第43話「懇願」
俺は高級フレンチを嗜んでいた。
フレスティナと言う名のお店である。
セバスチャンはリリーとピケの間に立ち、見守っている。
リリーはじっと、
いや、ずっと俺を睨みつけながら言う。
「ヘンナムシ、何、緊張してるのよ」
「それはこんな店に来たら、慣れてない人は緊張するだろ」
「ふ〜ん、貴族の癖にこんな所にも来たことないの〜」
リリーに言われなければ、
自分が貴族って事は分からなかった。
しかし、さすがは貴族だな。
リリー達は慣れている。
だが、本当に俺は貴族なのか、
俺は親にわざわざ自分の出生を聞こうとはしなかった。
いや、必要なかった。
突然、和やかな雰囲気とは違う、表情。
真剣な眼差しでセバスチャンは俺に告げた。
「タクロウ様。
私の依頼を受けていただけないでしょうか?」
「──依頼ですか?」
急な依頼という言葉。
セバスチャンの表情から、
この場所に呼ばれた、本当の意味を俺は察した。
「何言ってるの!! セバスチャン!!
ヘンナムシは私と同じダイヤなのよ」
「いえ、タクロウ様はダイヤではないと考えます」
「……えっ」
「それは……?」
四人はセバスチャンの言葉で時間が止まる。
セバスチャンはまさか、
隠蔽スキルの事を知っているのか?
いや、まさかな。
俺はその言葉に動揺した。
「簡単な事です。
タクロウ様は私よりも強いという、事実があります」
「セバスチャンよりもお強いとおっしゃるのですか? ……本当に?」
「はい。その通りかと──」
ピケが恐る恐るセバスチャンに聞いたが、
セバスチャンは即答した。
ピケはその肯定にこれ以上追求出来なかった。
幼い頃から女を捨て。
騎士として生きて来た。
ピケが師匠と崇める人が、
同い年の男の子に負けたと、完璧に言い切っている事に、
驚愕していた。
(この人がセバスチャンさんをそこまで言わせるなんて)
「まあまあ〜 セバスチャンがそこまで言うなら、実力は本物と言うことですね」
ソノは爽やかに柔らかくその雰囲気を和める。
いやいや、俺はそんなに強くないぞ。
雰囲気的にセバスチャンの方が強そう。
いや、強そうじゃないくて、強い。
これは何となくでなく、
絶対だ。
あの眼力、プロだ。
間違いない。
リリーはめっちゃくちゃ睨みつけながら、
俺に告げる。
「ふ〜ん ヘンナムシがそこまでと言うなら仕方ないわ。
依頼するボーダーラインをクリアしたと言う事ね」
「いやいや、俺はそんな実力もないですし。
しかも、受けるって言ってないぞリリー!」
リリーは俺の言葉にムッとした顔をした。
「じゃあ、貴方が欲しい物があれば全部何でもあげるわよ! 地位? 名誉? お金?」
「別に欲しいものなんてないけどなぁ〜 今の所」
「実力があるから何でも自分で手に入るって言ってるの!? ヘンナムシの癖に!!」
リリーが立ち上がり怒鳴った。
「いやいや、そんな意味じゃないって、生きている事にただ感謝してるだけさ。
ただ、それだけだよ」
リリーは何故か黙った。
俺は思っていた。
前世と違って、簡単に大切な者の命が消える。
それを身近に──本当に身近に感じていたから。
あの時のダンジョンみたいな、想いはしたくない。
怖かった。
セバスチャンはその言葉を聞いて。
心の芯を打たれたように──
声も立てられず、眉を下げて話を聞いていた。
「タクロウ様……死に損ないの懇願でございます。
どうかどうか……御一緒に来ていただけないでしょうか……?」
「……えっセバスチャン……」
リリー、ピケ、ソノはセバスチャンの見た事の無い表情。
なんて顔をしているんだ、セバスチャン。
まずいことを言ったかな、俺。
その声にぷつんと、会話が途切れ、
重たい沈黙が室内を覆う。
俺は重い空気に、言葉を入れた。
「そっその……セバスチャン。
まだ依頼の内容も聞いていないので、それからでも、その……」
徐にセバスチャンが依頼の内容を告げる。
「申し訳ございません。そうでした。
依頼の内容と言うのは私達全員を含めた、メンバーでの虹色ダイヤの攻略です」
「虹色ダイヤ──なんですかそれは?」
四人は不思議そうに俺を見つめている。
「ご存知ないのですか?」
ソノが不思議そうに言う。
──俺は直ぐに理解した。
この反応だと。
この世界では当たり前に認知されている物。
だとすると、返答をちゃんとしないと、
質問には質問だな。
「あっすいません! 虹色ダイヤ知っています。
でも、何処で手に入るのかは知らなくて。
何処なんですか?」
俺の質問にセバスチャンが答える。
「最初に発見されたダンジョン。
アウストロの三十階層ボスの先です」
「えっ……」
三十階層って……
十階層でも死にそうになった俺が。
三十階層って…………
俺は返事をする前に、決断は決まってしまった。
「ご返事は一週間後でお願いします」
セバスチャンは俺の顔で答えは見えていた。
ギリギリまで待てる、少しの時間にかけていた。
俺達はフレスティナを後にした。
初めての異世界の高級フレンチは全くといって、
──味は分からなかった。
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