第22話「歯車を見守る者」
「レイ、行きたい場所があるんだ。
もし、よかったら一緒に行かないかい?」
「はい、お兄様と一緒であれば何処へでもお供致します!」
俺達は昼食をすまし席を離れた。
そして、お会計をすませようと、レジの前にいた。
店員さんはプラティークで伝票を確認しているが。
少し時間がかかっていた。
「大丈夫ですか?」
「その、お二人のお会計はすでに済ませてあるみたいです」
「えっ?」
「はい、あちらの方が!」
俺は困惑しながら、
店員さんが手の方へと視線を転じる。
かなりガタイのいい屈強の戦士。
筋肉隆々、褐色の肌の男。
カウンターの椅子に腰掛けているが、
何故か俺をジッと見ている。
俺は何かやらかしたか?
「レイのあの人は知り合いかい?」
「いえ? 違いますよ!
お兄様のお知り合いではないのですね」
「あぁ」
しかし、知らない人に、
急に奢られるってのも怖いものだな。
初めての経験に、俺は少し動揺をしながらも。
俺は少しだけ男に近づいた。
「その……すいません!」
「ああ」
俺の声を聞くと、椅子に腰かけていた男は立ち上がり、
俺の元へと近付いてきた。
「俺達の昼食代を支払ってくれたみたいで、
その……ありがとうございます! 何かあったんですか?」
「君と僕は初対面だか、君は数日前ダンジョンから担ぎ込まれて。
退院したと聞いて、奢ったんだよ」
そうは言うが男は表情は変わらずにじろりと俺の目を捉えながら、
淡々と会話をしている。
「そうだったんですね! ありがとうございます」
「いえいえ、ではクエストなど、頑張りたまえ」
俺と握手をして。
そそくさと、その男は直ぐに酒場を後にした。
「あっしまった!! 名前を聞くの忘れた。
ははは、急な親切さんもいるんだなぁ」
「そうですね」
(……あの男。お兄様が退院したのを知っている。
しかも、私達が出るまでカウンターで待っていた?
私の方は一瞬も見向きもしなかった。怪しすぎる)
まぁ、あまり気にしない方がいいよな。
だが、怖かったぁ〜
ガタイよすぎだろ、さっきの男。
「レイ、行くか」
「あっ……はい!」
俺達は酒場ルルージュを出て。
教会に向かっていた。
ダンジョンの件を思い返す度。
ここには早く足を運ばないと行けないと感じてしまい。
俺は足を運んだ。
「お兄様、教会ですか?」
「ダンジョンを無事に出れたし、一応な。
お礼を言っておこうと思ってさ」
「お兄様、それはとても良いことだと思います。
感謝の気持ちを忘れない。
素晴らしいことだと思いますよ。
すると、お兄様はセルシア様に祈りを捧げるのですか?」
やはり、この世界はセルシアって女神が有名らしい。
俺はこっそりとレイに近づき耳元でこしょこしょした。
「実はなレイ。セルシアって女神様じゃなくて、
シルビアって女神様に祈ろうとしてるのさ」
レイは耳元でこしょこしょ言われ、少し顔を赤らめていた。
(……びっびっくりしました。
なるほど、だから、お兄様はこしょこしょと)
「お兄様!さすがです。
確かにあまり大きな声では言わない方がいいです」
「そうなのか?」
「はい! それは女神セルシア様を祀られているセルシア教会は、
信仰心がかなりあります。
その教会で他の女神様を祈ろうとしてるのを気づかれると、
変な目で見られます」
「なるほど! じゃあこっそり祈ろうか!」
「お兄様! 私もシルビア様に一緒にお祈りを捧げます。
私とお兄様を無事にダンジョンから救い出してくださった女神様に……」
「おぅそうだな! ありがとうなレイ」
俺達は教会に入り。
そして、祈りを捧げた。
---
すると、前回の様に目を開けるとあの場所にいた。
〇神と時の部屋だな全く。
「フハハハ!!!! フハハハ!!!!!! お主!!
地獄の掩殺シュグマの黒炎から雷鳴を持って制するとは! フハハハ!」
……また訳の分からないことを言って。
呆れながらシルビアに視線を転じると、
俺はシルビアの姿を見て驚愕した。
「はっ……何だ! その姿、シルビア何があったんだ?」
「フハハハ!! 記念だ! 記念!!!」
シルビアの姿は黒いゴスロリを着て。
金髪ロングな髪をツインテールにしていた。
そして、片目に黒い眼帯をつけて、
高笑いしている。
「記念……。何だよそれ!!」
俺は呆れ半分驚き半分だった。
何があったんだ、これ……。
格好がだんだん厨二病の侵食を受けている。
スーパーモデル級以上美人。女神のコスプレ。
本当に超絶美人だなシルビアはスタイルがいい。
「はあああううう!!!! コホン……。
私がこの格好をしている理由は、祈りが増えたから嬉しくてな」
「祈り?」
格好は奇抜だが、いつものシルビアだ。
咳払いした後に普通になる。
シルビアは俺の言葉を聞いた後。
その場でくるくると周り、とてもニコニコと笑みを見せている。
「うむ、よくぞ聞いた!
それはな君の妹のレイだよ。
彼女は深く、私に祈りし感謝をしていた。
それで私はこの格好なのだ」
「何だよ、それ!」
俺の言葉にシルビアは急に精悍な顔付きになる。
俺はその顔付き見て息を呑んだ。
そして、一拍を置いてシルビアは口を開いた。
「神と言われるもの、いや違うな。
全ての存在は、誰かに認識をされている事で、
生きていると言う実感が湧くんだよ……。
そして、認識されていないのは、死んでいるのに近い事なのだよ……」
その言葉を言った後シルビアは少し思い詰めた表情をした。
そして、シルビアは直ぐにいつもの様な笑みを見せた。
「その君はなんで急に祈りに来たんだ?」
「感謝だよ。
ダンジョンのな、あの言葉で勇気が持てたんだ。ありがとうな」
「ふふふっ、知っている。妹が祈っているからなぁ」
「じゃあ、何で聞いたんだよ!」
「なんとなくだ! でも、無事でよかった」
シルビアは俺の話を聞き、またニッコリと笑顔を見せた。
「まぁ、それに俺も攻撃魔法ができるようになったからな」
「雷魔法か?」
「そうそう! この魔法って使っていいのか? そのなんだその……」
俺は言葉がつまりながら確認をするように。
何故かシルビアに告げた。
「あまり世界を気にしなくていい。
自分のままにいきなさい! フハハ!!
雷鳴を持って、邪心シルビアを超えてゆくが良い!
さすればまだ見えぬ、アトランティスへと続くであろう!!!
我が封印されし片目がそう言っておる。もう時間だ……」
シルビアは左手の指を俺に突き刺しながら、
瞳をグッと見つめながら俺に告げた。
「そうか、とりあえずまたな!
会えてよかった。また必ず祈りに来る」
「あぁ。雷騰雲奔のように──ハッハッハ!!」
「訳分からないよ〜またな」
---
そして、俺は眼を覚ました。
何故かレイは俺のほっぺにキスをしていた。
あの時のようにとても柔らかい感触が、
俺の頬から全身に伝わっていく。
────ぇぇぇぇえええ。
レイが頬っぺにキスしてる。
「はっレイ、何を……??」
「不意打ちです」
俺はレイの不意打ちに面をくらい。
レイはにっこり、とても可愛い笑顔だった。
何も言わずレイは俺の手を握り。
教会の外へと連れ出したのである。
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