無表情アルビノロリと同棲生活を始めるやつ
「フハハハハハ! わけがわからん!」
とりあえず事情の説明を受けたんだが、どうやらこの少女は頭がおかしいようだ。かわいそうに。あまりにおかしすぎて笑っちまったぜ、後でご近所様から苦情が来なきゃいいんだけど。
コロニーとかミュータントとか、SFの読みすぎかゲームのやりすぎじゃないのか、と普通なら笑い飛ばすところだが。彼女の纏う煤臭さと火薬臭さ、そして引き出しの中にある拳銃のせいで、完全に作り話だと思えないでいるのもまた現実。
「本当です」
「信じられん」
「私も信じられません。私の最後の記憶は、22世紀、旧ドイツにあるコロニーだったはずですが」
嘘を言っているようには見えないが、信じられないので嘘と仮定して考えてみよう。
「Hey siri! 東京からベルリンまでの距離は?」
『8,910kmです』
「……で、どうやってきたんだ?」
お茶を飲んで少し落ち着いたので、思考力も戻ってきた。やっぱり日本人は緑茶だな。緑茶サイコー、カフェインサイコー。
さて。思考フェイズだ。日本は島国だから、侵入するには空路か海路かの二択になるが、拳銃を持ってるなら空港で引っかかるだろう。海路で密航しかあるまい。汚らしい恰好もそれなら頷ける。だが、ここはど田舎の一軒家だ。人身売買なんてあってももっと都会の方だろう。
「わかりません。目が覚めたらここに居ました」
スマホで中国・日本間を運行するフェリーを調べてみたが、最低でも丸一日はかかる。ドイツから中国へ、中国から日本へという旅路を考えれば、その間に一度も目が覚めないということは麻酔でも使わない限りないだろう。
しかし、その割には元気そう。うん、わかんね。九郎は考えることをやめた。
「とりあえず、シャワー浴びておいで。浴室はあっち」
「ありがとうございます」
さて、これからどうしよう。とりあえず煤臭いのが気になるのでシャワーを浴びてきてもらおう。
「着替えは……俺のでいいなら適当にシャツを引っ張り出してくれ」
今日はそれで凌いでもらって。下着と服はamaz〇nお急ぎ便で買おう。サイズは本人に聞けばいいか……
この家はまだ見ぬ未来の嫁と同居するための家なのに、どうして見知らぬ子どもを保護する羽目になったんだか。しかもやたら美少女だし……何時まで居るかわからんし……警察に助けを求めるわけにもいかないし……早く保護者さんが引き取りに来ないと俺の鋼の理性がやばくて本当に犯罪者になっちまうかも。
いやでもこんないろんな意味でヤバイ少女の保護者が来たらなんて考えたくない。うごごごごご、どうすりゃいいのよ神様。
「……」
返事がない。神は死んだ。しばし瞑想。脱衣所からゴソゴソと音がするので、上がったようだ。
「食事だけでなくシャワーまで。ありがとうございます」
出てきた少女は、煤を落として真っ白になっていた。素肌にシャツを一枚だけ着た状態……裸ワイシャツ。肌ワイともいう。だったが、一瞬裸かと思うほど、彼女の肌は白い。洗濯したシャツと肌の色がほぼ同じで、色が違うのは三か所。赤い瞳と、薄いピンクの唇……服の下に透けるピンクの……目を背ける。そうするだけの理性はあった。
「……どうされました?」
「なんでもない。大丈夫だ。気にするな、近寄るな」
こちらの気を知ってか知らずか、ずい、と寄ってくる少女をけん制する。やめるんだ、俺の好みは18歳から25歳までだ。お前まだJK未満だろう、大人を惑わすんじゃない。
「……ああ。なるほど。一飯の対価として、体を差し出せと仰るならかまいませんよ」
表情を変えないまま、爆弾発言をしてくれた。鉄壁の理性に破城槌が襲い掛かる! 気合で耐えた! 偉い!
「ソレ犯罪だから。エロゲじゃないんだから。バレなきゃオッケーってもんじゃないから。さも当然のような顔して言うんじゃないクソッタレ! お前未成年だろ! 俺は風呂に入る! 風邪をひかないように髪を乾かしてベッドで寝てろ!」
「……肉体年齢は確かに。しかし」
「ベッドで寝てろ」
「はい」
「待ってろって意味じゃないからな!」
「はい。わかりました」
近所に聞こえない程度の声で言い聞かせたら、脱衣所に飛び込んで煤塗れの服を洗濯機に放り込んで(下着はなるべく直視せずに)、自分も服を脱いで熱めのシャワーを浴びて正気を取り戻した。
俺は正気だ、あんな年端も行かぬ子どもに欲情するようなロリコンじゃないはずだ。だというのに、こうも取り乱すのは。美しさというのは時に人を狂わせるものだな。彼女が美少女なのが悪い、いや悪いことじゃないが。ともかく俺は悪くない。
その日は床に布団を敷いて寝ました。フローリングに薄い敷布団一枚だと、背中が痛かったです。