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異世界なんかに行かせない!  作者: 田中卵
一章 新たな日常と魔女
4/25

 で、事件は放課後。

 オレは、日野茉梨(ひの まり)の自由奔放っぷりを侮っていたと思い知る。


「刻限よ、火堂ケイ――」


 終業のチャイムと同時に入室した彼女は、教室中の視線を意にも介さず、オレに言いのけた。

 ぽかん。そんな顔で、突然の乱入者を眺める。


「マジかよ、また来た……!」


 章の声が、横から飛び込んできた。

 口にこそしなかったが、同じ気持ちだ。

 嵐は過ぎ去ったとばかり考えていたけれど、軽率な判断だったと痛感する。

 思考が止まった。

 疑問ばかりが浮かんで、まったく頭が働かない。


「日野、おまえどうして……」


 てっきり、今日は学校に来ないものかと。

 (うつ)ろな目でオレに一瞥(いちべつ)をくれ、溜息をついてくる。


「浅はかね、火堂ケイ。すでに約定(やくじょう)は交わされた、わたしは裏切らない」


 当然でしょ? などと、呆れた眼差しを向けてきた。


「そりゃ約束はしたけど、時と場所を弁えてくれよ」


 見ろ、担任の五島(ごとう)先生(朝に名前を教えてもらった)が憤然と肩をいからせてる。

 成人女性とは思えない愛らしい外見で、五島先生は(まなじり)を鋭くする。

 小動物と同等の迫力だ。あんまり怖くない。


「こら! ホームルームが終わるまで私語は慎みなさい!」


 いや、今頃登校してきた日野を責めるべきじゃないか?

 ……ちょっと論点ズレてると思う、実際その通りだけども。


「お黙り」


 お黙り!? 教師にそんな口効くかフツー!?

 日野はバッサリと切り捨て、オレにまで距離を詰めてきた。

 席に座るオレを睥睨すると、


「さあ、妖精探索に赴きましょう」


 人々を魅了する妖しい笑みが浮かび上がる。

 まずい、この感覚。魔法が発現する……!


「あれ、不発だ」


 魔法の余韻(よいん)を探すように、周囲を見渡した。

 クラスメイトの誰ひとりにも、文字が浮かび上がらない。

 昨日と今朝見えたものは、単なる錯覚だったのだろうか?

 ……そうだろうな。よかった。現実的に考えてみろ、魔法なんてありえない。

 これまでのは、日野を目撃したことで幻覚を見てしまっていたのだ。


「……無視するだなんて、大した度胸ね」


 失念していた。表情こそ動いていないが、日野の眦が鋭くなった。

 無視されてお怒りである。


「ごめん、無視したわけじゃない。ちょっと意識が逸れてただけ」


 非情な魔女に言い訳は通じない。

 日野は毅然(きぜん)と冷たい眼差しを向けてくる。


「いいこと? わたしの言葉は、あなたにとって千財の価値。決して取りこぼさないように」

「以後善処します」


 冗談じゃない。こんな曖昧な言葉に耳を傾けてられない。


「日野さん、席に着きなさい! 遅刻の件はホームルームのあとに職員室で!」


 混沌としてきた場を繕おうと、五島先生が声を張り上げた。

 これで大人しく言うことを聞けばいいんだけど……


「拒否するわ」淡い希望だった。


 拒否すんなよ。なんで堂々としてんだよ。

 狼藉もここまで徹底していると舌を巻く。


「我々には使命があるから、時間を浪費するわけにはいかないの」

「われわれ……いや、オレも巻き込まないで!?」

「あなたの〝運命瞳(フォルトゥーナ)〟が探索には不可欠、理解していて?」

「ノー、アイキャントアンダースタンド」


 カタコトで拒否する。やめて、胃がストレスで破裂しそう。


「ヤバ、頭おかしいじゃん……」

「中学からずっとあの調子なんだよ……」

「やべーくらいオタクなのな……」

「てことは、火堂もそうじゃね……」


 教室のあちこちから聞こえる(ささや)き声が、オレの胃を更に締め付けた。

 そうだ、章なら……!


