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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔笛 異世界転生して竜騎士で急降下爆撃やってみた

作者: 汚れ仕事

異世界転生+急降下爆撃+ルーデルで妄想したふわふわとした設定に形を着けたら出来た拙い短編です。












♪ Viel schwarze Vögel ziehen Hoch über Land und Meer


    幾多の黒鷲が  彼方より羽ばたいて


♪ Und wo sie erscheinen,da fliehen Die Feinde vor ihnen her


    その襲うるところ  敵は追い散らされる



空に高らかと響く歌声。


美声とは程遠いがなり立てるようなその声はこれから戦場へ死と破壊を送り届ける急降下爆撃機乗り達の行進歌であり凱旋歌。


戦場上空まで進出し、地上の戦友を苦しめる敵軍の兵器や陣地、城、兵に至るまですべからくに爆弾を叩きつけ、破壊し、帰還する。


そう彼らは高空の破城槌。




♪ Sie lassen jäh sich fallen Von Himmer tiefbodenwärts


    空の彼方より敵睨み  大地に舞い降りて


♪ Sie schlagen die ehernen Krallen Dem Gegner mitten ins Herz


    その鋼の爪を以て  敵を刺し貫く




彼らの向かう先には敵のみが存在し。


彼らの通った跡には残骸のみが残される。


そう彼らは天空の騎兵団。




♪ Wir sind die schwarzen Husaren der Luft,


     我ら空飛ぶ騎兵団


♪ Die Stukas,Die Stukas,Die Stukas!


 シュトゥーカ!シュトゥーカ!シュトゥーカ!




遂に戦場上空へ躍り出た彼らの眼下に、豆粒サイズの人の波がまるで一つの生き物の如くのたりのたりと波打つ様が見えた。

地上で彼我の兵が血みどろの戦いを繰り広げていることは容易に理解できる。




♪ Immer bereit,wenn der Einsatz uns ruft,


     任務の準備整いし


♪ Die Stukas,Die Stukas,Die Stukas!


 シュトゥーカ!シュトゥーカ!シュトゥーカ!




「隊長!右二時の方向、敵魔法部隊発見!我が軍に対し大規模魔法による砲撃を行っている模様!」


「このままでは歩兵の戦列を崩され中央突破を許すことになります!」


彼らは高空からその戦争の推移を常に観測する。

自分達の攻撃が最も効果を出す瞬間を狙って。




♪ Wir stürzen von Himmel und schlagen zu.


     死は決して恐れぬ


♪ Wir fürchten die Hölle nicht und geben nicht Ruh,


     休息もいらぬ




「…………我が飛行隊諸君に告ぐ。敵魔法部隊上空へ展開、これを爆撃せよ」


「「「「「ハッ!!」」」」」


「第一小隊は護衛のバリスタや対空魔術師を!第二小隊以下は私に続き中核となる重砲魔方陣を吹き飛ばす!!」




♪ Bis endlich der Feind am Boden liegt,


     我が敵を討つまでは


♪ Bis England,Bis England,Bis Engeland besiegt-


 イ○グランドを イン○ランドを イング○ンドを




「Stuka angriff!(シュトゥーカ、突撃!)」




♪ Die Stukas,Die Stukas,Die Stukas!





