【一章】ケミカルな夢 ④
何だかんだで、朝比奈と関わってから十日も過ぎた。
勿論、僕はまだ告白の返事をしてない。
どう考えても直ぐに答えられる訳がない。
だってトラウマ残ってるもん!一回告白断られた奴やぞ?あんなもん—、もう酷かったから。
人の性格とかより外見を重視していた昔の僕だったら、「いらっしゃ—せあざ—すっ!」と間ゼロで朝比奈の告白を受け入れたかもしれないが、彼女のヒステリックな性格を知ってしまった今は違う。
そして、以外にも、やむを得ない事情もあるから。
僕はあえて答えを避けていた。
避けていたけど。
「あんたさあ…今何時だと思ってる?」
休日なのをいいことに、思いっきり二度寝していた僕を起こしたのは鈴を転がして捨てたような女の子の声だった。
「うあああああああ—すみません!!!…」
…………
「何だ、朝比奈か」
彼女の顔をチラ見した僕は、休日なのをいいことに、また寝ようと…
うん?朝比奈?
「あの…今の状況がちょっと理解できないんですぐえ—?」
やっべえ噛んじゃった。
おどおどしている僕に、彼女は。
「二度寝する不誠実の塊の君に良いお知らせよ」
「…ん?」
「今日から豊田君の家に居候することになったの。告白の返事をもらうまでずっと一緒だからね—!」
凄いセリフを丸投げした。
そして、僕が二度寝したのは何で知ってんの?
朝比奈は僕を驚かせないと死ぬ病気でも病んでいるのかな?
十日前のあれは相当驚いたが、今回はそれを軽く超えるほどのショックだった。
幸いなことに理性が吹っ飛んだりはしなかったので、ここは僕が先手を取ることに。
「ん。一応リビングに出よう」
忍の一字を呑み込んだ顔を維持して、朝比奈と一階のリビングに移動した。
起きたばかりで、ちょうど喉が渇いた僕は水を飲んだ。
彼女も何か飲みたいと言ったので、新しくブレンディングしたストロベリー味緑茶型紅茶を出してやった。
味見はしてなかったけど朝比奈の表情を見る限り結構口に合ったようだ。
二人とも喉を潤してから、一時間弱のそこそこ長いやり取りが始まった。
「じゃあ—。ラブメのアプリから与えられたあやなっち(・・・・・)のミッションって正確には『一度告白を断った相手と付き合うこと』だったのか。で、僕を選んだ訳ね」
「そう、言い忘れたけど私のミッションは『ノーマルミッション』よ。ノーマルがこんな難易度なの。酷いでしょう?」
「う、うん。まあ」
「で、チリクズ(・・・・)君。ちなみに恋愛戦闘力測定器のミッションには厄介な縛りがあるから、君は私を本気で好きになってもらわないと困るのよ」
円卓会議を彷彿させる長い会議の結果、僕たちは互いのことを愛称で呼ぶことに合意した。
………ん—
いやちょっと待って。
「いや—、いや、何で—?何で?何で僕のあだ名チリクズ君なの?僕の名前「とよたあくた」何ですけど?あと、チリクズって、あの塵と屑でしょう? 名前要素入ってないんですけど?」
正直、「本気で好きにならなきゃダメ」っていう縛りの方がもっと気にかかるが、僕の愛称がチリクズ君になるのも我慢できない。ただのクズではなく、チリクズって、随分と辛そうな愛称じゃねえか。
「あら、ちゃんと名前要素は残っているよ?下の名前が芥だから塵アンド屑とも言えるでしょう—?だからチリクズ君に決定したの—。ちゃんと頭を使ってくれないかしら」
「………………………」
「あ、でもチリクズってちょっとダサい感もあるね。いっそ略して畜君ってどう?」
は?
「ちょちょちょちょ!一層酷くなってどうすんの?マジか、おい。もう人間でもなくなったじゃん!」
「その発言は変よ、そもそも塵と屑も人間ではないからね」
「…………あ……そうっすね………」
この日、僕の愛称は蓄君になった。
「あ、そうそう、居候の件畜君のご両親にはもう許可を得ておいたから宜しくね」
「そのあだ名うちの親への悪口と同じだよ—!」
ヒステリックな笑顔をみせる彼女。
朝比奈彩菜。恐ろしい子だ。
可愛い女の子とひとつ屋根の下に住めるという嬉しさと、その相手が朝比奈だという微妙な感情が心の奥で対をなしていた。
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