【一章】ケミカルな夢 ③
最近、世間では恋人が地位みたいになっているらしい。
「確かに」
僕はこくりと頷いた。
あまり表には出さないけど、恋人がいる人は恋人がない人を可哀想な目で見ている。
現に僕は今まで何回もその眼差しを感じたことがある。
これは別に僕とは関係ない話だけど、恋人がない人に対するこの世の差別ったらそれはそれはひどいもので、例えば映画館やカラオケのイベントはいつも恋人たちに特典を与えている。
ポップコーンカップルセット贈呈とか、カラオケ一時間プラスとか。くっそ。(別に僕は腹立ってない。)
後、これも別に僕とは関係ないけど、カフェやレストランでも二人でいちゃついてる連中がソロより優待される。
ドリンクバー無料券とか、待機列に並ばなくても先に入れる優先権とか。何で予約制じゃない店なのに恋人優先イベントをやってるんだよ。くううううっそ。別に僕は気にしないけどなあああ—。
話を戻して。
とにかく、恋人の存在が大事なのは間違いない。
そこは理解した。僕も散々感じていたから。
でも、朝比奈の話にはまだ理解できないっていうか、理解したくない点が何箇所かあった。
「え、だから…その…何だっけ」
「バカ」
★ ★ ★ ★ ★
放課後。
朝比奈はうちのリビングで僕が本気でブレンディングした新作、ブルーベリー味ウーロン抹茶をすすっていた。
今朝、結局学校には遅れてしまったものの、色々話を聞くことが出来た。
何故か話が全然頭に入って来なくてぼっとしていた結果、イライラした朝比奈にむちゃくちゃ怒られたけど。
彼女は「このままだと切りがないわ!」と叫んで、「放課後また来るから首洗って待ってなさい」と、戦国時代を背景にした漫画のキャラみたいな台詞を飛ばしながら家を出て行ったのだ。
そして現在に至る。
「だから要約すると、おまえは二年前僕の告白をゴミ扱いした件を謝って、僕と付き合いたいと言っているのか?」
「あ、やっと理解したの?」
そういいながら彼女は安堵の息をついた。
「それを言うために家の住所を特定して、わざわざ朝早い時間からうちに来て、僕の部屋に侵入した。と」
「そうそう、朝にも同じ話をしたのに何で今理解した?」
こいつやっぱバカだな—と言わんばかりの顔をする朝比奈。
「あ…」
やばい。どこからタックルを入れるべきか全くわからん。
余りにも自信溢れそうな朝比奈に一瞬言葉を失った僕は、一旦黙って話を聞くことにした。
「次、お願いします」
「大事な話だけによく聞くのよ—。後、これ他の人には秘密だから言わないでね」
朝比奈は「言ったら殺すぞ」って顔をして話を続けた。
恋愛戦闘力測定器、通称ラブメ。
開発者の情報も、作った目的も知られてない未知のアプリ。
朝比奈によると、このアプリは本人も知らないうちにスマホにインストールされるそうだ。アプリを起動すると所有者の生まれつきの恋愛力が戦闘力に換算される。しかもそのポイントを利用することで人生の役に立つあらゆる特典がもらえるという。人によって恋愛力が違うから、初期与えられる戦闘力も当然人ごとに違うようだ。
戦闘力は恋愛に因んだミッションを達成すると与えられるが、そのミッションが人それぞれで難易度もとんでもないらしい。当然だが、戦闘力が高ければ高いほどいい特典がもらえるし、その中には本当に人生を変えるかも知れない奴もあると。
「誰がラブメを持っているかは所有者同士だとしても分からないけど、多分世間から成功者と呼ばれる部類の人達は皆このアプリの持ち主に違いないのよ—」
「まさか…」
僕は唖然とした顔を彼女に見せた。
朝起きた事件の真相が漸く(ようやく)明らかになった気がした。
「じゃ、おまえがわざわざ家に来て僕と付き合いたいと言った理由は……」
彼女はにっこりと笑って、
「そう、それが私に課せられた任務なのよ—」
「べつに朝から来なくてもよかったじゃん!」
彼女の答えとほぼ同じタイミングで僕は大声を出してしまった。
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