・・・・・

・・・・

・・・

・・




 思えば死ぬ前も生き返ったあともまともな幸せなんて手にしたことなどなかった。


 死ぬ前は友に裏切られ、恋人に裏切られ、会社に裏切られ、あらゆるものから後ろ指を指される日々だった。


 生き返った後も貴族家の三男坊として後継者としてもその代替としても見られず、成人後は追い出されるように軍へと投げ込まれた。



 だかそこで私は生涯の友に出会った。



 ワイバーン。竜騎兵。


 飛竜を駆り、空を支配する戦場の花形職。しかし私は空を支配する事には欠片も惹かれなかった。


 急降下爆撃。死ぬ前に唯一自分を保つ支えになり続けた趣味の世界。


 この世界には未だ存在しない戦術。誘導爆弾などなかった時代、より正確に爆弾を命中させるため目標上空から急角度で降下しピンポイントで爆弾を投げ落とす。


 かつてこの急降下爆撃を含めあらゆる手段を以て敵に抗し、前人未到の敵兵器撃破記録を成し遂げた者がいた。


ドイツ空軍の英雄。ハンス・ウルリッヒ・ルーデル。


(公式)記録。戦車519両。撃墜9機。車両800台以上。火砲150門以上。戦艦・駆逐艦・嚮導駆逐艦各1隻。上陸用舟艇70隻以上。他不確定戦果無数。


 ジェリコのラッパと恐れられた『ユンカース Ju-87』。その最も優れた奏者。


 憧れた。その才覚に。生命力に。適応力に。柔軟性に。運に。仲間に。戦術思想に。


 だが憧れは憧れ。どれほど他人を真似ようと、その人物に完全に成り代わることなど出来はしなかった。


 死ぬ前は。


 竜舎の片隅。一際大きな体躯を縮こまらせ、誰にも相手にしてもらえずしょぼくれていた一匹の竜。


 頑丈で力持ちで芯が強く心折れない。たった一匹の友。


 急降下して地上の憎き敵兵の目玉の色まで分かるほどに地面が接近しても、手綱の主導権を奪わず従順に飛び続ける心強き戦友。


 彼がいれば、彼といれば、この頭の中にある知識と共に私は異世界のジェリコのラッパを吹き鳴らす奏者に成れる。


 そう信じた。


 生き返った後は。




・・・・・

・・・・

・・・

・・




「何処のお貴族様か知らんがな。こいつを選ぶのだけは止めておけ。鈍重で速度もトロい、力と体内魔力はそこら辺のワイバーンより大きいみたいだがそれだけだ。空に上がっても直ぐに墜とされて終わりだろうよ」


「構わんよ。」


「…何?」


 竜舎担当は訝しげな顔をした。

 当然だろう。訓練を済ませたばかりの新米がいきなり来たかと思えば一番才能も可能性も無いと見られている穀潰しのワイバーンを持っていこうとしたのだから。


「あんたそのデカブツで空中戦をするつもりか!?新米だからってそんな死にに行くようなマネはさせられんぞ!!」


「私は一言もこのワイバーンで空中戦をするなどと言ってはいないぞ。」


「まだカラも取れてないようなヒヨコが生意気をほざくな!空中戦をせずして竜騎兵が何をするというのだ!」


「地面を這いずる敵兵共をぶっ飛ばすのさ。」


 その一言に竜舎担当の顔が更に真っ赤に染まる。

 予想できた反応だ。

 まず第一の問題に戦闘用に成れるワイバーン自体が決して多くはない。さらにこの世界のワイバーン自身は飛び道具(口から火を吐く等)を持たないのだ。

 対地攻撃は対空魔術師による撃墜の危険性を秘めており。おいそれと貴重なワイバーンを危険な地上攻撃に出すわけにはいかないということだ。


 では敵の魔法を防ぐ防御魔法を使えば良いのではないか?これもまた難しい。


 第二の問題としてこの世界の人間が使う魔法は専用の魔方陣を地面なりに展開して魔力を通すことで発動する特殊なもので、その威力は魔方陣の大きさと注いだ魔力の規模で決まる。

 防御用魔法を展開しながら同時に攻撃用魔法を発動するにはワイバーンの背は狭すぎるのだ。

 小さなワイバーンの背中では大きな、または複数の魔方陣を展開するには狭く、かといって小さな魔方陣に大量に魔力を注ぐと今度は注いだ魔力が暴走して暴発の危険が出てきてしまいこれも実用的ではない。

 

 全く無意味ではないがワイバーンによる地上攻撃はあくまで補助的なものである。それがこの世界の竜騎兵に対する軍の考え方だった。

 だからこの世界のワイバーン、ひいては竜騎兵の仕事は航空偵察や味方の魔法攻撃の弾着観測、そして敵ワイバーンを撃墜するための空対空戦が主と第一次世界大戦頃の航空機が持っていた役割に近い物となっている。


