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Reversal  作者: RIKO(リコ)
第1章 Reversal
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1.ルナシティの夜(挿絵あり)


         挿絵(By みてみん)



 3月21日のAM1:00

 ルナシティの夜は3月とはいえ、更けるにつれてどんどん気温が下がっていった。みぞれまじりの雨まで降りだし、雨粒が配車式のCity Cabタクシーの窓に水滴の跡をつけてゆく。

 女刑事のリアは、繁華街で保護した少女を彼女の家に送り届けようとしていたのだが……


”3月1日の午前0時。3月8日の夜更け、3月14日と15日の明け方、そして昨夜の午後10時”


 メインストリートから乗り込んだCity Cabのカーステレオから乾いたようなキャスターの声が響いてくる。


 ”ルナシティで、()()()()()()の被害者と思われる5人目の少女の遺体が発見されました”


 リアはため息をついた。たった1ヶ月の間に5人もの犠牲者が出た。しかも、全員が少女だ。

 隣に座るふてくされた顔の少女に言う。


「その恰好! 上半身はほとんど裸と変わらないじゃないの。非番でたまたま拾ってやったのが私で運が良かったのよ。こんな物騒な時に、そんな恰好で未成年が繁華街で遊んでるだなんて、危ないと思わなかったの!」


「うるっさいなあ。上着、持ってるからいいじゃん。それに、この服は今の流行り。イケてるって彼氏も言ってくれてんのに。それにさぁ、親は職なし、金なし、常識なしで、親父はDV。年がら年中、夫婦喧嘩ばっかで、家に戻されたって、なぁんにも、いいことなんてないんだから」


 とりあえず、City Cabを呼んで、少女の家に向かっているものの、この娘の家庭環境は、健全にはほど遠いようだった。


 薄い金髪をかきあげて、リアは鼻白む。


 ルナシティには、こんな風に、行くあてのない少女たちが溢れてる。そして、彼女たちは知らずのうちに都会の危険な罠に飲み込まれてしまうのだ。


 ”切りがない。こんなことをしていても"


 運転手が声をかけてきたのは、リアが頭を抱え込みたくなってしまった直後だった。


「非番なのに通りすがりの不良娘を保護なんて、()()()()は仕事熱心だねぇ。でも、いいの? 今、向かってるデイブレイク通りって、正真正銘のスラム街だぜ」 


 からかうような笑みを浮かべて、振り向いた若い運転手。浅黒の肌と黒い髪、東方からの移民だろうか。切れ長の目がやけに鋭い。リアは一瞬、戸惑いの表情を見せた。その理由は彼の風貌に魅せられただけではなかった。


 この男……どこかで見た覚えがある。


「あなた、なぜ、私のことを知ってるの! 私は職業のことなんて一言も言わなかったのに」


「あー、それね。俺、これまで、何回かあんたを乗せてるから。その時の会話の端々から、職業なんて何となく察しが付く」


 迂闊だったと、リアは小さく舌を鳴らした。これまでも非番の日に少女たちを保護してCity Cabを呼んだことがあったが、こんな得体の知れない若造に職業を知られるなんて。

 運転手はしたり顔で言葉を続ける。


「あんまり生真面目に考えすぎるとさ、疲れちまうよ。け・い・じさん。そーいう時は、何かぱあっと派手にやらかしちまった方がいいんだ」


「あははっ、そだねー。今、流行りみたく、誰かの首を絞めちゃうとかさあ」


 隣に座る少女があげた無神経な声が、さらにリアの気持ちを逆撫でた。


「能天気な娘さん、私は、あなたがそうならない事を切に願うけどね」


「やだなぁ、能天気娘じゃなくて、私の名前は、ジュリエット! ()()()()()()ジュリアって呼ばれてるけど、親からもらったものの中で気に入ってるのは、この名前だけかなぁ」


 ふん、名前だけは可憐ってとこかしら。こんなガサツな娘を保護してやったって、意味がないような気がしてきたわ。

 小さく息を吐くと、リアは若い運転手に言った。


「運転手さん、とりあえず、デイブレイク駅まで行って。そこで降りるわ」


「あれぇ、通りに入る手前で降りちゃうの? その娘を家に送ってやるんだとばかり思っていたのに」


バックミラーに映った運転手の薄笑いの顔を、リアはぎろりと睨みつける。


「この娘は、家に帰ってもどうせ繁華街に戻って来るに決まってる。デイブレイクに馴染みにしてるホテルがあるから、とりあえず、今夜はそこに泊ってもらって、明日は警察署でお灸をすえることにしたわ」


「ふぅん……ホテルか? その娘、一人で? それとも、刑事さんと一緒に?」


 くくっと背中で笑った運転手の妙な言葉の抑揚にリアは、ぴくりと眉を動かした。


 この男……言動が不審だ。

 そういえぱ……


「運転手さんは、この辺りで商売してる人? でも、あなたとはどこか違う場所であったような気がするんだけど」


「さぁね。俺はそんな覚えはないけどね」


 運転手は、そう答えると、突然、City Cabのスピードをあげた。


「ねえ、女刑事さん、こんな歌、知ってる?」

 

 少しセンチメンタルな調子で、彼が口ずさんだのは、こんな歌だった。



What my finger touches

(私の指が触れるのは)


The secret home of her heart.

(彼女の心の秘密の棲家)


My song is soft

(私の歌がやわらかに)


The singing voice

(その歌声を)


Replace it with gentle words

(やさしい言葉にすり替えて)


Steal her life

(彼女の命を奪ってゆく)


Inviting to a friendly retreat

やさしい隠れ家に誘いながら














 

 


 




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