第39話「龍のクリスタ」
ビニ町が賑やかとは違う、騒ぐ声が嵐のように聞こえた。
「なんと……岩龍のクリスタが盗まれるとは」
リリー達は起きた現実に戸惑っていた。
「岩龍のクリスタとは……?
いったい」
────俺の疑問にピケが言う。
「岩龍はこの町の守り神です。
それを盗まれたので──ビニ町の人達は慌ただしくなっておられるのだと思います」
「守り神……なるほど」
なるほど、崇める大切な物か。
この世界にもあるんだな。
リリーはテーブルを叩き言う。
「誰がこんなバカなことをしたのよ!!
龍のクリスタなんて──盗んだって使い道ないはずなのに!!!」
「確かにそうですね。
私もなぜ盗んだのか理解が出来ません。
盗んだとしてもデメリットしかないはずなのに……」
ピケはそう言い、不思議そうに考えていた。
「──どうゆう事だ?」
ピケが俺の問いに答える。
「それは岩龍のクリスタを手に入れたから何か出来る事はないのです。
召喚石や通常のクリスタの様に生活に使われる為に変換行使は出来ないのです」
「なるほど、確かにそれだと求める理由がないな」
──じゃあ、クリスタを盗んだのは売るためなのか?
転売屋とかかな。
「はい……ただ鑑賞用としては他のクリスタとは違ってクリスタには龍の絵柄が刻まれています。
他のクリスタに比べて橙色でとても美しいんです。
ビニ町にはとても──昔から存在をしておりまして。
名前の岩龍も昔から知れており。
名前の岩と言うのに繋がりを感じた──ビニ町の人達には昔から敬愛をされているのです」
「……そうなのか」
そんな昔から、ある物を持ち出すなんて。
相当、欲しかったのか。
ノソがニッコリと追加で言う。
「後、ビニ町以外の人でも、私の様な土の魔法を得意とする者も敬愛を込めていたりします」
リリーが俯いている。
めっちゃくちゃ落ち込んでるなリリー。
(それだけじゃないわよ……私にとっては……)
ソノとピケが言う通り。
そんな物を盗んだとしても恨みを買うだけ。
デメリットが多い──
だが、そんなモノどうして盗んだんだ?
俺達が考えているとセバスチャンが戻ってきた。
「セバスチャン──どうなっているの?」
リリーは直ぐさまセバスチャンに確認をした。
「はい──お嬢様。
たった今、盗まれたのばかりなので多くの人が盗み出されたクリスタを探している段階です。
何故か情報もなく博物館にいた人も、近くに居た人も居なかったみたいです」
盗まれた近くには誰も居なかった?
どうしてだ。
だが、今の今か。
「セバスチャン! 私達も探しに行くわよ!」
「しかし、お嬢様。
相手も誰がわからない状況で探し回るのは愚策かと」
「そんなのわかってる!!」
リリーはセバスチャンに声を上げた。
「リリー様、仕方ない私達と一緒にお探しましょう!
居ても立っても居られないんですよね?」
「そうですね──ここでボーッとしているよりはですね」
ソノとピケはそう言いリリーに追従する。
「少し待ってくれ、俺が少し探ってみる」
突然のその言葉に吸い込まれたかのように──
四人は俺の方を見る。
俺は魔法を唱えた。
「なに──何言ってるのよ、ゴミクズ!!」
「うるさいな〜 待ってろ。
〝探知範囲〟」
「探知範囲です……?
ここまで広い範囲は探せません。
しかも、細く特定も難しい────」
ソノはそう言ったが──途中で言葉が詰まった。
(この目はほんとに探し出せるという目をしている)
盗んだ奴は一先ずはあまり動かないのが普通だろう。
何だこれ。
三人が南東の方に町から出ようと
屋根を駆けている奴らがいる。
外は包囲網をひかれているはずなのに──
冒険者か?
だがこれは行くしかないな。
俺は探知範囲で確認、できた事を言う。
「セバスチャンさん、ビニ町の南東に三人の怪しい奴らが町から出ようとしています!」
「ゴミムシ! そんなの犯人を追ってる冒険者かも知れないでしょ?」
確かにリリーが言う通りだ。
だが──
俺はとても冷静に言う。
「情報がこれ以上ない中なら、怪しい所を潰す方がいいだろ? どうせ動かずにはいられないだろうし」
「……ぐぬぬぬぬぬぬ」
(数分でタクロウ様は探し当てたというのか。スゴすぎる)
ソノはそっとリリーに言う。
「確かに言う通りですね。
町の内部は時間が経てば虱潰し探せます。
万が一外に出られると追うのはかなり絶望的です」
「わかったわよ! ぬっ殺しに行くわよ」
羊のような大人しい男が豹のような目をする姿を見た。
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