 ワイバーンで対地攻撃をすると言う事は自殺行為。


 我が子のようにワイバーンを育ててきた竜舎の人間にとっては例え失敗作呼ばわりのワイバーンと言えども看過できるものではなかった。


「ふざけるな!貴様がのたれ死のうと知ったことではないがそれにワイバーンを巻き込むな!!」


「だからそうならないためにあのワイバーンに乗りたいんだ。頼む。」


「駄目だ駄目だ!!そもそも貴様上官に許可を取っているのか!?」


「あるわけ無いだろう。」


「帰れ!!」


 けんもほろろに追い返されてしまった。

 分かりきっていた結果だがこのままでは居られない。

 何とか急降下爆撃を、対地攻撃がワイバーンにも出来ることを証明しなくては…。




・・・・・

・・・・

・・・

・・




 その日は以外にも早く訪れた。

 領土争いで小競り合いが続いていた隣国が遂に振り上げた拳を振るったのだ。

 敵軍は電撃的に我が国の領土に侵攻し、国境防備隊はとうに突破された。

 我が陸軍も奮戦しているが唐突な開戦に準備が整わず、また侵攻された地域の諸侯も足並みが揃わず苦戦が続いていると言う。

 何より戦局が厳しい最大の理由がある。

 敵はこの侵攻に際してありったけの砲撃魔法陣と魔術師を投入したのだ。

 先制攻撃により戦略的要地を奪われ、そこに砲撃陣地を築かれた結果領土奪取のため来援した我が陸軍は散々に砲撃を受け、敵本隊に攻撃を仕掛けることすらままならぬ有り様となってしまったのだ。

 このままでは戦闘の敗北と実効支配の既成事実を以て我が国の領土を奪い取られてしまう。


 だが私はこれをチャンスだと確信した。


 味方偵察部隊による情報収集の結果、敵方のワイバーンは数も少なく有力な空中戦エースも来援していない。対空魔法による偵察の妨害も見られなかったそうだ。

 完全に陸戦を以て我が軍の反撃をを跳ね返す腹積もりのようだ。

 つまり敵の空に対する警戒心はほぼ0と見て間違いない。

 そうと決まれば話は早い。


 この日のために準備していた物がある。


 我が味方に砲弾の雨を降らせる憎き砲撃魔法陣陣地だ。

 ここを吹き飛ばせば我が陸軍は砲撃を気にせず敵軍と交戦することが出来る。砲撃支援の無い隣国の軍など烏合の衆に過ぎない。

 所詮奪うことでしか身を立てられないあの隣国には似合いのプレゼントになるだろう。


「……さあ、我が闘争を始めようか」




・・・・・

・・・・

・・・

・・




 狙う出撃時間は払暁。

 当直の兵には金を握らせ黙らせた。

 私を追い返したあの竜舎担当が勘の良い事に立ちはだかったがそれすらも殴り飛ばして気絶させた。


「…さあ、行こう。お前が穀潰しや失敗作等ではないことを証明するために」


 竜舎入り口の騒ぎを聞いて起き上がってきたのはお目当てのワイバーン。

 彼は品種改良が進むワイバーンの世界においてより速く、より強く、より遠くまで飛ぶワイバーンを目指して作られた一匹であった。

 だが出来上がったのは体は大きく有り余るほどの力を持つが鈍重なワイバーンだった。


 軍は彼を失敗作と断じた。


 体が大きくては的になり、力が強くても乗せるのはせいぜい人一人ないし二人で過剰すぎ、そして何より遅すぎる事が本来の開発目的とは絶望的にかけ離れていたから。

 そんな彼に私が目をつけたのには勿論理由がある。

 まず体の大きさ。実はワイバーンが体内に持つ魔力はその体の大きさに比例して多くなるのだ。更に体が大きいと言うことは展開できる魔方陣も大きく出来る。

 次に過剰とまで言われた力。これは言うまでもなく重い爆弾を抱えても楽々飛行することが出来る事に直結する。爆撃機においてペイロード(搭載量)は正義だ。それは前世界の各国が爆撃機に大量の兵器を搭載しようと試行錯誤したことで証明されている。