「…………」


 耳と目を塞いで知らんフリ決め込んでる!?

ワラにも縋る思いだったが、頼みの綱がこの有様ではどうしようもない。

 まずい、まずい、まずい……! 

 教室に充満した息詰まる空気。

 クラスメイトに張り付いた薄ら笑い。軽蔑を孕んだ陰湿な目。

 知っている。これ、村八分だ。集団が突出した個人を特定して迫害する、いわゆるイジメ。

 田舎のように閉じたコミュニティだと頻繁に見かけるけど、都会でも同じなのか?

 土俵際にまで追いやられている。このまま日野茉梨の暴走を許しては、オレは奈落に叩き落とされる。最終的に死んでしまうに違いない……!

 オレは咄嗟(とっさ)の機転で笑みを作った。


「日野さん、正確にはまだ放課後じゃない」

「つまり、ホームルームを終えてからが放課後と?」

「そうそう、だから一先ずはホームルームを受けるのが筋じゃないか?」


 ぎこちない笑顔で首肯した。

 妄想に取り憑かれてるくせに、なんだって頭は冴えてるんだよ。

 一理ある、と呟き、彼女はオレの机に腰掛けた。


「よろしい、待ちましょう」

「よろしくない。机に座らない不作法だ」


 あと邪魔だ。ぐいぐいと押して立ち退きさせる。


「なにするの、懲罰ものよ?」

「自分の席あっち、窓際の空席が日野のだよ」

 

 不満げに移動していった。なんだ、えらく素直だな?


「ではホームルームを始めますね~!」

「始めるのか……」鉄の心臓もってるな、五島先生。

 

 ホームルームの終わりと同時に、日野が五島先生に連行されていく。

 抵抗する日野。掴んだ手を離さない五島先生。


「また明日ね、みなさ~ん! 最近は物騒だから、くれぐれも寄り道しないように!」


 屈託のない笑顔で言葉を締めて、日野と扉を抜けていった。


「知ってるか、あれで三十手前なんだぜ……?」

「嘘だろ……? って章、回復したのか?」


 注釈を加えた章の顔には、疲労の影が滲んでいる。

 とても本調子には見えない。


「平気だ。中学から変わらないな、あの破天荒っぷり」

「その口振り、やっぱり知っているのか」


 尋ねると、章は口を閉ざした。苦虫をかみつぶしたような表情である。


「なんとか言ったらどうなんだ。朝は話しかけてくれたのに、こっちが声掛けてもずっと塞ぎ込んでさ」

「…………」

「原因は日野か?」


 章は押し黙ったまま、オレから目を逸らした。

 沈黙は肯定と見なす他あるまい。


「過去に日野と関わりがあったんだろ」

「……ああ、半分正解だ」

「半分? どういう意味?」

「いずれ分かるさ、いずれな……」

「それは今だね」


 顎を掴んだ。力をこめる。

 質問はすでに拷問に変わっているのだ。


「いたいいたいいたい! 話すから離せ!」

「話し辛い話題なら、べつに構わないよ」

「だったら力抜けよ! 譲歩する気ゼロだろ! 言葉と反比例して力が強くなってんだよ!」


 顎を離した。触れていた部分が赤くなっている。

 ほかの生徒達は、ホームルームが終わるや下校していった。

 教室に残っているのは、オレと章だけ。

 章は、躊躇(ためら)いながら口を開いた。


「実は……俺、高校デビューしたんだ」

「高校デビューっていうと、不良(アウトロー)に転じたの? 全然そんな雰囲気に見えないけど」

「違う、逆だよ。中学の頃、俺は病を患っていた……」


 顔を伏せて、物思いに(ふけ)る章。

 病。思いがけない単語に目眩がする。明るく笑う章からは、想像も及ばない。


「そうか……ごめん、掛ける言葉が見つからない」

「いいよ、慰めなんか期待してねえから」

「強いな、章は」

「そんなことはない」曇り空がかかったような湿っぽい笑顔だった。


 溜まらず、二の句を呑んだ。


「結果的に、俺は現実を知った。大人になったんだ」


 真意が読めない。何を話そうとしてるんだ?


