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第8話 無表情アルビノロリとお買い物するやつ 後編

 今日はいつもの買い物よりも少しだけ足を延ばして、隣の市のデパートへやってきました。休日だけあってとても人が多いです。

さて、心配していた偽装だけども、効果はしっかりと発揮されている。地味な服を選んで着せているし、髪も黒のウィッグでごまかして、帽子もかぶせているので、どこからどう見ても普通の美少女。変に注目されることもなく歩き回れている。あとは……


「……」


 食品コーナーを歩いていると、ソワソワと落ち着きなくあたりを見回している。楽しんでいるのだろう、顔には微笑みが浮かんでいるから、目立つからやめろと言うわけにもいかず……進んで赤の他人に関わろうとする人はなかなか居ないだろうけど。


「楽しいか?」

「はい」

「ならいいか」

「……すみません、こういうものを見るのは初めてで。目立ちますよね?」

「大丈夫。日本人は知らない人には声をかけないから」


 せっかく楽しんでいたところに水を差してしまった。反省。今日は彼女の息抜きなのに気を使わせてどうする……とは思うものの、町の外とはいえ、片道一時間以内にある範囲では一番大きなデパートだ。休みの被った知り合いと出くわしてもおかしくはない。気を付けるに越したことはないのだが。


「わぁ……」


 楽しんでいる彼女を見ていると、気を遣うのも悪い気がする。彼女は人の空気に敏感だ。こっちがピリピリしているとすぐに感じ取る。リラックスしよう、リラックス。知り合いなんて居ても気付かれないさ。そのために変装しているんだから。


「今夜は何が食べたいですか?」

「んー……鍋?」


 寒くなってきたし、温かい料理といえば鍋だろう。具材を切って、だしと調味料を入れた鍋で煮るだけ。簡単だ。料理を覚え始めたばかりの彼女にも作れるだろう。


「では材料を買いましょう」

「食べものは一番最後に買おう。嵩張るから」

「あ、そうですね。ここではチューブの食料なんて」

「一応ある」

「……あるんですか」


 わかりやすく驚いたような、あるいは絶望したような顔をする。今日は珍しく表情がよく変わって、見ていて面白い。もっといろんな表情を見せてもらいたいものだな。


「どうしてこんなに食べ物があるのに……」

「気持ちはわかる。それでも必要とする人がいるから置いてある。味は悪くないらしい」

「そうですか」


 仕事が忙しくて料理をする時間がないから代用食で済ませているのに、それがマズかったら人間正気じゃいられなくなる。だからブラック企業なんてもんが蔓延ってるんだが、それは今は関係ない話だ。


「話を変えようか。買い物は腹が減ってると余計なものまで買いたくなるから、先に昼を食べてこよう。何が食べたい?」

「お任せします。料理の種類はさっぱりわかりませんので」

「そうかー……うん、そうだよな。パスタでいいか?」


 箸はまだ使い慣れないようだから、フォークで食べられるし、なじみはさておき癖の少ないパスタで。そのあとデザートに紅茶とケーキ。ドイツ出身らしいからパスタについてどうこうとは言わんだろう。


 そんなわけで、デパートの中のレストラン街に向かう。和食に中華、インドとか色々あって、隣を歩く少女は一歩進むたびに目を奪われている。さっき自分で目立つことを気にしていたというのに、それを忘れて無邪気なものだ……だが、夜中に男にまたがって誘うよりよほど健全で、いいじゃないか。


「ここにしよう」


 パスタ屋の前で足を止める。


「いらっしゃいませ、何名様ですか」

「二人です」

「おタバコは……禁煙席でよろしいですか?」

「禁煙席でお願いします」


 子供連れと見て、か。ちゃんと気配りのできる素敵な店だ。


「こちらへどうぞ」


 笑顔で案内され、店の中に入ると食欲をそそるいい香りがしてきた。席に座り、メニューを開いて少女に渡して、水を入れてと。


「ご注文がお決まりになったら、ボタンを押してお呼びください」


 この店に入るのは初めてだけど、雰囲気は悪くないし値段も普通。いいんじゃないかね。俺が頼んだのはポモドーロ。理由は家じゃなかなか作らないし、美味しそうだったから。彼女が頼んだのはペペロンチーノ。最初は俺と同じものを頼もうと思っていたらしいが、真っ赤なトマトに混ざるミンチが嫌なものを思い出すとかで変えたらしい。



 そんな感じで、美味しいお昼ご飯を食べました。相方も満足してくれたようで何よりです。

 ランチの後は本人の希望のショッピング。といっても、本人が買いたいというものはほとんどなく、棚に並ぶ商品を眺めて楽しむウィンドウショッピングがメインだった。実際に買ったのは食料品と日用品を少し。今晩の鍋の具材、肉と野菜と豆腐。それからオヤツ代わりにドーナツ屋でいくつかドーナツを買って、自分用の本を買って。その後帰宅という流れ。


「満足してもらえたか」

「はい。とても……本当に、ありがとうございました」


 帰りの車の中で少し話をしたら、疲れたのか助手席で眠ってしまった。自分がよもよく車内で寝るので、ちょうどよく積んでいた毛布をかけて。道中眠気覚ましのコーヒーを買い、すぅすぅと穏やかな寝息をBGMに、いつもよりのんびりとした気分で運転できた。


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