 そして速度。確かに偵察や空中戦において速度はその優劣あるいは生存性を高めるために必要な一つの要素だ(勿論爆撃機でも)。だが速すぎる速度は爆撃機には必要とされない物でもある。


「お前が生まれてきた意味を作ってやる。誰にも文句を言われない。何者にも犯すことの出来ないお前だけの領域を与えよう。」


 首をもたげ、じいっと私を見つめるその琥珀色の瞳を私もまた見つめ続けた。

 のそりと動いた彼の鼻先が私の側でひくひくと動く。


 私は動かない。ただ見つめ続ける。


 彼の鱗が私の腕や脚をなぜる。


 私は動かない。ただ見つめ続ける。


 彼が私を再びじいっと見つめた後、首を曲げ自らの背を私に向けた。


 私はようやっと動いた。彼の背にまたがり。竜舎を後にした。




・・・・・

・・・・

・・・

・・




《飛行場に居る竜騎に告ぐ!離陸許可は下りていない!直ちに竜より降りて守備兵に投降せよ!》


 困った事になった。あの勘の良い竜舎担当が私と彼とが離陸する直前になって管制塔へ駆け込んだのだ。お陰で通信には管制塔指令の怒鳴り声がガンガン鳴り響いている。


《投降せよ!投降せねば脱走兵として貴様を処刑する!!》


「脱走ではない。私は戦場へ征くのだ。」


《新米風情が賢しらに戦場などとほざくな!》


 押し問答は平行線以外に辿る道は無いようだ。

 ここで味方とやりあっている暇はない。


 早く 早く翔びたい 彼と 彼を無価値などと宣う者など存在せぬ空へ!


「征こう。相棒」


 言葉はそれだけで十分だった。


 彼の大きな翼が一かき羽ばたく。それだけで体が浮き上がる。

 もう一かきで土埃が舞い立ち、此方へ向かっていた守備兵達が顔を覆った。

 最後の一かきで私達は重力から解放された。

 飛行場はみるみるうちに小さくなり、地上は遠くなる代わりに雲が近くなった。


 もうすぐだ


 もうすぐこの空が彼と私の吹き鳴らすラッパの音に支配されるのは!




