第38話「貴族」
俺はドロップキックをされた衝撃を飲み込みながも、
冷静に……
冷静になろうとしていた。
大人の対応だ…………
大人の対応をしないと。
「申し訳ございません。お嬢様が粗相をしてしまい」
スーツ姿に白髪を後ろで束ねた、
男が俺に謝る。
「いえいえ大丈夫ですよ! 気にしてないです。
じゃあ──俺はこれで」
「勝手にどこ行くんだ! ゴミクズストーカー!」
何だこの子──まだ子供だから、口が悪いのか?
金髪ツインテールがずっと、俺を睨む。
「いやそのストーカーとは?」
「なんだ貴様! ゴミクズを省くんじゃない!」
「いやいや、その……」
冷静に……
冷静にだ…………
俺はグッと押し殺して引き攣る、笑顔で言う。
「ゴミクズストーカーとは誰の事だよ!?」
「私の後を追い回していたではないか!」
「所々で出会ったから、それの事を言っているのか??」
「わざと! でしょ!!」
白髪の男がその場を諭そうと言葉を入れる。
「お嬢様はギルド内でシグマ様より七色の十字にもなれると言うのを聞かれたので、
その為、この様な行動をお嬢様はされたんだと思います」
「セバスチャン!! なっ何を言ってるの!」
「そうなんですね〜」
金髪ツインテールが暴れている。
ツインテールも暴れている。
触手かあれは。
俺の問にセバスチャンが言う。
「お嬢様の憧れの七色の十字が同い年くらいの冒険者がそう言われていたので気になって話をかけたのです」
「同い年?!」
同い年ってこの子が?
その姿をちゃんと見る。
金髪ツインテールに百五十センチあるかないかぐらいの身長に赤眼。
ジ────上から下へ、下から上へ目線を────
オウトツガアリマセン。
「今! 貴様! 身長と胸を確認して。
年齢を照らし合わせただろう!!」
「理解してるんだな〜」
「ぐぬぬ貴様!! ぬっ殺してやる!!」
「お嬢様! また本題からズレておられます」
金髪ツインテールは腕を組みながら赤眼で睨みつける。
この子を俺をずっと睨んでるよ全く。
「ふん! まぁいいわ!! 私は伯爵家の長女!!
私がせっかく、声をかけているのだから」
「伯爵家??」
まぁ、貴族ぽいよな。
お嬢様感がある。
確かに。
「ここに居ましたかお嬢様。探しましたよ」
──スーツを着た、若い美男美女。
女の方が声をかけてきた。
「お二人共申し訳ございません。お嬢様がまた」
セバスチャンが美男美女に会釈をする。
男の方が俺に気付き挨拶をする。
「セバスチャン、大丈夫ですよ!
はじめまして! 君もリリー様に振り回されていたのですか?」
「はじめまして! あぁそうかもしれない」
「お嬢様がご迷惑をお掛けしたみたいですし。
昼食をご招待したいんですけどいかがでしょう?」
男の方が爽やかに話しながら俺を食事に誘う。
女の方は表情は変わらず。
だが、同い年くらいなのにしっかりした人達だな。
「あぁ、せっかくなら」
「何勝手に決めてるんだ!!」
リリーが怒っている。
男が諭しながら告げる。
「そう仰ってないで、一緒に行きますよ!」
俺達はレストランで昼食をとっていた。
「御無礼、そして急なお誘いなのにお付き合い感謝です。
僕は冒険者でサークル珊瑚に所属しております。
名前はジャーマン・ソノです。
お気軽にソノってお呼びください! そして、隣が僕の彼女です」
ソノは爽やかな笑顔を見せながらに言う。
クソっイケメンだ。
モテそうだな。
「私も珊瑚所属の冒険者です。
ブリスコラ・ピケと言います。
ピケって呼んでください」
真面目そうな黒髪ロングで目鼻立ちがしっかりしている。
表情はさっきから変わらなかった。
クールビューティか。
まぁ、レイとセナの方が綺麗だな。
何言ってるんだ、俺。
「お嬢様! お嬢様! しっかり挨拶を伯爵家として」
ソノがリリーに言う。
金髪ツインテールは俺にまた睨みをきかせながら言う。
「ふ〜んまあ仕方ないわね。
私はララベア・リリーと言う。
珊瑚のリーダー」
全く俺を見ていないな。
めっちゃくちゃ、嫌われてる。
ぷいぷいってしてる。
「私はリリー様にお仕えする。
執事のセバスチャンと申します」
ほんとにこの人は執事だな。
立ち姿も綺麗だ。
「俺はマグノイア・タクロウって言う。よろしくなぁ!」
リリーは俺の名前を聞き、ガン見している。
「ゴミクズのくせに貴族だったの??」
「貴族??」
なんの事だ?
前も同じ事をシグマが言っていたような気がする。
「何、アホみたいな顔をして惚けているのだ!」
「そのいったいどうゆう事なんだ??」
「お嬢様!」
ソノがまあまあって暴れるツインテールを宥める。
「まあいいわ、ゴミクズを貴族と言ったのは二つ名だからだろう!」
二つ名?
なんだそれ?
苗字の事か。
「意味わからない」
「二つ名、二つ名前がある人は貴族。
三つ名、三つ名前がある人は王族に決まってるじゃない。
常識でしょ?」
「そうなのか」
じゃあ、俺は貴族なのか?
あんなに田舎に住んで居るのに、
その話になるとセナは王族って事になる。
「ふ〜んこの程度の知識も無いようじゃ、冒険者としてのランクもジョーカーかしら。
私達はこの歳でダイヤのランクの冒険者なのよふふふっ。
貴様のランクも教えなさい!」
ダイヤ……
俺より下のランクか…………
これで俺が上のランクでクラブって言うと、
またわぁわぁうるさくなるぞこのお嬢様は。
あぁ、めんどくさいな。
そう言えば、シルビアから貰った隠蔽スキルを使うか。
「ほら……同じランクのダイヤだ」
俺は隠蔽した冒険者カードをリリーに見せた。
「ぐぬぬぬぬ! 貴様が同じランクとは」
「その歳でこの三人と同じランクの冒険者とは、相当な鍛錬をされたのですね」
ダイヤでもそんなに睨むのか、
どんだけ敵対心を持っているんだよ俺に。
セバスチャンは尊敬の目で俺を見つめていた。
「いえいえ、そんなことありませんよ」
店内と店外が急にザワザワと、
とても騒がしくなっていた。
「なにか騒がしいですね」
「何かあったのかしら?」
ピケとソノは突如──
騒がしくなっていく周りに違和感を感じていた。
セバスチャンはレストランから出ようとしている。
人に声を掛けた。
「どうかされたのですか?」
「博物館からビニ町の守り神の岩龍のクリスタが盗まれたらしい!!」
「なんと!!」
歯車が動き出した。
想い細胞の一粒一粒を張り裂けるほど──
復讐に燃やしていた。
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