長く付き合うことを考える。
どうでも良いってしないこと。
とても、難しい事だけど、それが少しずつでも出来るようになれば、あなたはより、本心を相手に伝える事が出来るのよ」
「わかった……ちょっと話をしてみる」
「うん! また会いましょう」
「いつもありがとう。シルビア」
雨がおおく雲がちらちらと浮かんでいた空だった。
彼女がくれた言葉で空の大半は青く澄んでゆく。
雷雲が割れて太陽が姿を見せていた。
この度は、読んで下さり有難うございます。
皆様の評価とブクマが励みになっております。
今後とも、引き続きご愛読いただければ幸いです。