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競争

「私はあっちの倒木の下を探すからね、ゴロー、アンタは体が大きいから、この原っぱで虫を探しながら、私のとる虫も預かってくれないかい?その代わり、アンタは三匹も取ればいいからね。」

アキコは、早口でそう言うと、待ちきれないように倒木の辺りに跳び跳ねて行きます。


「おっと、先を越された。俺は、向こうの水溜まりを見てくるから、よろしく頼むよ、ゴローさん。」

アライグマのヒデキも、慌てて走り出しました。


取り残されたゴローは、爽やかな夏風に鼻をくすぐられながら、楽しそうに原っぱの昆虫を探しはじめました。


が、しばらくすると、アキコとヒデキが何度も虫を持ってくるので、逃げないように両手で掴むだけで精一杯になりました。


しばらくすると、子供に餌を与え終わったヒロミが、次の餌を探しに戻ってきました。


「あらっ。お久しぶりだね。ヒロミちゃん。」

アキコは、嬉しくなって少し高い声でいいました。

「お久しぶりです、狐の姐さん。」

ヒロミは、綺麗な声を天に飛ばしながら、嬉しそうに挨拶をしました。

「おおっ、ヒロミじゃねーか。」

しばらくすると、ヒデキも帰ってきて、ヒロミに挨拶をしました。

「お久しぶりです、ヒデキさん。」

ヒロミは、空を飛びながら楽しげなハミングをして挨拶しました。



「そうだ、ヒロミさん、赤ちゃんの誕生おめでとう。私たちから、ささやかなお祝いだよ。受け取ってくれるかい?」

アキコは、尻尾で軽くゴローを叩いて、両手の中の餌を見せるようにうながしました。


ゴローは、一瞬あわてて、そっと、重ねた前足をヒロミのすぐ前に開いて見せました。


「うわぁ、おいしそうな餌がこんなに!いいんですか?」

ヒロミは、ゴローの肩にとまり、嬉しそうにハミングをしました。


その綺麗な音色にうっとりとしながら、

「いいんだよ。喜んでくれたんなら。ほら、(ひな)が小さなうちは、いくら餌があっても足りないだろ?」

アキコが少し照れながらいいました。


でも、幸せだったのはそこまででした。


「まあ、気にするな、6匹と一番虫をとってきたのは、俺だけどな。」

ヒデキの一言に、アキコがかみつきました。


「はぁっ?嘘つくんじゃないよ。ゴローの前足には虫は10匹しかいないじゃないか!」


そうです、ゴローの前足には


芋虫が4匹


バッタが3匹


ヤゴが3匹の、合計10匹しかいません。


水辺を探していたヒデキがバッタをとってきたとは思えないので、ヤゴの三匹がヒデキの採った虫の数だと、アキコは思いました。


「ヒデキ、アンタ、ヤゴは三匹しかいないじゃないか!数も数えられないのかい?」

アキコは、怒りに任せて少し、きつい言葉をヒデキに投げ掛けましたが、ヒデキも負けていません。

「ああっ?他にバッタもいたろう?それも俺のだぜ。アキコさん、老眼にはまだ早いんじゃないかい?」

アキコに叫ばれて、ヒデキも喧嘩腰に言い返します。

「な、なんだって!」

老眼と言われたアキコは、背中の毛を逆立てて唸りだし、コマドリのヒロミは、キツネとアライグマのにらみ合いに、悲しい気持ちになりました。


「お願いです。喧嘩はやめてください。」

ヒロミの悲しい鳴き声も、怒りに我を忘れた二人の耳には届きません。


「やるかい?」

アキコは、前足を揃えて、頭を低く構え、ヒデキを威嚇しました。

「おおっ、望むところじゃねーか!」

気性の激しいアライグマのヒデキもうなり声て答えます。


ゴローは、どうしていいか、分からずにオロオロしました。


激しい噛みつきあいなんて、あったらどうしよう?

ゴローとヒロミは、喧嘩っ早い二人の様子に、ただ見つめるしかありません。


「僕は、本当に皆さんの気持ちだけで。」

コマドリのヒロミの物悲しい鳴き声も、アキコの挑発的なうなり声にかき消えます。


「いい度胸だ。それじゃあ、千年木の大先生に聞いてみようじゃないか。ヒデキ、アンタが本当に、うそをついてないなら、あの、千年木の根に前足を入れて、そう宣言できるはずだよね?」

アキコは、上から目線で挑戦的にヒデキを睨みました。


アライグマのヒデキは、一瞬、アキコの勢いに圧されてしまいましたが、すぐに持ち直して言い返しました。


「ああ、いいとも。その代わり、アキコさん、アンタもこの木の根に前足を突っ込んで、俺のバッタを取ってないことを証明しろよ。」


木の根の広場には、むき出しの複雑にからむ木の根があり、その根のところでうそをつくと、根が怒って嘘つきを締め上げるのです。


果たして、どちらがうそをついついるのか?


ゴローと、ヒロミは、噛みつきあいの喧嘩にならなかったことを、ひとまず安心しながら、競うように木の根に向かう二匹を見つめていました。


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