第19話「シフォン・S・サイデシア」
私の名前はシフォン・S ・サイデシアと言う。
王族シフォン家、五人目の子供である。
シフォン家は火を司る。
最高権威のある名高い家系だ。
髪の色が赤く、深紅であるほど、
血は濃く受け継がれ。
────才能があると信じられていた。
私は生まれながら青い髪だった。
シフォン家で初めて赤色以外の髪。
忌み嫌われる人たちもいた。
だが、普通に対応してくれた人も多くいた。
五歳になって。
私はシフォン家の中で一番魔力量が多く才能に恵まれていた。
周りはそれに気付き、
それから少しずつ環境がよくなっていった。
私は自分の姿など気にせず、
魔法と言う、表現方法で周りに自分を示していた。
私は努力を怠らなかった。
周りと同じではダメだ。
私は朝早くから普通の子供が寝る時間に入っても。
ずっと──ずっと魔法の練習をしていた。
私は示さなければならない。
この髪でも、私を慕ってくれる人の為に、
休む時間などない。
六歳のある日。
いつもの様に魔法の練習していると、
魔力のコントロールが突如できなくなった。
私は不安に駆られた。
私の唯一無二の自分が消えてしまう。
私の価値が消えてしまう。
焦り。
練習に明け暮れた。
焦った。
焦って──焦って……。怖かった。
怖い…………。
──何故?
私にこんな仕打ちを、
私は何かをしたのだろうか?
私はその後も無茶な練習を繰り返していた。
昼夜も問わず。
繰り返していた。
その際、とてもよくしてくれた人が、
私の身体を気にかけて、止めに入った。
私はよりによって……。
魔法が暴走し、
とても良くしてくれた人と自分の顔に大火傷を作ってしまった。
私は今更気づいた。
私を気に掛けてくれた人がいるのだと。
────見ていなかった。
それから。
周りはシフォン家の青髪は不幸の象徴と言い。
近寄らなくなった。
私も離れた──
私の目は節穴だ。
本当に大切なモノに気づかない。
憂鬱で絶望的な気分が胃の底から頭まで──
広がりながら日々を過ごしていた。
私は魔法が怖くなっていた。
この様な気持ちはもう二度としたくはない。
──怖い……。
それからシフォン家は私を隠そうと、
仮面を作り。
遠ざけた。
当たり前だ……。
────魔法が使えない。
青髪、醜い顔、誰が王族で持ち上げようとする。
しないのは分かりきっていた。
諦めた……
心の扉の内側から板を打ち付けていく。
日々が何事も無いかのように、
物静かに過ぎていく。
私の姉が冒険者となって、
さまざまを大功上げていった。
初のペガサスまで手に入れたらしい。
周りの人間は誇らしげにその話をする。
私はその話を聞く度に、
体内を風が吹き抜けるような空虚さが通った。
羨ましくなんて……ない。
決まっていた運命だ。
生まれた時から決まっていたのだ。
──期待するな。
諦めろ──
鏡を見ろ……。
それで私はいつもの様に理解する。
私は生まれた時から運命が決まっていたのだと。
いつの間にか手にペガサスのティスモを持って。
──私は全てを置いて逃げた。
逃げて──逃げて。
逃げた……
希望ないのに。
誰も居ない場所へと、
もう誰とも関わりたくない……。
そして、シルバーウルフに襲われた。
抵抗する事に意味があるのか?
違う……抵抗出来ない……。
私は魔法が使えない。
──これは私の罰だ。
心の呵責が渦を巻いて心を支配した……。
────生きるのを諦めた。
そこで私は彼等と──出会った。
私は救われたのか?
黒髪の少年が、
あの時、助けてくれた人と同じ顔をしている……。
もう……同じ想いをしたくない。
黒髪の少年が魔法を唱えた。
今まで、魔法の練習で出来た傷が消えていく。
だが、私の顔の火傷は消えない。
……やはり消えない。
何を期待している。
やり直す。
──そんな事が出来るわけがない。
女として終わっている。
『この子、とても綺麗なのにもったいない』
────えっ??
何を言っている。
そんな……わかりやすい嘘を言った所で……。
何になる。
──えっ??
嘘、でしょう……。
表情を見てわかった。
瞳を見てわかった。
この大火傷をしてから、
私が今まで見たことのない表情を。
彼は見せた。
……本心なの?
何で……。
どうして??
