第42話「依頼の前」
ビニ町の騒がしさが──あの一瞬の出来事で、
嘘のように静まり返っていた。
リリー達も追いついていた。
ワイバーンの姿を見て──理解してしまっていた。
その後であった。
「セバスチャン! ……逃げられたのね」
セバスチャンは心を噛み締めながら告げた。
「はい、お嬢様。申し訳ございません」
「ゴミク──」
「お嬢様!!!」
先程までのようにリリーは、
ゴミクズと茶化した感じで言おうとしたが──
セバスチャンが珍しく怒鳴った。
セバスチャンがリリーに対して。
怒鳴ることを見た事がなかった。
ソノとピケは目を丸くしていた。
リリーも軽率だったと後悔した。
「お嬢様。タクロウ様はこの町の為、最後まで必死に思いを取り返そうとしていたのです。
私、セバスチャンよりも何十倍も活躍されておられました」
「……」
セバスチャンがそこまで人を褒めることがなかった。
リリーは言葉を呑んだ。
俺はもどかしさが口から出そうになる。
俺はまた無力だ。
「私、セバスチャンはタクロウ様をとても尊敬に値する人物だと考えます。
ララベア家もそれに対して、敬意を払わなければならないと思います」
「いやいや、セバスチャンさん、結局の所は逃げれてしまったのでそこまでは……」
結果が全てだ。
俺は何も出来なかった。
「そんなことはありません。
相手が誰かわかっただけでも動かれて良かったと考えます。
後、さんは抜きでセバスチャンとお呼びください」
「セバスチャン、ありがとうございます」
「はい」
俺の誰かわかったと言う、言葉にソノが反応した。
「タクロウ様、盗んだ相手は言ったい誰だったんですか?」
「光のブックマンだ」
俺の言葉にリリー、ソノ、ピケはとてもハッと顔をした。
「なっ……光のブックマンがワイバーンを使ったと」
ソノの問にセバスチャンが俺の代わりに告げる。
「いえ──多分、協力者かと考えます。
光のブックマンは決して他属性の魔法は使いません。
それを使う物も使わないのです」
「……たっ確かに」
重い空気が五人を覆う。
「それじゃぁ──! もう追えないじゃない……」
「どうしてなんだ……?」
リリーは声を荒らげた。
俺の問いにセバスチャンが言う。
「それは私達がギルドにもし申請を出したとしても、信じてもらえる可能性が低いからです」
「そう、なんですか?」
「はい……先程の通り。
光のブックマンが他の属性の魔物を使ったと言うのを、目で見ない限りは信じられないと思います」
「なるほど」
昔からの根強いイメージがあり。
他の魔法をかなり──毛嫌いしている。
それを協力者がいるというのは信じるの可能性は低い。
確かにセバスチャンの言う通りだな。
光のブックマンですら、
探すのが困難なのに。
その協力者って。
無理だろ。
俺は徐に話す。
「ビニ町のセルシア教会とも、もしかしたら繋がりが、いや紛れていたのかも知れない。
あの魔鉱石を配るという、パフォーマンス。
その分、いつもより人の目が少なくなっていたんだと思う」
リリーとセバスチャンは教会の事を思い出していた。
「なんと……」
「……確かに」
「これが推測じゃなかったら、かなり根が深いよな……」
そして、時間だけが過ぎていった。
いや──何も出来なかった。
その後、セバスチャン達と別れた。
ビニ町の冒険者達も情報は何も出ず。
誰か分からないワイバーン使いを探し続けていた。
---
────俺は宿屋にいた。
そして外を眺めていた。
いつもよりとても静かな町のせいか──
橙色の輝きを点在させながら綺麗に揺れている。
風景を静かに見つめていた。
────ブレスレットが点滅する。
セバスチャンからの電話だ。
「タクロウ様。もしよろしければ、昼食は邪魔が入りましたので御一緒にディナーでもいかがでしょう?」
「はい! わかりました」
こんな変な気分を一人で居るよりはいいかもしれない。
俺は着替えて、
セバスチャンの指定した場所まで急いで向かった。
「こっ──これはしまったなぁ……」
そこはどこから、どうみても高級フレンチ店だった。
俺はいつものようにカジュアルな服装で来ていた。
「こんばんは、タクロウ様」
ソノが俺に挨拶をした。
「すいません。こんな格好で来てしまって」
ピケ、ソノ、セバスチャンはいつものようにスーツだった。
「いえいえお気になさる事は無いですよ。
招待をしたのは此方ですから」
前世でも数回しか行ったことのない、
まさかの異世界フレンチ。
「ヘンナムシ!! 何その格好舐めてるの!」
リリーが俺に向かって告げた。
あれヘンナムシ──?!
昇格したのか、良くなったのか────?
また変な事を言っているなぁ〜っと、
思いながらリリーに視線を転じる。
「リリー 何言ってる────」
俺は言葉が途切れた。
リリーの姿は、
その姿は、紛れもなくお嬢様だった。
これは美少女だ。
綺麗にドレスアップされた姿。
幼さは残るが、美しく上品だった。
まぁ、言葉以外はな。
「何見てるのよ!」
「馬子にも衣装だな〜」
「くっ──ぬっ殺しやる!!!」
「お嬢様、皆様、行きますよ!」
ソノが爽やかに柔らかく、
俺とリリーを諭しながら言う。
そして、俺達はフレンチを嗜みに行くのであった。
まさかこの依頼がこんなにも──
人の思いが人の関係や過去や未来も。
絡めていくとは俺は今は考えてもいなかった。
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