【一章】ケミカルな夢 ①
「そ…そんな…」
「何で…?」
あっさり折れた。僕の手紙も、心も。
折れたままゴミ箱にゴールインされた。
ただ僕の気持ちを伝えたかっただけなのに何でこんな目に合わなければならないのか見当もつかない。
「ぼ…僕の一人称が問題だったの?本当にそれが原因なら、一人称『俺』に変えるから僕と付き合ってくれ!」
僕は絶叫した。
「お前バカじゃないの?え—えっ、キモ…近づかないでね」
僕の絶叫に熱烈な声援を送る彼女。
熱すぎて耐えられなかったようだ。足に力が入らない。
頭の中はもうこれ以上ないぐらい真っ白だった。
ポoモンセンターに連れて行かれそうな瀕死の状態で、僕は、これからの人生は童貞で生きて行こうと決意した。
★ ★ ★ ★ ★
高校デビュー初日にやらかした惨事をいまだに覚えている。
彼女にぐしゃぐしゃにされた手紙を忘れられる訳がない。トラウマのレベルだ。
日常生活は普通にできるけど、必ず寝る前に記憶が、感覚が蘇る。
お陰様で、黒歴史を思い浮かべたかのように枕を蹴り飛ばして壁に頭を突っ込む悲しい日々を送っている。
豊田芥。明日から高校3年生になる。
あの日以来、僕はクラスの女子全員に避けられ続けた。
クラスを超えて学校全体にまで噂が広がったのか二年生になっても同じだった。
みんな僕に目も合わせてくれない。
必要な用事以外の話はまったくかけてくれない。話の頻度は二ヶ月に一回ぐらい…
まあまあ知り合いの男子は何人かいるけど男何ってどうでもいいんだよ!
とにかくそんな状態が二年も続ければさすがに僕でもちょっとは悲しい気持ちになる。が。
辛い高校生活はもう今年だけ頑張れば終わりだ。本当に長かった。
よっし、この一年が勝負だ。
なるべくここから遠い大学の合格を目標に一生懸命勉強して桜舞い散る大学生活を楽しもう。
頑張れ、僕。強く生きるんだ。
多少ふわっとした将来計画を頭に浮かべながら、僕は枕を蹴り飛ばして壁に頭を突っ込んだ。
それが、今日はあんまりにも強く突っ込んだせいか、ちょっと頭痛が激しい。そして—
なんかめまいが—。
「あ…あれ?」
バタン—!!!!
そのまま床に倒れてしまった。
あ。もうだめだ。あかん。
だんだん遠くなる意識の中、僕は心の奥に仕舞って置いた感情を口に出した。
「彼女……欲…しい…」
おやすみなさい。
★ ★ ★ ★ ★
夢を見た。
それは儚くて、切なくて、懐かしい—。
ものじゃかった。あの日の夢を見た。僕が彼女に手紙を渡そうとしている悪夢。
夢だとは分かっているのに妙にリアルティがあって緊張してしまう。
落ちは分かっているのに夢なら違う結末になるんじゃないかなと期待してしまう。
「おねがい…」
入学式で偶然すれ違った時、彼女のことが好きになった。一目惚れっていうやつ。
調べたら彼女は僕と同じクラスだった。
それが嬉しくて、登校日まで夜にも眠れずに手紙を書いて、彼女に渡した。そして破れた。
本当にこっけいな話。
こっちから勝手に好きになって好き勝手に告白して酷く断れて勝手に絶望する。
『ただ好きだっただけだ。僕は悪くない』と自分を慰める。
ああ—僕がもうちょっとイケメンだったら、もうちょっと身長が高かったら。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。
「まっ、待って!」
僕の声はあっちの僕に届かない。
届くはずがない。
結局、夢の中の僕は彼女に手紙を渡した。
手紙を受け取った彼女は、
「嬉しい、こんな感じ初めてなの」
涙ぐみながら微笑んで……
嬉しい?涙?微笑み?
あれ?
何か違くない?
「はっ!」
僕は夢から覚めた。
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