「かつて、俺は中二病だった……日野に憧れてな」

「……?」なんだそれ。チュウニ病? 憧れてって……?

「知らないか。だよな、普通は知らないよな……」


 章の笑みが自嘲で歪んだ。皮肉な苦笑は、彼の後悔が作るものか。


「深刻だったのか?」

「ああ、周りにも散々迷惑をかけた。だから俺は決めたんだよ、普通の高校生として三年間を過ごす。オマエもそうしろ。日野には関わるな、碌な目には遭わないぞ……もう二度と、俺は夢を見ない!」


 悲壮な決意を口にして、章は教室を去って行った。

 結局、オレに具体的な話を聞かせないままである。日野とはどんな関係だったんだ?

 分かったことと言えば、章がチュウニ病ってのだったくらい。


「チュウニ病……章を狂わせやがって」


 オレは憤懣(ふんまん)やる方ない想いで歯を軋らせた。

 さすがに、これ以上の話を章からは望めないだろう。

 となれば……


「日野に話を訊くしかないか」

「よろしい、何を訊きたい?」

「うわああぁああ!!?」


 何処だ!? 背後だ!

 職員室に呼び出されたはずの日野茉梨が、オレの傍に忍び寄っていた!

 彼女はオレの机に腰を下ろし、こちらを見上げている。

 神出鬼没(しんしゅつきぼつ)すぎるだろ! ぬらりひょんの孫だったりするのか!?


「召喚に応じ、参上した。この身はあなたの師なのだから」

「音も無く現れないでくれ、忍者か!?」

「否、魔法使い――賢者」

「いやどっちだよ」


 ビシリと裏返しの平手で突っ込み。

 ステッキが閃く。まるで話を聞いちゃいない。


「またの名を〝希代の魔女(ディザスター)〟」

「でぃざすたー……!」どういう意味だろう? 辞書に載ってるかな。

 

 疑問符を浮かべるオレを置き去りにして、日野は酷薄に唇端を吊り上げる。


「日野、職員室には行ったのか?」

「当然、挑戦は拒まないもの」

「なら説教されたろ。帽子を外せよ、たぶん何かしらの校則に抵触(ていしょく)するぞ」

「嫌」


 言って、彼女は帽子を目深にかぶった。

 章の忠告がまだ耳に残っている。

 日野には関わるな――

 半ば決心を固めていた。言われなくても、日野との会話はこれっきりだ。章との関係を聞いたら、そこでお終い。あとはただのクラスメイト。

 オレは平穏な学生生活を送るんだ。

 でも、日野の瞳に浮かんだ寂寞の色に目が離せなくなった。

 降り出す直前の曇り空のような、濡れた瞳。

 なんだってそんな目が出来るんだ?


