第16話「感情」
俺は急いで先へと向かった。
まだ震える手をそのままに先へと進む。
先に進むと二つの道に分かれていた。
片方の道の前には身に覚えのある。
ブレスレットのプラティークが落ちていた。
俺はさまざまな感情の中に一点の明かりが点じられ。
落ちているブレスレットのプラティークを、
手に取り、確認をした。
「これは──レイ、レイのプラティーク?!
名前が彫ってある。間違いない!」
この先にレイはいるのか?
早く、早く……。行かないと。
呼吸が乱れながらも。
歩みを止めずに、前へと進む。
二つに別れている道の、
ブレスレットのプラティークが落ちていた。
……先へと進む。
少し進んでいくと。
目の前を見た、瞬間に戦慄が心を支配した。
魔法陣だ──部屋を降りる階段ではなく。
魔法陣……。
嘘だろ……。
何処に飛ばされるのか考えると……。
俺はとても──ゾッとした。
今までにない恐怖に俺は青ざめ、手が震えた。
怖い。
進みたくない。
魔法陣なんて……。帰って来れるのか?
だが、レイもこの思いをしているのかもしれないんだぞ?
いいのか俺。
────男だろ。
「迷うな……。俺! 行くんだ!!」
竦む足を引き摺るように、俺は覚悟を決め。
魔法陣に乗った。
そして、飛ばされたと、同時に中級光魔法を唱えた。
「どこにいる──〝探知範囲〟」
魔法で確認すると、近くに人の気配を感じた。
俺は必死に声の限り叫んだ。
「レイ!!! レイ!!!! どこにいるんだ!!!
俺だ!!!」
すると、遠くにはレイの姿があった。
まるで夢が覚めたような顔つきで、
レイは俺の元へと走り出していた。
「何で!? 何で! 何で!! ここにいるの??
何であなた一人なの!!
何で──どうして!!!!!!」
辺りかまわぬ、聞いたことのないレイの大声。
初めて、ぶつけてきたレイの感情。
レイは俺の胸に拳を何度もぶつけながら、
消え入りそうな声で俺に問う。
「何で? 何でここに……。何で……」
「父さんがレイはダンジョンに行ったと言って。
それで来たんだ。
だが、よかった……。会えて。
よかった……。無事で……。本当によかった。」
レイは俯きながら俺の言葉を聞いていた。
叩いているその拳も──だんだんと弱くなっていく。
こんなにも震えて。
レイは更に小さく俺に告げた。
「あなた攻撃魔法使えないでしょ……?
もし、一人なったらどうしようって……。
その時、魔物と戦闘になったらって考えなかったの……」
「考えたけど、きちゃった──家族だから……」
レイは涕涙し頬を濡らした。
俺の服を両手で握りしめ、必死に言葉を振り絞りながら
レイは声を上げた。
「バカ! バカ!! バカ!!! 何してるのよ。
私は……。私は……。あなたを道連れにしてしまった……」
道連れか……。
いや、違う……。俺はレイを助けに来たんだ。
俺が絶望してどうする。
「とりあえず大丈夫だ!
父さんがくれたアイテムがあるから、元の道に帰ろう
強いグリフォンだっている」
俺は何階層か知らなかった……。
レイは何階層か知っていた…………。
「ここはここは八階層……。
戻っても、グリフォンは絶対に途中で消えるの。
そして、私は……。私は……。魔法が使えないのよ。
ここまではティスモを使ってきたの……
どうやって帰るの?」
レイは自分の愚行に痛嘆していた。
そうなのか。
ここは八階層なのか……。
ダメだ、希望を捨てるな。
もう一度思い出せ、俺はなんの為にここに来た。
それを忘れるな。
一緒に絶望する為に来たのか?
違うだろ。
俺は家族を助けに来たんだ。
諦めるな、俺。
「それなら十階層に行ってボスの後ろには魔法陣がある。
それに向かった方がまだ時間はかからないかなって?」
「何言ってるの? 十階層なんて……」
「少しでも助かる道を考えているんだ!
俺はレイと一緒に生きていたいから」
その言葉にレイは両手で顔を隠しながら、
感涙していた。
隠していた感情に火がついたように…………。
──泣き続けた。
---
ほんの少し経ち──レイは落ちつきを見せた。
そして、俺達は前を向いて進んでいた。
もう、大丈夫そうだな。
いつの間にか俺の手の震えも消えていた。
「じゃあ行こうか!」
「確かに、戻るよりも十階層向かう方が、生きる確率は高いです。
十階層にはアイスワームがいます。
ですが、こちらにはグリフォンがいますので、十分に倒せると思います。
十階層までの道のりは私が覚えています。
何回も来た事があるので」
「そうなのか? じゃあ頼りにしてるぞ、頼む!」
「はい!」
(……何で? そんなに真っ直ぐな目で私を見つめるの?
私のせいでこんな目にあっているのに……。何で?)
「あっそうだこれ! 落とし物だよ」
俺はアイテムボックスボックスから、
プラティークを渡した。
「えっ!! 何故、どうしてこれを……。これを持っているの?!」
「途中で見つけたから! レイのだろ?」
レイはそれを見て驚愕して息を呑んだ。
(タクロウは……階段じゃなく。
私と同じ魔法陣できていたというの?
死んだ後、屍が私と分からない様にわざと置いていったのに……。
来た事がある私でも……。
とても、とても一人だと怖かったのに……。
なのにあなたは……。あなたは…………)
「もう、なくしちゃだめだぞ!」
レイは毅然とした態度でぴしゃりと過去と決別した。
「はい、もう離しません!」
「じゃあ、よし行こう!」
沢山の涙を呑んで、
寸分の揺るぎもない決意を持って、レイは進んだ。
この度は、読んで下さり有難うございます。
皆様の評価とブクマが励みになっております。
今後とも、引き続きご愛読いただければ幸いです。




