第25話「姉妹」
銀白のティスモから、
レイが召喚したのはペガサスだった。
召喚されたペガサスはとても神々しい姿を見せていた。
純白の光彩を浴びているみたいに翼の羽、一枚一枚までも純白だ。
その美しさに酔うかの様に、俺の頭の中に綺麗と言う言葉が、
沢山、浮かんでいた。
「これは! シフォン・S ・クリサイドが発見した。
ティスモ!!」
「はい──その通りです。お兄様」
「これが、そうなのか」
レイは目を光らせ、決死の表情を俺に見せる。
俺はレイの表情を見て、息を呑んだ。
「私はこのペガサスを召喚してダンジョンに潜っていました。
その際は正式契約していなかったので魔法陣に乗った後、
ペガサスは消えてしまいました」
「……そうだったのか」
「はい、お兄様」
(……そう、私はあの時、死を覚悟したのです。
お兄様が探しに来るまで…………)
レイは俺の目をじっと見つめている。
だが、その表情は淡い悲しみを心の上に浮かべる様な。
そんな表情に見えた。
「私は罪があります……お兄様がおっしゃる通り。
これは私の姉、クリサイドお姉様の発見したティスモです。
私はこれを姉から盗んだのです。
私は何もかも嫌気が差し全てを捨て……逃げ。
その……その…………」
「話してくれてありがとうな」
「お兄様……」
(お兄様、ありがとう)
レイは全てを話そうとしたが俺が遮った。
少し身体がカタカタと震えた様な気がして。
どれだけ、レイは嫌な思いをして、あの場にいたんだろう。
また、俺は考えてしまう。
少しでも俺はレイの心の助けになれば、
いいなと感じた。
「レイ、まあ、そのなんだ!
時間が許したら連絡してあげるか、こっそり返すんだわかったな」
「お兄様が入院されている際、私はお姉様に連絡をしました。
そして、貰いますって言ってガチャ切りをしましたよ!」
「なんだよそれ! よかったなぁ」
「……はい、お兄様」
レイはニヒルな笑顔見せ、強がりながらも俺に言って見せた。
俺はそれを聞いて笑った。
もう、家族に連絡してるなんて。
一歩、前に進んだんだな。
過去が全てではない。
だからと言って未来が全てではない。
今、自分がどうしたいかだ。
レイはそれを理解し、成し遂げた様な気がした。
(……しかし、お姉様はあの時、急な連絡なのに)
---
「お姉様、お久しぶりです。私、サイデシアです」
「はい」
「私は今、マグノイア・レイと名乗っております。
大切な方達が名前を下さって生きております」
「……そうなのか」
(サイデシアはやはり、シフォンの名を捨てたのか……)
「私はお姉様のペガサスを盗みました。
ですが、このペガサスを私に譲ってはいただけないでしょうか?
私は魔法をまだまだ使いこなしていません。
大切な方を守るお力が必要なのです。
何年も会っていない人間が今更こんなことを……」
(……サイデシアが自ら魔法だと!?
あの事件からあんなに魔法を聞くことも、
見ることさえ怯えていたあのサイデシアが……?
魔法を習おうと、しかも人との繋がりをだと……。
そんなに大切な人と出会えたのか…………)
クリサイドは過去を思い出しながら考えに耽っていた。
妹であったサイデシアに、王族というしがらみの所為で、
何も出来なかったという後悔がクリサイドはずっと心の中にあった。
離れて行く、妹に何も出来なかった。
時間が過ぎて行く程に後悔としがらみが縛った。
同じ血を引く妹さえも護れない。
心の弱さを隠すように、クリサイドは冒険者という道で、
ただ、がむしゃらに成果を上げて行ったのである。
「わかった……気にするな、私も実力不足で盗まれたのだ。
まだまだってことだ。
大切な妹の声を久しぶりに聞けたんだ。
それでもう何も言うな。だからそれはもうお前のものだ……。
すまなかった……。お前を助け出してやれなくて………」
お姉様は血が繋がっている──
シフォン家で私を気にかけてくれた方である。
(……私はお姉様を妬んでいたのかもしれない……。
私にないもの全てを持っていたお姉様に…………)
レイはクリサイドの言葉を聞いて、
目を瞑りながら過去をゆっくりと認めていく。
「いいえ、そんなとこはありません。
私は感謝を感謝をしております。
シフォン家で生まれたこと……。
あなたの妹であれたことを……。
またいつの日か会いに…………」
クリサイドはシフォン家で生まれてよかったと言った、
本心の言葉を心に置いた。
(また、会えるのか……)
「あぁまたな……。お元気で」
「はい、お姉様も」
短い会話だったが、
長いすれ違いを埋めた、大切な会話であった。
たったたった一言から、
相手に寄り添うだけで今まで見ていた景色が変わるだと、
強く感じていた姉妹だった。
---
「ではお兄様、私の後ろに乗ってつかんでください」
レイはペガサスに乗っている。
俺はそう言われ、レイをがっしりと抱きしめつかんだ。
レイは驚きながらも声を漏らした。
「はうぅううううお兄様──その……」
「──ごめんレイ。高い所苦手で……慣れるまで悪い」
「わかりました。では行きましょう!」
「あぁ!」
なんかこれ前もあったような?
デジャブか。
そう思いながら俺達は空の旅を経て。
チイエ湖についていた。
不思議と今回の空の旅は怖くなかった。
高所恐怖症なのに、不思議なものだ。
姉と過ごす毎日はどんな場所に居たとしても、
日陰を感じていた。
時が経ち。
彼女の心に優しい残照が二人の見失った、
時間をも照らしていた……。
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