彼が魔法を唱えた。
〝修正光〟
私の顔の火傷が消えていく。
……なんて優しい魔法なの……。
──温かい……。
彼は一緒について来いという。
考えるよりも早く。
本心のままに首を縦に振った。
その後も彼等は私を元気づけようとしていた。
二人の優しさが──苦しかった。
急に彼が私に言った言葉。
意味はわからなかった。
ただ、私にとってはとても大きかった。
────彼が私に名前をくれた。
とても嬉しかった……。
違う生き方もあるのだと思ってしまった。
縋りついてしまった……。
そして、彼の家族と会うことになる。
彼の親は私を見透かしていた。
──言葉が出ない。
この時になって言ったらいいのか……。
わからない。
彼の父親は優しく。
強い眼差しで私を見つめる。
『娘になればいい』
──どういう事?
私の一番欲しかった……家族。
私は受け入れた……。
少しだけわがままをしても……。
いいよね?
心に沁みわたるような眩しい時間だった。
神様が最後にくれた時間なんだと思い……。
──過ごした。
だが、シフォンの名前が私を縛る。
私の青髪は周りをきっと不幸にする…………。
私は逃げた。
また、私は逃げてしまった……。
そして、私はダンジョンに居た。
……もう、疲れた。
私はダンジョンを進んでいく……。
私は手首に付けている。
ブレスレットを見てしまった。
あぁ……会いたい。
何を考えているの……私……。
……諦めよう。
私はブレスレットを捨て。
魔法陣に乗った。
召喚獣が消え。
私は一人になった。
消えたと同時に恐怖が支配した。
私は死ぬのが怖いんだ……。
希望の光を見てしまった……。
……見てしまった。
私はその場から動けなかった。
怖い……怖い……。
死ぬのが、怖い……。
ごめんなさい……。
助けて……。
怖い……。
彼の声が聞こえる……。
私の身体に響いて。
私は走り出していた。
目の前には彼しかいない。
一人??
彼は死ぬ覚悟でこの場に来たの?
……どうして!!!!!!
私は彼を叩いた……。
私は彼を殺してしまったんだと……。
……でも、でも、何で?
……何で嬉しいと思ってしまうの……。
……何で……。
『家族だから』
私は泣き崩れた。
愚かだった。
全てが。
独りよがりだった……。
私は生きる道を選んだ。
前には進もうとした。
彼は見せた。
私のブレスレットを……。
それを見せられて再度理解した。
どの様な恐怖を感じ。
ここに至ったのかを……。
私は決意した。
この人を死なせないと。
ダンジョンのボスと相まみえた。
不思議と恐怖がない。
だが、彼は恐怖している。
当たり前だ。
彼には攻撃方法がない。
ここに一人で来たのは……。
かなり、無理をしていたんだ。
──わかってる。
そんな事は──
私がこいつを倒すんだ!!!
私は魔法を唱えた。
────魔法が使える。
彼を助けられる。
私は彼の言葉で理解する。
克服していなかった。
震えている……心が。
──魔法を使いたくない。
彼は必死に戦っている。
いや、守っている。
私と同じ恐怖を纏いながら。
────私は魔法を唱えていた。
いつの間にか魔法を。
しかし、その瞬間、私は絶望をした。
あぁ……やはり私は死ぬべき運命だったのだと。
目の前の魔物の姿を見て。
悟った。
後悔はある。
彼を死なせてしまった……。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
『〝魔力盾〟!!!!』
何度も、何度も、彼は同じ魔法を唱える。
無限に感じるような……絶望の中で。
その瞳は変わらなかった……。
…………どうして?
──言葉が彼の瞳に吸い込まれるように落ちていく。
『私は生きて……アナタと一緒に魔法を習いたい』
私の未来が途方もない厚い重い後悔の壁で邪魔をする。
しかし。
私の暗闇に彼の言葉が発していく。
奥底まで光るような閃光が……。
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ビニ町に戻っていた。
レイはクリスとセナに何度も謝った。
セナとクリスはいっさい責め立てもせずに。
よかった本当によかった──と何度も言う。
唐突にクリスはセナとレイに話を告げた。
「私がダンジョンにいるって分かったのは同じ経験があったからだ。
それは子供の頃、とても貧しくて、全てが嫌になった。
死んでも見つかりにくい、ダンジョンにこっそり死のうと思った。
ダンジョンに入ったら全てが怖くて──
でも、やっぱり今更ながら贅沢に生きたいって思ってしまったんだ。
その絶望の最中に教会にいた、シスター達が僕を救おうと必死に探して来てくれたんだ。
──涙が沢山出た。
その時、僕は生きたい、生きなきゃダメだって心の底からそう思った……
勝手な事をやって、勝手に思った事だけど。
僕にとって心がすごい救われたんだ……」
レイはその話を聞いて、
心が風に吹かれる木の葉のように揺れる思いでいた。
(彼に直ぐ会いたい)
表面に埋うもれていた扉の外側の思いは。
今なら気づけたかもしれない。
晴れやかな色を顔に浮かべながら。
今の想いを噛みしめていた。
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