第14話「親子」
レイが書き置きもなく、居なくなっていた。
「レイがいなくなった。とりあえず……探しに行かないと!
セナ行こう!」
「タクロウ! 落ち着いた方がいいよ」
「早く……少しでも、早く行かないと」
俺は悲嘆にくれていた。
俺があの時、もう少し時間をかけて、レイと話せば。
もう少し、一緒に居てあげれば。
もう少し、レイを知っていれば。
考える度に、後悔が付き纏う。
俺はレイに何もして、やれなかった。
本当に辛い時、そばに居て、やれなかった。
だから、この様な事が起きている。
探しに行かなきゃ……。
また、魔物に襲われているかもしれない。
スズハは俺の瞳を真っ直ぐ見つめている。
「もう少しでお父さんが帰ってくるから、少し待って! ねぇ!」
「でも、こうしている間にもレイが!!」
すると、クリスが力強く玄関の扉を開けて入ってきた。
そして、息を切らしていた。
「はあはあはぁ……レイちゃんが消えたのか?」
「お父さん!! レイがレイがいなくなって……。
今から俺が探しに行く! だからだから……」
クリスは俺の状況を直ぐに理解し、
そして、ギュッて抱きしめた。
「親を、親を頼りなさい……。
そしていっぱい甘えなさい……。
僕は君の父親なんだ、家族だ。
レイも大切な家族だ。だから、困ったら頼りなさい」
俺はそう言われて、何とも言えない愛情を抱いた。
この世界に来て身寄りがいないと感じていた。
俺は母親、父親と感じていながらも……。
心の奥底ではこの人達を少し、避けていたのかもしれない。
魔法の事も、クリスとスズハに聞いた事がなかった。
……怖かった。
どういう、表情をされるのか。
俺はクリスとスズハの記憶が無い。
何故、俺を置いてくれているのか、分からなかった。
最初は感謝しかなかった。
だが、日々が過ぎて行き、
その優しさが、分からなかった。
俺はこの人達に迷惑を掛けたくなかった。
だが、クリスがそんな表情をするなんて……。
俺は思っても、いなかった。
本当に本物の家族なんだ。
「ごめん、父さん。ごめん……」
「あぁいいさ。気にするな、私の息子だ」
セナとスズハは優しく見つめていた。
クリスは優しく俺の頭を撫でて強く抱きしめていた。
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クリスは神妙な趣で告げる。
「お父さんの予想だと、
レイちゃんはダンジョンに行ったんだと思う……。
これは間違いない」
「父さん! レイがダンジョンに?」
「うん、とりあえず母さんは家に、
そして、二人は僕と一緒ビニ町へと急ごう!」
「うんわかった!!」
「はい!」
レイがダンジョンに居るって。
どうして分かるんだ?
だが、それ以外宛がない。
クリスが言っているんだ。
付いて行くしかない。
俺達は急いで家から出た。
すかさず、クリスはティスモでグリフォンを呼び出した。
グリフォンはRPGのイメージ通り。
そのままの鷲獅子だった。
「よし! これに乗っていくよ」
「うわ、すごいグリフォン!!」
「タクロウ行こう!」
俺達はグリフォンに乗って。
急いで、ビニ町に向かった。
俺はクリスにがっしり、掴んで少し震えていた。
この高さで、この速さは、かなりしんどい。
空の旅が、こんなにも怖いとは思わなかった。
キツい。
目を瞑りながら、他の事を考えて凌いだ。
俺の後ろにくっついている、
セナはそれを見て優しく見ていた。
「タクロウ、大丈夫??」
「あっうん高いな、めっちゃ俺、高所恐怖症で……」
「高所恐怖症……!?」
セナはその言葉にハッとした。
そして、セナは優しく、ずっと、大丈夫だよ。
大丈夫だよって言って、俺に優しく声を掛けてくれた。
ありがたい。
「さあ、もう直ぐ着くぞ!!」
俺達はあっという間にビニ町についていた。
グリフォンは空駆けるスピードは、
トップクラスの魔物である。
俺はトップクラスにビビった。
降り立った時も、少し経った今も、
足がガクガクしていた。
だが、レイを心配する気持ちが勝っていた。
一秒でも早く、探しに行かなければ。
脳裏に浮かぶレイとの出会いの瞬間。
魔物に襲われていた、あの姿を思い浮かぶ度に、
俺は焦る。
そして、恐怖が纏う。
大切な人が死んでしまうのではないか。
---
ビニ町に入って。
ダンジョンへの魔法陣がある聖堂へ向かう。
白い趣がある聖堂は──
そこだけ、なぜか雰囲気が違うように感じた。
肌に伝わる、冷たい空気。
危険な場所に、足を踏み入れるのだと実感をする。
聖堂に入ると。
西洋甲冑のような装備が左右にズラッと置かれている。
なんて、奇妙な雰囲気なんだ。
少し、怖いな。
俺達は真っ直ぐ、進む。
轢かれている赤い絨毯の先の三つの魔法陣へと向かう。
そこには、三つの塔のダンジョンへの魔法陣がある。
いくら考えを重ねても言葉にならない焦燥が……。
頭の中でぎりぎりと軋みまわる。
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