・・・・・

・・・・

・・・

・・




 辿り着いた戦場はひどい有り様であった。

 敵軍の砲撃に良いようにやられ、あちこちに無惨な骸の山とへし折れた元は鮮やかだったであろう軍旗の残骸が転がっている。

 我が軍はどうやら一度砲撃の射程外へ下がり体制を立て直しているようだ。

 戦場の端に集まりつつある。見慣れた我が軍の軍服の色の塊が見える。


 対して憎き敵軍はその惨憺たる有り様の我が軍に引導を渡さんと既に突撃体制を整えてしまっている。

 時間が無い。

 早く敵軍に痛烈な一撃を与えねば我が軍は押し潰され、隣国の更なる増長を招くことになるだろう。


《上空の竜騎兵に告ぐ。貴騎の所属と作戦目的を明らかにせよ》


 通信が入った。どうやら地上のどこかの部隊が私を見つけたのだろう。


「此方はサン・ラスゴー基地所属騎、作戦目的はーーー」


 さてどう言ったものか。

 救援にしては頼り無く、攻撃にしても小勢過ぎる。

 ……いや、悩むこと自体が野暮か。私達が此れからする事などーーー


《サン・ラスゴー基地騎、応答せよ。貴騎の作戦目的を明らかにせよ!》


「此方サン・ラスゴー騎、作戦目的は…」


 決まりきっている。


「急降下爆撃である」


《は?》


 相手の間抜けな声を聞き流して通信を遮断。

 目標を見定め彼に命じた。


「目標、12時の方向。敵砲撃魔法陣陣地!」


 彼は分かった、と言うかのように一鳴きすると再びその大きな翼を羽ばたかせた。

 速度が上がり、私達は少しずつ敵軍の陣地上空へ進出してゆく。

 この段に至っても敵陣からは一匹のワイバーンも上がっては来なかった。好都合だ。

 大方偵察騎ばかりで相手にする気すら頭に無かったのだろう。


 今、その嘗めくさった考えを改めさせてやる。


 彼の胴には訓練の片手間に収集してきた大量の火薬岩(発火・爆発しやすい極めて危険な鉱物)をたっぷりと詰め込んだ樽がくくりつけられている。

 その樽は私の手に握られた括り紐をほどく事で重力に従い、落下する。


 だが、それでは意味が無い。


 最も正確に。


 最も確実に。


 最も多数を。


 打ち滅ぼさねば意味が無い。


 そしてそれを成す力は既に私の手元に揃っている。


 後は実行するだけだ。この手で。


 たった一人と一匹のLuftwaffeルフトヴァッフェで!





 敵陣地上空に遷移し、照準を定める。


 敵陣ど真ん中。砲撃部隊の指揮官が居るであろう、中央の一際大きな魔法陣。


 竜騎を反転し地上の空を見上げながら、それを見据えた。


 手綱を引き、逆落としに地上の空へ急上昇急降下。


 猛烈な空気抵抗の嵐が私と彼の全身を切り裂くように吹き抜けた。


 急降下の気持ち悪いほどの浮遊感が私の体を彼から引きはなそうと襲いかかる。


 だが、それらすらも私達を止める何者にも成れはしない。


 背中から不気味な風切り音が響き始めた。


 出撃前に彼の尾に括り着けた自作吹鳴機がその強烈な風を受けて、猛烈な音を奏で始めたのだ!


 最初は《ヒュゥゥゥゥ》という抜けるような音色が。


 速度を増すにつれ、より野太く、より震えて。


 《ヴ ヴ ヴ ォ ォ ォ ォ ォ !》


 と、獣のような咆哮に変わる。


 ヴ ヴ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ


 鳴れ


 ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ  


 鳴れ


 ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ  


 鳴れ、鳴り響け


 ォ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ 


 ジェリコのラッパよ!


 ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ 


 そして恐怖におののく敵兵共の目玉の色すらも分かる高度に達した時。


 ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ 


 括り紐の縄をほどいた。


 ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ

 

 ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ 


 ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ン ン ン ン !!







・・・・・

・・・・

・・・

・・




「では此れより此度の戦争の論功行賞を授ける!」


 退屈だ。


「その功は敵砲撃魔方陣陣地に対しこれまでに無い新たな戦術を以てその破壊を成し遂げた事にある!」


 退屈で仕方がない。

 こんな事をしている時間があったらさっさと基地に帰って、次の爆撃の為のシミュレーションと爆弾の改良がしたい。


「それではサン・ラスゴー基地所属ーーー」


 あの瞬間。投下した爆弾は確かに敵陣に命中した。

 落下の衝撃で火薬岩は盛大に爆発して、敵の指揮官や将兵も悉く人間だった肉塊(モノ)に変えて辺りに撒き散らした。

 だが投下高度が低すぎた。

 ラッパの音に心を支配されて、騎首を上げるタイミングが遅くなってしまった。


「サン・ラスゴー基地所属ーーー!」


 お陰で私と彼も爆風の余波をまともに浴びるハメになってしまった。

 念のために展開していた防御魔法が守ってくれなかったら私も彼も木っ端微塵になっていたことだろう。

 こんなことでは命が幾つあっても足りない。もっと自分の心を律しなければ次に肉塊になるのは敵ではなく私達だ。彼にも申し訳が立たない。

 それに爆弾も少し火薬岩の量を調整した方が良い。

 城壁のような堅目標ならともかく人や魔方陣相手にあの威力は明らかに過剰だ。

 それにゆくゆくは樽ではなく専用の爆弾筒と安定翼や信管も開発しなければ…。


「サン・ラスゴー基地所属 ルーデル少尉!聴こえているなら返事をせんかっ!!」


「あ?」


 五月蝿いな。せっかく人が新しい兵装の思索に励んでいるというのに…?


