第21話「その後」
俺はレイに経緯を聞きたかった。
ダンジョンで意識を失っていた後どうなったのかを。
その為、酒場ルルージュにいた。
椅子に座ってからも、酒場内はざわめきを呼んでいた。
それはレイの整った目鼻立ち、
凛とした佇まいは同性の視線すら引き寄せ程であった。
(((殺す。殺す。あの男羨ましすぎる)))
まぁ、わからんでもないけどなぁ。
周りの気持ちは……。
だが、否だ。
俺は殺気を無視して、レイに告げる。
「なぁレイ! ダンジョンででかい蝶と戦った後ってどうなったんだ?
俺はどうして病室にいたんだ?」
「私が絶望の最中、お兄様は見たこともない魔法を唱えられて。
それで、アイスバタフライは見事に消滅しました。
とてもすごい光がバチバチした魔法でした!!」
「なるほど、それで帰れたってわけだな」
「はい! その通りです。
お兄様のお陰で今の私があると言うことです」
「いやいや、そんな事ないぞ。
レイの勇気と頑張りがあったから、俺はあの時、魔法が打てたんだ」
「お兄様!」
レイは惚けたように俺の顔を見て話しをする。
先ほどから目の前に置いてある料理に手を付けず。
夢中で話している。
だが、俺はあの化け物みたいな蝶を、
一撃で倒したのか?
レイはそう言っているが。
まぁ、ラッキーだな。
レイの視線が一切、ブレないのだが……。
大丈夫か?
「レイ、大丈夫?」
「あっはい! でも、お兄様すごい事が起きたんです!」
「すごい事とは?」
「私のアイテムボックスにはなんと、アイスワームのクリスタがありました。
もしかしたら、お兄様のアイテムボックスにもドロップされているかもしれません。
万が一なかった場合は私のクリスタとシードもお渡し致します」
「いやいや、レイの力で倒せたんだ。
だから自動分配された、アイテムはそのまま、持ち主の物にしよう!」
「はい、お兄様!」
ボスのクリスタかすごい事だな。
普通のクリスタ自体でも結構いいペルになるのに。
ダンジョンボスのクリスタか。
俺はプラティークでディスプレイを開き。
アイテムボックスを確認した。
「どれどれシードがあればラッキーだよな。
えっとシード二つだな。クリスタも一つもあったぞ」
これは良いお金になるな。
ラッキー、ラッキー。
「さすがお兄様。クリスタがドロップするのもかなりのラッキーなのにそれを二人で分かち合えるとはお兄様──」
「後はシードが二個とアイスバタフライのクリスタ一個だ。レイもあったのか?」
──レイはその言葉に驚愕していた。
先程までポーっとしてた顔が一瞬で表情が一変した。
俺はそれが気になって直ぐ言葉を掛けた。
「……どうかしたか? レイはなかったのか?」
「その……はい。お兄様はアイスバタフライは知っておられますか?」
「いや、知らなかった。
ラサマ村の図書館で見た本にはアイスワームの情報しかなくて。
まさか、ダンジョンボスが二段構えなんて、正直ビビったよ」
レイは息を呑み込みながら。
小さな声で俺にだけに聞こえるように告げた。
「それはそうです。
あのアイスバタフライは何百年も出現が確認がされてなかった、ダンジョンボスです。
ですので、三人にはアイスバタフライと遭遇したことはお伝えしておりません」
「そうだったのか」
だから退院した時。
そんなに驚かなかったのか。
そんなボスと戦ったって言ったら……。
まぁ、言わない方がいいな。
「はい……お兄様。
アイスバタフライのシードは歴史の中で確認されたことはあったみたいですが。
そのクリスタとなると多分これは国宝級以上のアイテム、伝説級です。
お兄様、アイスバタフライのシードとクリスタはとりあえず、
ギルド換金やオークションに出すのは、一旦控えてください」
「わかった」
「でもお兄様は、やはり凄いです!」
レイはとてもにっこりして可愛い笑顔を見せた。
確かにこんなのは売れないよなぁ……。
伝説級とかそんなの売ったらいくらで売れるか。
全く想像がつかない。
そっとしておこう。
誰にも告げないようにするか。
「あとお兄様!
もしかすると冒険者のランクがジョーカーからダイヤに上がっているはずです。
私と同じダイヤです。
きっとダンジョンボスを倒しましたのでなって、おられるはずです」
冒険者のランクが上がる方法。
ギルドからのクエストを受けその報酬で上がる。
もしくは魔物を倒し、プラティークが魔素を吸収し、
ある一定数なると、ランクが自動的に上がる。
「わかった。確認してみる」
俺はプラティークで冒険者カードを確認した。
目に前にあるのはレイが言っていた、
絵柄とは違うのが映し出されていた。
何だこれ、いやいやまじか。
「──クラブの絵柄だ」
「えっ!! クックラブですか。
私はあの時、魔力が尽きていたのでアイスバタフライに攻撃をしていません。
アイスバタフライを倒した時の魔素が全てお兄様の方に? こんな事が…………」
レイは先ほどの、
伝説級のアイテムをドロップした時よりも驚嘆していた。
これはなかなかないんだな。
すごい変化だな、全く。
「これってやはり、凄いことなのか?」
「お兄様は冒険者になって日が浅いですから」
「そうなのか」
「さすが、お兄様です」
じゃあ、俺はセナと同じランクなのか。
だが、セナはどれだけ強いんだ。
とりあえず急な変化に足元を掬われないように。
気をつけないとな。
帰還の後は居心地のいい陽だまりをみつけた。
鳥のような心境でレイは居た。
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