第103話「誰が為の世界」
俺達は宮殿を後にし昼食をとっていた。
もう俺の膝の上には当然のように、
ちょこんとルークが座っている。
セナ、レイ、アテナは暗黙のルールを作ったのだろうか。
ルークが満足気な顔で座っていてもルークだからいいかと、
その流れに収まっている。
突如、和やかな雰囲気の中で切り出したのはセナだ。
「僕は転生者なのだよ。ごめんなさい言うのが遅くなって」
「いいよいいよ! 俺だって言い出せなかった訳だし。
何度も言うが、セナはセナさ」
「そうですよセナ! あなたはあなたです。お兄様もお兄様。
しかし、私のお兄様です」
「まぁアタクシは主殿とセナが好きだから、それでいい」
「私もタクロウ様とセナ、大好きです」
その言葉に満面の笑みを見せるセナ。
俺も自然と笑顔になる。
「セナはセルシアに会った事はあるのか?」
「あるけど見た事はないのだよ!」
「どういう事だ?」
「眩しく見えなかったのだよ。ピカ〜って光ってて白くて」
「なるほど」
---
突然、クロが猫ちゃんから元の姿に戻った。
そして、座っている俺の背後から抱きついている。
双丘の暴力が俺の肩に当たっている。
「──なっ! クロ」
「ワタクシもちゃんと会話に参加をしようと思いまして」
「ベッタリはずるいのだよ!」
「そうですわね」
クロは珍しくセナの言う事を聞き、
空いてる席にちゃんと座った。
座ったと同時にクロが話し出す。
「先程、セナが言いました眩しくて見えないに関しては、
命に興味がない、ゴミクズ女神だからですわ」
クロはセルシアの事を、本当に辛辣に言うな。
だが、命に興味がないか。
「どういう事だ?」
「転生者ですら、姿を表さなかった理由は、
単純に見せる価値もないって思っているのです」
「……なるほど」
「あなた様、これでわかりましたわね。
セルシアの気持ち悪さ」
「あぁ」
すると、セナは俺の顔をじーっと見つめ、
またニッコリと微笑んだ後、話し出す。
「じゃあ次は僕の話をするね。
多分、僕とタクロウの元の世界は違うかもだね。
僕の世界ではアニメってのは存在しないのだよ」
「えっ!! セナ、アニメないのか!!!」
「うん!」
俺は驚愕した。
何だ……その世界。
絶望ではないか!!!
この世界にもアニメはないんだが。
「そして、僕はコピーだったのだよ。有名な科学者のコピー。
前世で生きてたのも三歳位だったかな?
そして、直ぐに死んじゃってこの世界に来たの」
「セナ……」
俺達は絶句していた。
だから、初めて魔法を教えてくれた時、
簡単に自らの腕を切ったのか……。
まるで、自分の価値を知らなかったかのように。
ルークは察して直ぐに俺の膝から降りた。
そして、俺は直ぐにセナを抱きしめた、
「セナ……」
「タクロウ! そんな悲しい顔しちゃダメなのだよ!
僕は今がとても幸せなのだよ」
突如、クロが殺気立つ。
その表情は苦虫を噛み潰したように顔をしていた。
俺は初めて目にする、クロのそんな顔を……。
真剣にムカついている顔だ。
「あのゴミクズ……絶対に許さない。
人の命を何だと思っている」
低い殺気に満ちた声色を放つクロ。
「さすが女神様。僕の事、直ぐに分かるんだね!
僕はこの世界でもコピーなのだよ」
その言葉にクロ以外は驚愕した。
「……セナ……何……言ってるんだ」
「それは僕はセルシアのコピーなのだよ。
姿も見た目、そっくりらしいよ。
僕が転生すると際、眩い光の中で声のみが聞こえて。
同じにしますって言われたの」
俺はもう一度セナを抱きしめる。
「あなた様、これはセルシアのただの皮肉なのです。
そういう事を無関心で、できる女なのです」
俺に抱きしめられニコニコしているセナ。
そしてセナは俺の頬をムニュムニュしている。
「僕はタクロウに変えられたのだよ!
少し抵抗したのさ。個性が欲しくて──
あの時、転生した時、
セルシアが喋っていた口調と僕の口調が似ていたのだよ。
気持ち悪いほど。
僕は抵抗のため、一人称を私から僕に変えたのさ。
でも冷たい口調は変わらなかったのだよ」
「……」
セナがムニュムニュするのを辞め、両手で大事そうに、
俺の頬を触っている。
「変な癖がついたのだよ
タクロウと会って、語尾がなのだよになったんだよ!」
セナがそう言った後、柔らかい感触が当たる。
「──ひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあ」
「──主殿」
「タクロウ様がちゅちゅ!」
俺は固まった。
唖然とした。
セナは可憐な笑みを見せる。
「前世と今、合わせてファーストキスなのだよ! タクロウ」
「……セナ」
俺は照れすぎて、セナの顔が全く見れなかった。
やばい──めっちゃドキドキする。
「セナ残念。タクロウ様のファーストはワタクシが貰ってます。
ワタクシもファーストキスだったので、
ファーストキス同時です」
クロがセナに対してニヤリと悪い笑みを見せている。
いや──クロ!!
それ、言葉で言ったら!!!
「お、兄、様!!!!!!!!!!!!!!!!」
「主殿……アタクシもちゅちゅ」
「タクロウしゃま〜」
アテナとルークはたらこ唇を作ってムチュ〜っとしているが、
レイは完全に鬼の形相で睨んでいる。
しかも、レイの背中に龍が見える。
こっこれはス○ンドか?
だが、セナも話したんだ全て。
じゃあ俺も──
「俺はその前世は──」
俺が話そうとした──セナが俺の口を指で抑える。
「タクロウはタクロウだよ!
二回目なのだよ」
──ちゅ。
「セナ……もう許さない」
「えへへ、二回目なのだよ〜
極楽なのだよ」
「女神のワタクシを出し抜くとはセナ。
あなた様、五回くらいしましょう」
「主殿、むちゅ〜」
「タクロウ様、むちゅ〜」
俺が呆気にとられすぎて、
ポカーンとしているところ。
声が掛かる。
「いやいや……まさかこんな修羅場に会うとはね……」
「誰に似たのでしょうかね?」
クリス、スズハ、アリエラが現れた。
クリスはその状況を見て、
まるで自分の事のようにオロオロしていた。
スズハがクリスを睨む瞳が珍しく。
冷たいったら冷たい。
だが、その桃色雰囲気は直ぐに分散する。
アリエラだ。
片膝をついて俯いているのだ。
クロの前に──
「我が敬愛する神よ──ノエル様
我がエルフ族の寵愛の感謝────」
アリエラは自らをエルフと告げ、
そして、クロの事を敬愛の神と──
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