第26話「武器」
────チイエ湖。
俺達は想像していたよりも時間が掛かっていた。
シグマが言っていたように経験が浅いのと、
圧倒的な情報不足だからである。
レイは幼い頃から執事たちと、
一緒にダンジョンに潜っていた。
だが、広い世界でクエストを受けての、
魔物討伐は初めてだった。
俺達は水のエレメントには、
まだ遭遇していなかった。
チイエ湖はのどかでアクアブルー色の大湖だ。
湖の周りには綺麗な黄色い花が咲いていて。
その周りに森が囲うようになっている。
俺はこんなに綺麗な湖は見た事がなかった。
海外とかのリゾート地みたいだな。
しかし、魔物が多いな。
「なかなか広いなこの湖は。しかも、周りの森もかなり広い。
それに森にいる魔物の多さ、大変だこれは」
「はい、ここはなかなかですね。お兄様」
「いや〜それにしても、レイの火の魔法は本当にすごいな。
それと闇魔法も強力だし!」
「そんなことないです、お兄様」
「そんな事あるぞ、レイ!」
「お兄様〜」
レイはとても喜んでいた。
俺達は湖を周りを沿うように散策していた。
だが、俺はほとんど魔法を使わずにいた。
それはレイの魔法が強力で、
魔物を瞬殺していたからである。
レイ無双である。
俺は心底、感心していた。
前世のゲームとかだと、
こう言うのは寄生とか言うのだろうか。
俺の妹は強いのだ。
「なかなか、水のエレメントは現れないな。
何か条件とかあるのか?」
「そうなのかもしれません。とりあえずお兄様。
今日は満月も綺麗と言うことですし。一日ここで過ごしましょう」
「そうなのか! 満月かいいな〜」
「はい!」
異世界で月見とか風流だな。
しかも、異世界キャンプとか──楽しみだ!
「でも、何度も言うがレイはすごいな。魔法も使えて。
しかも、レイピアで魔物を倒すから」
「お兄様はお使いになりませんの?
魔物が急接近した際などは、とても便利ですよ」
「あぁ、確かにそうだな!」
「はい!」
そういえばあの時。
ダンジョンに潜る前にクリスから貰った。
短剣のシルバーウッドがあったな。
俺はレイの言葉で思い出し。
アイテムボックスから初心者装備、
シルバーウッドを取り出した。
この武器の名前は単純で、
タングからポイントまで鉄のシルバーだからである。
「──どうかなレイ?」
「カッコイイです! お兄様」
「初めて武器を使うから、
ちょっと弱い魔物で試してみたいんだが、いいかな?」
「はい! もちろんです。お付き合い致します」
「ありがとうな!」
俺達は弱い魔物を探し。
湖の周りから森へ入り──森の中を散策した。
そして、小さいうさぎを発見した。
「あれはホーンラビットだな!
あそこのホーンラビットがいいかな」
「お兄様! ガンバです」
ホーンラビットは前世のうさぎと見た目は変わらず。
スライムの次に弱い最下級の魔物。
一角獣の小さい兎だ。
だが、この角がぶつかってきたら、痛いだろうな。
これが最下級なのか笑ってしまう。
俺とホーンラビットは睨み合っていた。
「お兄様! シルバーウッドで処理してみましょう」
「わかった。〝物理耐性〟よし、倒すぞ!!」
俺は物理耐性を付与させて、シルバーウッドを構えた。
ホーンラビットは全力で威嚇をしている。
────ぴぎぃ!!!! ぴぎぃ!!!
「なんだコイツの鳴き声! スライムと同じ鳴き声だ」
「はい。ホーンラビットはスライムと間違われたりします。
スライムと思って行くと、
ホーンラビットでドスッとなったりするそうです」
ドスッてなるのか……。
これは……ドスッってなる前じゃないのか俺。
そう思いながら、勇気を振り絞り。
短剣をホーンラビットに向けて突いた。
「────消えろぉおお」
ホーンラビットはぴょんと跳ね、余裕で避けた。
俺は再度斬りかかった。
だが空振りをした。
最下級すら倒せないのか俺。
しかも、ただの兎でこれだ。
「はぁはぁ、全然当たらない」
着地と同時にホーンラビットが切り返し、
──突進してきた。
「くっ! やばい!!!」
「────止まりなさい〝弱遅化〟」
レイが唱えた中級闇魔法。
相手の動きを一定時間、遅くする魔法だ。
すごい、兎がノロノロだ。
これは楽勝だな。
少し虚しいが……。
すかさず俺はホーンラビットにシルバーウッドで斬りかかり、
やっと倒した。
だが、最下級の魔物相手にかなりてこずった。
それと同時に俺は初めて手にした武器の重さを経験した。
「────はあはぁはぁ、やっと倒せた」
(……お兄様、手が震えている。
あの時のダンジョンで魔法を使おうとしていた……私のように震えている)
「お兄様? 大丈夫ですか……?」
「大丈夫じゃないかも。
まさか魔物と近距離で対面するのが……。
こんなに怖いとは思わなかった。
だが、これは多分経験だな! 慣れないとな!」
生き物をこう狩りしたことが無いから。
正直怖い。
魔物だって生き物だ。
武器を使えないとか情けない冒険者だな。
全く俺は。
レイは俺の為に少し考えている。
そして、一拍を置いてニッコリと微笑んだ。
「お兄様! 私を信じてくれませんか?」
「もちろん!」
レイは何か作戦があるみたいだな。
俺達はまた森を散策しホーンラビットの前にいた。
「お兄様、ホーンラビットの体当たりを一回、身体で受けてみてください。
今は物理耐性が効いていますので、
お兄様の自身の魔法を信じてみてください!」
「わかった」
ホーンラビットが勢いよく、
俺に向かって突進してする。
とりあえずレイの言った通り、
俺は身体をグッと動きを抑え、身構えた。
そして、ホーンラビットの角が俺の右腕にぶつかった。
「あれ? 思ったより痛くない」
ホーンラビットの攻撃はチックっとするくらいで、
全く痛くなかった。
俺は意識を集中させ、
シルバーウッドでホーンラビットを直ぐに倒した。
少し緊張が解けたような気がした。
これなら最下級魔物だったら倒せそうだ。
「倒せた!!」
(誰しもが心に余裕をもち。
壁を超えれば動きが変わるはずです。
あとは場数次第ですね。お兄様)
「さすがです!お兄様」
だだ、手に残るこの感触はやはり苦手だ。
武器か……。
俺達は魔物を倒し場数を積んでいった。
あっという間に──日が更けていく。
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