「不思議な言動も自由にすればいいだろうけど、空気を読めよ。オレまで腫れ物扱いだ」

「嫌」

「……まあこの際、日野が嫌なら嫌でいいとして、なんだってオレに関わる?」

「あなたなら分かるはず」


 分からないってば。

 気分が滅入る。

 悩みばかりが増えて、ちっとも気持ちが晴れない。


「魔法、だよな」


 自分の中にある精一杯の答えを探り当てた。

 にわかには信じがたいが、オレと日野との接点はそこに尽きる。

 魔女は、丁寧な口調で言い聞かせてくる。


「〝運命瞳(フォルトゥーナ)〟の所有者である以上、制御しなくては世界の均衡に関わるから」

「つまり、オレの魔法は本物なのか……?」

「然り。あなたの瞳は、すべての運命を見抜く――特級魔術に該当する」


 日野は頷いた。

 相変わらず、言っている意味はいまいち分からない。

 けれど、魔女が騙る魔法は、幻覚には思えない生々しい感触だった。


「本物ならますますわからない。なんだってオレが魔法なんて使えたんだ」


 オレは半信半疑だ。いくら日野の声に誰もが振り向く求心力に溢れていようと、仮面が剥がれた彼女を目撃したのだから。

 彼女の仕業であるかどうか、判別が出来ずにいる。


「わたしが魔力を与えたの」

「ダウトだ! 忘れてないぞ、昨日の会話!」と口を挟んだ。


 記憶を思い返す。

〝運命瞳〟なるものが開眼したオレに「なにそれこわい」と、日野は首をすくめたのだ。

 本当に魔女ならば、そんな間の抜けた反応はしないはずだ!


「偽物なんだろ!」

「愚問――」


 素人は黙っとれ――!

 そう言わんばかりに澄ました表情である。ムカつく。

 いつまでも子どもの遊びに付き合ってられるか、すぐに正体を暴いてやる。


「証拠を見せろよ、本物の魔法をさ。そしたら納得するから!」

「不可能ね。わたしは魔力不足に陥ってるから」


 電力が無ければ機械が動かないのと同じように、ね。と淡々と日野が言う。 


「……そうか、どうあっても偽物とは認めない魂胆なわけだ」

「なんですって?」彼女は柳眉(りゅうび)をひそめる。「己の無知を棚上げして、憶測だけで判断するの? なんて愚かな……」


 オレは冷たい視線を()ねのけるように、胸の底で澱となって固まっていた疑問をぶちまけた。


「章と……その、どんな関係だったんだ?」

「……AKIRA?」イントネーションおかしいな。

「林崎章、この名前に覚えはないか」

「ないわね」


 誰それ? と首を傾げる日野。本気で分からないのだろう。

 章が乱心するきっかけは、間違いなく日野にあるはずなんだけど……

 でも、この様子だと手がかりは掴めなそうだ。

 くそ、と内心毒づく。

 胡乱(うろん)な言い回しはやめて、率直な言葉で話してくれれば、こんな黒々とした気持ちを抱えなくて済むのに。


「あなたの才能は貴重よ。俗世にかまけてないで、本腰を構えて幻想の過去……そして未来を見据えるべき。偽りだらけの世界で、あなただけが真実なんだから……」


 話が右の耳から左の耳へと抜けていく。

 日野にしても、章にしても、人を好き勝手に混乱させすぎだ。

 もっと、こう……誠実な会話をしてくれるような人物なら……


「ケイくん?」

「え、ああ……そうそう、凪ちゃんみたいな人……」


 聞き慣れた口調なのに、耳に馴染まない声質。

 思案を巡らしていた意識が、慌てて現実に引き戻った。

 耳朶(じだ)を優しく撫でた声に振り向く。


「あ、日野さんもご一緒? 談笑って雰囲気じゃなさそうですね」

「久しいね〝隷属者(デーモン)〟……!」


 おっと、険悪な空気。

 ふたりの間に稲妻が走るのを幻視した。交錯する視線が火花を散らしている。

 ……唾を飲んだ。自分が場違いに思えてならない、どうにも。


「ケイくんったら中々昇降口に来ないから、心配して迎えに来ちゃった」

「それは……ご足労いただきまして、恐縮の極み……」

「ともかくこっち来て!」と、強引に腕を引かれた。


 なんだなんだ。あまり密着しないでよ。ドキドキしちゃうでしょうが。

 オレを傍に引き寄せると、凪ちゃんは糾弾する光に満ちた鋭い眼差しになる。視線の先は、意味ありげに勿体ぶった表情の日野がいた。


「過保護っぷりは健在みたいね」

「……まだ調教が足りなかったの?」


 ちょ、きょ……え? え?

