第100話「原点」
心臓を締め付けられるような息苦しさ。
真っ黒のこの空間に来てから名もなき相棒は、
反応を一切見せない。
「〝黒棺〟」
クロが?を唱えた。
クリスとセナが一瞬でどす黒影に包まれる。
刹那の事に俺は声もあげることすら出来なかった。
思考が一瞬止まる。
漆黒の空間におびただしい血が染まる。
それなのに俺は目の前のクロに対して思わなかった。
セナクリスが死んだ──
死んだ。
死んだ────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────
俺は慟哭し叫んだ。
なんて叫んだかはわからない。
突然、人生における印象的なシーンがよみがえってくる。
最初に俺が人の死にふれたのはいつ頃だろうか。
そうだ……俺が小学校四年生の頃だった。
断片的にしか思い出せないが、
祖父が入院していた、内容はわからない。
正月の時に顔を合わせる程度の人だった。
父親が悲しい顔を見せて、
俺を葬式に連れていった。
俺は子供で馬鹿だった。
葬式だというのに、
滅多に会わない親戚との集まりにワクワクしていた。
みんなが悲しんでいる中、
俺と従兄弟は、笑って遊んでいた。
だが、遺骨を骨壺に箸で収めている際。
今まで笑っていた従兄弟は涙で溢れていた。
俺はその瞬間、
何故か泣き崩れた。
止まらなかった。
正月でしか会えない。
あの優しい笑顔に俺はもう会えないのだと。
亡くすと言う事を今更ながら理解した。
ただ父親に抱き着いて。
誰よりも泣いていた。
祖父母だったら当たり前の言葉かもしれない。
祖父がいつも言ってくれた。
『タクロウは優しい子だね』
その一言が本当に嬉しかった。
「あなた様、ワタクシを恨まないのですか?」
クロの一言で目を覚ます。
何故、前の世界の出来事を思い出したのか分からない。
「……あぁクロだから……どうしていいかわからない……。
だけかもしれない」
「そうですか……」
復讐……。
知らない奴だったら、
激情に燃えてどうにかなっていたかもしれない。
情けない。
こんなにも涙が溢れているのに……。
何も出来ないなんて。
前世の倫理観がそうさせているのか。
わからない。
「もう、あなた様のその顔はやはり見てられません。
ワタクシも甘くなりましたわね」
「えっ……」
クロが指をパチンと鳴らす。
すると、黒い空間から元の場所に、
時間が止まった場所に移った。
「タクロウ、大丈夫なのだよ!?」
セナが目の前に突然現れた。
俺はセナの顔を覆うように触れた。
「えっ……セナだ」
「僕はセナなのだよ!」
「セナ……セナ」
セナは俺の表情を見て、
頬を膨らませながらクロを見ていた。
「酷いよ!
タクロウはそう言うの弱いってあなただったら知ってるでしょ!」
すると、クリスも突如現れた。
「セナちゃん、まぁこれは神の試練だから仕方ないよ」
「父さん……」
俺はクリスの言葉を飲み込んでクロを凝視する。
これはクロが仕組んだ試練か。
心臓に悪い……。
でも……あんな思いでいたんだな。
俺は子供の頃。
「ワタクシはもう決めました!
あなた様に死を見せないと、これがワタクシの覚悟です。
あなた様のその表情を刻みましたわ」
「クロ……意味分からないよ」
呆気にとられている俺。
正直、まだ理解が追いついていない。
「ご褒美です。あなた様」
クロがセナをドンっと投げ捨てた。
そして、クロの薄く可憐な唇が触れたように気がした。
「ちゅちゅしたのだよ!!!!!
もう許さないのだよ!」
「五月蝿いですわね。
〝時間停止〟」
セナはそれを見てじろりとしていた。
だが、クロが言葉を放つとクリスとセナは、
他のみんなと同じように時間が止まっていた。
「申し訳ございませんあなた様。
初めて、死に触れた時を思い出して欲しかったのです。
強さに溺れないよ……」
「……クロ。怖かった」
「申し訳ございません」
「本当に怖かった」
「ごめんなさい」
クロは謝る度に俺に近づき離れない。
「クロ……近いような……」
「男に二言はありませんよね?」
あの時、俺が言った言葉か。
膝の上に乗っていいと、
あれは黒猫バージョンの場合で……。
「あれは……そのまあ、今回だけだ」
「いいえ、これからも甘えさせていただきます」
「ん……」
クロが真剣な顔で俺の瞳を見つめる。
「あなた様、シルビアを全ての人に思い出させる。
それを実行しようとすれば、あのような未来も起こりうるのです」
「そうか……」
「そうです。恩恵もないあなた様はただの人間なのです。
たまたま、あなた様はセナからセルシアの恩恵を貰っていますが。
あなた様の為のものではないので噛み合っていないのです」
「セナが……俺に??」
そうか……俺はセナに会って魔法が使えるようになった。
それはあの時、セナが俺の背中に触れてからだ。
それまでは確かに、ただの普通の魔法が使えない前世の子供だ。
「後……何故、今更、剣なんて。
ワタクシは心配なのです」
クロのその顔は神云々ではなく。
ただの一人の女性だった。
「ありがとうクロ
でも、クロが側に居てくれるんだろ?
無茶はしなさいさ」
「はい、あなた様」
クロはニッコリと優しく微笑んだ。
俺は安堵とともに先程の事を思い出し、
顔を赤らめた。
「クロ! さっさっきみたいなのはなしだ!
いや、ダメだ」
「あなた様、なんのことでしょう?
ワタクシはわからないので、行動で教えてもらえると嬉しいのですが」
「クロ……ちゅちゅはダメだ」
クロはあざと可愛い上目遣いで首を傾げる。
「ダメなのですか……あなた様
むぅ! もう時間ですわね。
もう少し甘えたかったのですが」
「クロ、いつもありがとう」
「いつもあなた様の側に……」
その言葉と同時に世界が動き出した。
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「みゃあ〜」
俺の肩にクロがちょこんと乗っている。
俺はクロを優しく撫でる。
「よしよし〜」
「みゃあ〜」
セナはその光景を見て、ハイライトが完全に消えて。
クロを睨みつけている。
「タクロウ!! その猫ちゃんとお別れなのだよ!!!」
「セナ! 黒猫は可愛いぞ!」
「みゃあ〜」
クロはスリスリ、ぺろぺろしている。
勿論、セナを見ながら。
「許さないのだよ!!!!!」
それを目をぱちくりさせながら見ている。
レイとルークとアテナ。
「セナ、お兄様の大事にされている黒猫ですよ!
可愛いじゃないですか! クロちゃん」
「もおぅ! レイダメなのだよ!
あの猫は悪魔なのだよ〜」
「皆さん、早く行きましょう!」
ルークがそう言い促すと。
セナは仕方ないむむむと顔を見せながら、
歩いていく。
いつもの光景にはははっと俺は笑いながら。
宮殿へと行こうとした。
すると、クリスが俺の肩をトントンってする。
「タクロウ、あの光景が現実になる可能性だってあるんだよ」
クロと同じ言葉。
クリスの心配そうな顔。
俺はニッコリと微笑み、クリスに告げた。
「俺は強くなる、ただそれだけさ。一人じゃないから」
「君の強さは私のとは違うようだね。
私も君のようであれば零れるモノも少なかったのかもしれない。
なんてね、まぁ、頑張りたまえ」
そう言うとクリスは俺の頬をちょんちょんしている。
「危ない時は相談する。助けてくれよ〜」
「ふふふっ、あぁ!」
俺はクリス、スズハ、アリエラに手を振り。
その場を後にして宮殿へと向かった。
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