 ふと周りを見渡すと真っ青な顔で頭を抱える基地指令と慌てた様子の同僚達がいた。皆しきりに『前を見ろ!』と指を指している。

 そして目の前には憤怒をこれでもかと浮かべた、顔も始めてみる軍務大臣と呆れたような表情の王族のお歴々がいた。


「貴様ァ!ここを何と心得る!?畏れ多くも国王陛下御自ら貴様に論功行賞の授けて頂く場で有るぞ!!」


「申し訳ありません。新しい爆弾の設計と今回の失敗の反省をしておりました。」


「そのようなことなど後でせいっ!」


 ごもっとも。


「まあ待て大臣よ。ここはお主の言うとおり論功行賞の場、説教をするところでもないぞ?」


「しかし陛下…」


「私が良いと言ったのだ。ここは引いてくれ。」


「……ハッ」


 そうして軍務大臣は引き下がった。代わりに私の前にたったのは国王陛下その人。


「サン・ラスゴー基地所属。竜騎兵ルーデル少尉。その戦功に対し一等騎士十字章を授けるものとする!」


「ありがとうございます。」


「その功とお主の生み出した新たなる戦術を以て更なる活躍と戦果を期待するぞ?」


「必ずやその期待に応えてみせます!」


「宜しい」




・・・・・

・・・・

・・・

・・




 この年の隣国による侵攻に対しルーデル氏(当時少尉)が行った攻撃が世界で初めて行われた急降下爆撃と言われている。この攻撃において氏はたった一騎のワイバーンを以て砲撃魔方陣9門を破壊、魔術師及び部隊指揮官は全滅というすさまじい戦果を挙げた。

 この攻撃によって砲撃支援を失った隣国軍が敗北へと至る契機となったのは言うまでもない。


 中略


 氏が指揮を執った事のある部隊は皆ワイバーンの尾に特殊な吹鳴機を括りつけており、急降下時の風圧によって独特の吹鳴音が響くようになっていた。

 この吹鳴音は敵軍から『魔王の咆哮』と呼ばれ、この音を聞いた者は将兵を問わず恐慌状態に陥り、中にはその音を聞いただけで恐怖のあまりショック死してしまう者まで現れたという逸話も残っている。


 中略


 氏が生涯で挙げた戦果がどの様なものであったか。此れは未だに謎が多い部分でもある。

 否定的な考えを持つものはその戦果は氏個人の物ではなく部隊単位での戦果がいつしか氏の戦果と混同されたのだとする説や氏が半ば妄執と取れるほど戦果と出撃にこだわり続けた事から他人の戦果を横取りしたと言う説を挙げている。

 一方で軍に残された裏付けがとれている戦果記録簿の数字だけでも他の追随を一切許さない圧倒的な戦果を挙げていた事実、そして氏と共に戦場を飛んだかつての同僚部下達が口を揃えて氏が指令部の許可を得ず無断で出撃を繰り返していたと証言している事から、実際の戦果は公式の数字よりも遥かに多かったと言う説もある。



    ーーーユニバーン出版 急降下爆撃の父より抜粋






執筆の為にルーデル閣下の事を改めて調べたら何度読んでも乾いた笑いしか出ない…。

何だこの人外(褒め言葉)。

コロナウイルスもこの人に頼めば悉く吹き飛ばしてくれるんじゃないかな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 対地戦だけでなく、対空戦闘でもエースだったのが恐ろしいですよね。ジョークだろうけど対戦車砲で撃墜したから木っ端微塵で未確認で撃墜スコアに入っていないのもあるとか、…ジョークだよね?
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