無表情アルビノロリに寝込みを襲われかけるやつ
――この世界に善人など存在しない、と言ったのは、私を殺してくれた人だった。
では、今私のいる世界は、前の場所とは違うのだろうか。行き倒れている私を助けた、という人は、何も見返りを求めないし、受け取ろうとしない。無償の奉仕。気味が悪い。
「さすがにそんなことを言われると傷つく」
「傷つけるつもりは……無いといえば嘘になりますね。ええ」
だから強引に押し付け……受け取ってもらうために縛ろうとしたけれど、思ったよりも早く目を覚まされて、抵抗されたせいで失敗に終わった。今は床に座らされ、事情の説明をさせられている。
Side change!
「恩を返すならまた違う方法にしてくれ……頼むから」
草木も眠るウシミツアワー。あわや俺の相棒がビーストモードになってしまうところだった。鋼の理性で耐えたが、次されたらやばいかも。
「失礼しました。同性愛者でしたか」
「違う。異性愛者だ。どういう環境で育てられたかは知らんが、お前のしようとしたことは法に触れる」
「バレなければ問題ないのでは?」
「倫理の問題!」
「これ以外にできることといえば殺人くらいですが」
「もっと駄目だろ常識的に考えて」
「申し訳ありません。私の常識は一世紀後のものですから、あなたの視点からすると大半が非常識になるかと」
「殺人や児童買春が普通とか……どんな世紀末」
「多少の秩序はありましたが、概ねその通りです」
「マジかよ。地球がたった百年でそんなことになるなんて絶望した」
「生きるためにはあらゆる手段が正当化されます」
「そんな安っぽいSFじみたことが本当に起こるなんて信じたくないな」
しかし、起こってしまったのだろう。彼女の言うことが真実なら。
知恵と倫理のない人間は、ちょっと賢い猿でしかない。核戦争のあとなら教育機関なんて残ってないだろうし、そんな猿があふれかえっているんだろうな。自分がそんなところで生き残れるか? MU★RI!
「ちなみに肉と言えば人肉です」
「ホラーかよ」
道理で最初の飯のとき変なことを聞くと思った。人肉食が当たり前なら警戒するよな。うん、俺だっていきなり人肉を出されたらいやだ。
「ちなみに私はクローンです」
「SFかよ」
SFだよ。美少女のクローンがタイムスリップしてきたんだぞ。
「じゃあアルビノは大量コピーのせいで起きた劣化か?」
「正解です。意外と、と言うと失礼ですが賢いですね」
あてずっぽうで言ったのにあたってしまった。そして衝撃の事実。クローンの大量生産なんて、人権の欠片もねえな。
しかし現在先進国のドイツでそんな非道がまかり通るってことは、百年後は世界の大半が焼け野原なんだろうなぁ。
「外はこんなに静かなのに」
「虫が騒がしいですが」
「日本の風情だ。楽しめ」
外ではリーンリーンと鈴虫が鳴いて秋の訪れを報じている。ファッキンホットな夏を終えて気温が下がってきたおかげで、夜寝るのにクーラーがいらなくなったのは素晴らしいことだ。
「拷問では?」
虫の音が不快ならそうかもしれない。それならとヘッドホンを渡しておく。多少はマシだろう。そしてもう一度布団をかぶる。
「今度は朝まで起こすんじゃないぞ」
「起こさなければいいんですね。わかりました」
すれ違いしている気がしないでもないので、別の言い方にしよう。
「……朝まで俺に触るんじゃない。明日も仕事なんだよ」
「気が変わればいつでも仰ってください。私はいつでも応えます」
見た目は天使だが、中身は人を堕落に誘う悪魔だな。何かの間違いで手を出してしまえば人生お終いだ。怖い怖い。
もう一度布団をかぶって目を閉じる。彼女をどうするかは、またあとで考えよう。