 凪ちゃんから予想だにしない単語が放たれて、頭がとんでもない衝撃を受けた。

 こういう事言うのは我ながら気持ち悪いけど、あの清廉潔白な凪ちゃんは何処に?


「冗談。あんなモノ、赤子の児戯(じぎ)と変わらないさ」

「そう……ケイくんに手を出したら、容赦しない」

「ふふ、手遅れね」


 ぞっとするほど嗜虐(しぎゃく)的な笑みだった。

 ぐるん! と凪ちゃんがこちらを振り向く。ひっ。

 強張った顔で、オレの頬をペタペタと触れる。ひんやりとして、柔らかい手だ。


「だ、だいじょうぶ? トカゲの干物とか飲まされてない!? 爪の垢煎じられてないよね!?」

「なんだその気持ち悪いもののオンパレードは」

「随分と古典的なイメージを吐き出すものね、程度が知れるわ」


 時代はポーションよ、と胸を張る日野。

 日野、おまえすごい煽るじゃん。

 口を挟みたいが、衝撃の余韻で頭が麻痺してる。傍観に徹しよう。

 ……決して、会話に混ざるのが怖いからじゃない。あたまがまひしているんだ。あばー。


「あなたが入学すると聞いて、私も根まわ……もとい準備を整えた。ええ、ええ……あなたが()るつもりなら、応えなくては嘘になります」

「呪い殺す」

「望むところです。あなたの特殊な趣向を正しい道に導いてあげましょう。そして葬る」


 くぐもった声で理解不能な呪文を唱える日野。嫋やかに呪詛を受け止める凪ちゃん。

 シンプルな殺意のぶつかり合いだった。

 凪ちゃん、後ろ暗いことは何もないとか言ってたけど、とんでもない恨み持ってるな?

 現実的な凪ちゃんと、夢を(かた)る日野茉梨。まさに正反対な人物だ。

 互いが互いを仇敵と認識しているのだろう。オレが想像しているよりも根は深そう。


「ケイくん、あなたはどっちを応援するの?」

「ええっ」急に矛先を向けられた。


 どっちって言われたって……


「凪ちゃんに決まってるぞ。日野は微塵も応援してない」

「ええっ!?」


 日野は驚愕の声を上げた。

 当たり前だ。付き合ってきた年数が違うんだ。むしろ何で直前まで自信満々だったんだ。


「どうやら、勝敗は見えたね」

「勝ち負けあったんだ、この問答……」


 凪ちゃんは誇らしげな顔で胸を張る。

 対する魔女は敗北感にぷるぷると打ち震えていた。


「契約したじゃない……反故(ほご)にするつもり……?」

「ケイくん、帰りましょ。せっかくだし家に遊びに来てよ。夕飯ご馳走するから」

「な……!」


 凪ちゃんの、家……だと……?


「待って、心の準備ができてない」

「ふふ、平気だよ。お父さんもお母さんも、ケイくんなら歓迎してくれるって」


 おじさんとおばさん。長らく会ってないし、そりゃ会いたいけど。


「でも親父に晩飯つくらないと」

「むー、なら連絡してみて。電話なら貸すから」


 駄目だ、勝てそうにない。両手をあげて降参のポーズ。


「じゃあ、日野さん、また明日ね。サボらずにしっかり登校すること!」


 ウキウキとした足取りで教室を後にする凪ちゃん。


「悪い、そういうことだから」

「あ……」


 海底に沈んだ声色が、オレの胸に空虚な響きを生んだ。

 日野を振り返る。彼女は俯き、足先をにらんでいる。

 その佇まいが、取り残された子どもに見える。


「日野……?」

「無礼な、情けはいらない。早く向かいなさい」


 魔法や章の病。日野と凪ちゃんの関係。

 後ろ髪引かれる想いだが、いまは思考に整理をつけたかった。

 日野の言葉に従って、後を追う。 

 視界の片隅で、魔女の紅の双眸(そうぼう)が鬼火のように揺らめいた。


「絶対に、逃がさない」

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