千年木の判定
「いいかい?いち、にの、さん、で前足を入れて宣言するんだ。それでいいね?」
アキコは、きっぱりと言い切り、ヒデキは、それに答えます。
「おうよ、望むところだ。」
いち・にの・さん!
「私、アキコは、捕まえた虫の数は芋虫4匹です。」
「俺、ヒデキは、ヤゴ3匹とバッタを3匹とりました。」
二人は大きな声で、同時に叫びました。
二人とも、自分の言葉を信じていますが、千年木の根が、間違って締め付けはしないかと、気が気でありません。
1秒、2秒と時が進むと、心臓がドキドキして、耳が下がってきます。
が、何もおこりません。
相手の悲鳴も聞こえては来ません。
アキコとヒデキは、おそるおそる、お互いの顔を見つめました。
「う、嘘じゃなかったのかい?」
アキコが、不安そうにヒデキに聞きました。
「俺は、恋愛以外で、雌に嘘はつかないアライグマだぜ。」
ヒデキは、前足を根に突っ込んだまま、魅力的なウインクをアキコに飛ばして、アキコをあきれさせました。
と、言うことは。
アキコとヒデキは、一緒にゴローの前にかけて行きました。
「ゴロー、アンタだね!1匹も虫をとらなかったのかい!どうなんだいっ。」
無実のヒデキを疑っていたアキコは、真犯人を見つけた刑事のようにゴローに詰め寄りました。
「え?おれ?俺もちゃんと採ったよ。バッタを3匹。アキコさんが、それでいいって言ったでしょ?」
真犯人にされたゴローが、今度は不機嫌になりましたが、なんだか、頭の中で、何がが気になります。
「本当かい?なら、バッタはアンタの腕から逃げだしたのかね。」
アキコは、不思議そうに首をかしげました。
コマドリのヒロミは、みんなの様子を見つめていましたが、やがて、艶やかなゴローの胸毛にうごめくモノを見つけて叫びました。
「見つけましたよ。ゴローさん、皆さん、ありがとう。」
ヒロミはそういって、ゴローの胸毛の辺りにとまり、
毛に絡まるバッタを器用に1匹、2匹、3匹と飲み込みました。
「そうだ!俺、そこにしまったんだ。忘れていたよ。」
ゴローは、照れ笑いをうかべ、アキコは不服そうにゴローを前足で軽く蹴りました。
「全く、人騒がせなんだから。」
アキコは、そういって草原に伏せて休みました。
「まあ、そんなにショゲルなよ。そんな風に伏せてると、せっかくの美人が台無しだ。」
ヒデキは、優しくアキコを気遣いました。
「すまないねぇ。私と来たら、短気で。どうして、ゴローの事を疑わなかったのか!ああっ。」
アキコは前足で、自分の頭を押さえ込んでしまいました。
それを見ていたコマドリのヒロミが、アキコの背中に止まりました。
「アキコさん。みなさん、本当にありがとう。お礼に一曲歌います。」
ヒーン、カラカラ。
♪ここは素敵な、夏の森。
ゆかいな仲間が集まって
喧嘩もするけど、仲良しさ。
ヒロミの澄んだ歌声を聞きながら、ゴローがアキコの前に座り込みました。
「ごめんね、アキコさん。」
「もう、いいんだよ。」
ゴローとアキコも仲直りしたようです。
風の精も、ヒロミの歌に合わせて踊ります。
本格的な夏は、もうすぐそこです。






