【一章】ケミカルな夢 ②
珍しく早い時間に目が覚めた。
何だか変な夢を見た気がするが、夢の内容が全然記憶に残っていない。別にいいけど。
それより。
「やっほい—!!!やっほい—!!!」
僕は現在、パンツを脱いだまま丸裸で叫んでいた。
他人に見られたら確実に変人扱いされるだろうが、この行動には理由がある。
「やっほい—!!!やっほい—!!!」
今までの人生の中でも、けっこう上位ランクに入るほど嬉しい事件が起こったから。
別に僕の可愛くて大切で繊細なあれが昨日より5ミリぐらい長くなったのが嬉しくて叫んでいた訳ではない。
ただこれはあれだ。男には誰に何と罵られても絶対言えないものというのがあるんだ。
んん。あ…るんだが、言ってもここは家のバスルーム。隠す必要は何にもないから。
「ふう—」
一発装填。
準備完了。せーのっ!
「何であいつうちにいんの—???」
風呂場に響き渡る銃声にも似ている喚き。効果は抜群だった。
そう。
忘れようとしても忘れられない顔。
僕の告白を断り、丁寧に書いた手紙を紙屑扱いした彼女が、
自分の部屋で起きたばっかりの僕を凝視していたのであった。
バカすぎる。わかんないわかんないわかんない。なにこの状況。
嘘です。嘘つきました。全然嬉しくないです。上位ランクってなんだよ、アホか俺は。
あまりにも驚いて一人称変わったぞ、おい。
脳内がぐしゃぐしゃだった。無理だ。ムリダ。むりだ。と。
軽いパニック状態になった僕は、やばいと思ってあえて気分をアップさせるためにずっと意味不明の擬音語を叫んでいたのだ。
「やっほい—!!!やっほい—!!!」
叫び続けて数分後、ちょっとずつ落ち着いてきた。
ふ—うふ—う。大きく深呼吸を繰り返した。うん。かなり落ち着いたぞ。
色々思うことが多くて大分時間を取られてしまい、風呂には入れずシャワーだけ浴びた。
今日は高校3年生になってから最初の登校日だ。遅刻はまずい。僕はタオルを取って体を拭いた。
「急がないとなあ。」
と呟きながら首元にタオルをかけて風呂場から出ようとする瞬間。
ドカン!
凄い勢いで風呂場のドアが開いた。
「遅い遅い、グズグズしないで—早く出て来なさい」
随分と漫画のキャラみたいなセリフを言いながら。
そこには、あたかも漆黒のような、でも同時に透明感を感じさせる目に、鋭い目つき、バランス良く整った顔で、紺色の髪の毛が肩にあたる程ちょうどいい長さのポニーテールをした、あの頃と何一つも変わってない彼女、朝比奈彩菜の姿がいた。
ちなみに頭を振ったらチラッと見えるうなじが特に印象的だ。
「やっほい—!!!やっほい—!!!」
また平常心を失った。
普段だったらストライクゾーンに入るのでずっと見ていたい気持ちになるのだが、朝比奈だけは違う。
僕は絶叫した。
絶叫しながら、可愛くて大切で繊細で可哀想なあれを、首元に巻いていたタオルでうまく隠した。まさに閃光のようなスピードで。
「お、おまえなにいきなり入ってくるの!?ちょ、ちょ、ちょっとノックぐらいはしろよ!」
「黙れ、バカ。」
機嫌を損ねたのか、彼女は物凄い勢いで風呂場から出て行った。
うわ—ひくわ—。
男の裸姿を見ても平気で喋れるのひくわ—。あと酷い。
あんな人に告白したのか二年前の自分は…もちろん外観だけ見てすぐ惚れた僕も悪いんだけど、これ性格知ってたら絶対告白なんかしなかったからなあ。
会ってからすぐ自分の性格を明らかにしなかった朝比奈にも責任はあるはずだ。
あるはず、あるはずだ。責任は朝比奈にも…
「あんた学校行くつもり—?一回死んで、ほんまに—」
いや、悪いのは全部僕です。すみませんでした。
ドアの向こうから聞こえるひどい罵声に急に落ち込んでしまった。
そして、方言漏れとる。
「そもそも遅刻とか気にしていたら先に行けよ。あの日以来一回も話したことないのになに今更…あと何でうち知ってるんだよ。」
僕は勇気を振り絞って、自信が欠けた声で返してやった。
「ぶっ殺す」
本当に怒っている?やっべえ。死んでまうわ。
危機を感じた僕は服を着てそそくさと風呂場から出た。
親がちょうど海外出張で家にないっていうよく使われる便利な設定で良かったと思いつつ。
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